思い込みの激しい悪役令嬢は円満婚約破棄したい。
私が前世の記憶を思い出したのは、我が国の第一王子であるゼイン殿下との婚約が内定したとお父様に聞かされた瞬間だった。
今世のものではない記憶が一気に流れ込み、その場で意識を失ったのは10歳のときだ。
と言っても、前世の記憶はおぼろげなものばかり。日本という国のただの大学生だった私は、若くして交通事故で亡くなったらしい。
今世の私は由緒正しきヴァレンティ公爵家に生まれ、両親と兄に溺愛されて育った。前世の記憶なんてこの世界では役に立たないし、そんなの思い出したところで意味ないわね、と私は意外にも落ち着いていたのだ。しかし!
前世の記憶を持った状態で初めてゼイン殿下と顔を合わせたとき、私は思ったのである。
(私って、悪役令嬢というやつなのでは……?)
前世の私が暇つぶしで読んでいたこういった世界が舞台の小説では、王子様は運命の相手と結ばれるのが定石で、婚約者を奪われた「悪役令嬢」は嫉妬に狂い、ヒロインへ嫌がらせや犯罪行為を行って断罪、国外追放や一家没落、処刑……とにかく散々な目に遭うのだ。
つまり、殿下の婚約者となった私は、この世界の「悪役令嬢」なのでは……!?
いかにも気が強そうなこの派手な顔立ちも、お父様に似た目つきの悪さも、公爵家の令嬢という鼻持ちならない身分も、まさに悪役って感じじゃない!
この婚約は正真正銘の政略だ。私の立場や歳が殿下の婚約者に最も相応しかったというだけ。
前世で読んだ小説では王子様の運命の相手というのは往々にして平民だったり爵位の低い令嬢だったりするのだ。今世でもそういう身分違いの恋をテーマにした小説が流行ってる!
つまり、殿下の相手は私じゃなくていいし、なんなら私じゃないほうがいいのである。
私が導き出した結論は、「殿下の運命の恋を全身全霊で応援するしかないわ……!」だった。
悪役令嬢として断罪されるなんて御免だし、大体婚約者に浮気されて邪魔者扱いで処刑なんて虚しすぎるし、私のせいで家族に迷惑がかかるのも胸が痛い。
婚約者という立場になってしまったことはもう仕方がないけれど、どうせ悪役令嬢なんて愛されないんだから殿下を他の令嬢にさっさと押し付けて婚約破棄しよう。そうしましょう。
殿下の恋のお手伝いに尽力して、とにかく恩を売って売りまくれば、一家没落とか処刑は免れるかもしれないし!
そもそも、私は王妃って柄じゃないのだ。お父様もお兄様もそう思っているようで、この婚約についてなんだかごにゃごにゃ言っていた。
それに殿下に婚約破棄されて嫁の貰い手がいなくなっても、うちの公爵家は私1人養うくらいのお金は有り余ってるもんね。
「リーゼ。聞いているのか」
はっとして顔を上げると、金髪碧眼の王子様が目の前にいる。ゼイン殿下は今日も今日とて目を見張るほど麗しい。
10歳でこれなんだからきっと成長した殿下はモテモテに違いない。いつどんなご令嬢を好きになられても、きっとうまくいくに違いないわね!
「先日倒れたと聞いたが、まだ体調が悪いのか」
「いいえ、この通りもう元気ですわ」
前世を思い出したことで倒れた私は3日ほど寝込み、殿下との顔合わせの日程もずらしていただいたのだ。しかも彼はお見舞いにお花も贈ってくださった。殿下は初めてお会いしたときから表情がほとんど変わらず口数も少ないが、形だけの婚約者にも気遣いを忘れない優しい方なのだ。深々とお礼を伝える。
差し込む光に透けて輝く金の髪も、紅茶に口をつける優雅なしぐさも、伏せられた長い睫毛も、うっとりするほど美しかった。「殿下」と呼びかけると、宝石のような瞳が私を映す。ふむ、なるほど。
もしも前世を思い出していなければ、私はこの人に恋をしていただろうか。政略も政略のこの婚約に特別な意味を見出し、殿下は私のものよと恥ずかしげもなく主張しただろうか。
でも私は知っているのだ、殿下の運命の相手は私ではないと。なぜなら私はこの方の恋の障害となる、悪役令嬢なのだから!
「殿下はいつかきっと、運命の相手に出会い、恋に落ちるでしょう」
「……は?」
殿下の表情がめずらしく僅かに変わった。美しい眉を寄せ、何を言っているんだこの女と言わんばかり。
無理もないわね。先日婚約者になったばかりの女にこんなことを言われるとは普通思わない。
「私の存在が邪魔になったときは遠慮なさらず教えてくださいね。婚約破棄する心の準備はすでにできております!」
「おい、リーゼ」
「殿下が心に決めた方なら素敵な令嬢に決まっております。私はあなたの幸せのために尽力することを誓いますわ」
「俺の婚約者はお前、」
「あら、私のことは気になさらないでくださいませ!婚約者といってもお互いの立場がそうさせただけのこと。殿下が私のことを愛する日が来るなんて、自惚れてはおりません」
「話を聞け」
「これからは恋愛結婚の時代ですわ!殿下が心から愛した方と結ばれ幸せになるのを、私は手助けしたいのです!」
だからどうか邪魔になっても処刑だけは!
殿下は相変わらずの無表情だが、どこか疲れが滲んでいるように見えた。多忙な方なのでこのお茶会も無理をして時間を空けてくれたのかもしれない。仮の婚約者なんかのために申し訳ない。
後ろに立つ側近のレイモンド様は何故か真っ青な顔でいまにも倒れてしまいそうだった。
殿下の正しく整った美しいお顔はいつも人形みたいで、何を考えているのか私には読み取れない。王族として、王太子として、感情を滅多に表に出さないようにと教育されていると聞いた。
そんな殿下が恋をしたらどうなるのだろうか。自分の保身が第一ではあるけれど、殿下に幸せになってほしいという気持ちも本物だった。
立場も苦悩も葛藤もすべて背負って、本心をその美しいお顔に隠し、彼は国と民のためにこれから生きていくのだ。心から愛した方と生涯を添い遂げるくらいのあたたかな幸せ、許されてもいいでしょう。
「リーゼ、お前のことはよくわかった」
たっぷりの沈黙のあと、殿下は静かにそう言った。私の気持ちは正しく伝わったみたいである。
かくして、殿下の運命の恋応援大作戦は幕を開けたのであった。
そうして婚約を結んでから7年。怒涛の7年だった。
「リーゼは優秀だと教師が褒めていた」
「ふふ!今の私は一応殿下の婚約者ですからね!」
「一応ではないが。幼い頃はいつも怒られて泣いていたのにな」
「何においても努力を惜しまない殿下に置いていかれないよう必死なのですわ」
「そうか」
「そんなにこの国の料理が気に入ったのか」
「はい!最高ですわ!公務なんてめんどくさいわねと思いながらついてきてよかった……!」
「本音すぎるだろう」
「もうお家に帰りたくない……!」
「それは困ったな」
「殿下、もし私が邪魔になり国外へ追放してやろうと思うことが万が一あれば、どうか、どうかこの国へ……!」
「そんな予定はない」
「殿下!殿下に合いそうな令嬢をリストアップしてみましたわ!」
「リーゼ」
「お茶会を開いてさりげなく私なりに面接をした結果をこちらにまとめたのでご覧ください!もちろん殿下のお心次第ですが私のイチオシは、」
「お前は何をしているんだ」
「この方の好物はスコーンらしいので殿下と食の趣味が合うと思いますわ」
「スコーンが好きなのはお前だろう」
「殿下!お買い物に行きましょう!」
「何か欲しい物でもあるのか。買ってやるから商人を呼べばいい」
「違いますわ、殿下とお忍びでお出掛けしたいのです!」
「リーゼ、」
「お忍びで出掛けた先で男性に絡まれて困っている平民の少女を助ける王子様!のちに再会して惹かれ合う身分違いの2人!定番ですわよ!」
「また何か変な本を読んだのか」
「リーゼ、レイ。こんなところで何をしている」
「ぜ、ゼイン!これは誤解だ!誤解誤解!」
「殿下!見てくださいませ、この可愛い子犬を!中庭に迷い込んでしまったようですわ」
「そうだな」
「昔、犬が飼いたいと駄々を捏ねたのを思い出しますわ。お父様が動物アレルギーなので結局飼えませんでしたけど」
「王宮で世話をすればいい。そうすればいつでも会えるだろう」
殿下との関係は概ね良好と言える。これなら情が湧いて万が一断罪が起こっても一家没落や処刑はないかもしれない。
しかし私は焦っていた。殿下の運命の相手が現れないからである。
王妃教育が始まると王宮に頻繁に顔を出すようになり、王太子の婚約者として公務にも参加している。社交界に参加しても当たり前だが殿下は婚約者である私のエスコートをしなくちゃいけない。仮の婚約者だというのに外聞を気にしてか殿下はよくお茶会に誘ってくれる。お忍びでお出掛けするのは私たちの趣味にもなっていた。
まさか、認めたくないけど、私と殿下って側から見れば順調な婚約者すぎるんじゃない?
絶望的と言っていいほど殿下は人に興味がない。そのせいでこの7年間これといった進捗はなく、殿下をさっさと他の令嬢に押し付けて円満に婚約破棄し、悪役令嬢と王妃という立場から逃げてやろうと企んでいた私は、このままじゃさすがにまずいのではと、かなり、かなり焦っている。
だって何故かこの7年で「氷の公爵令嬢」などというかなり不名誉なあだ名で呼ばれるようになってるもん!このままだと悪役令嬢まっしぐらよ!!
今日も今日とて王宮の庭園では、殿下と私のお茶会が行われていた。
「殿下はどのような女性がタイプなんですの」
「お前はいつも唐突だな」
「私としたことが肝心なことを聞き忘れていましたわ。好きなタイプなんて、恋バナでも初歩中の初歩の話題ですのに……!」
自分の愚かさに打ちひしがれる私を、殿下の碧い瞳がじ、と見つめた。殿下は人をまっすぐ見つめる癖があるので、勘違いする女の子が出ないかいつも心配だわ。
成長した殿下は背がぐんぐん伸び、体格も鍛えられて男らしくなった。ますます磨きがかった美貌は相変わらず人を惹きつけてやまないし、なにより色気が爆発している。
「好ましい見た目とか、性格とか、あるでしょう?」
「……そうだな。努力家で」
「大事ですわね!」
「見ていて飽きなくて」
「ふむふむ」
「思い込みが激しくて」
「ん?」
「俺のことをちっとも好きじゃない女」
「あら!」
最後の条件は厳しすぎるのでは?この国の王太子、いつでもキラキラと輝く麗しのゼイン殿下をちっとも好きじゃない女性なんているかしら。
「殿下は追われるよりも追いかけたい派なのね」
「そうかもな」
だったら今まで出会った令嬢に1ミリも興味を示さなかったのにも納得がいく。いつも殿下は求められる側だもの。
足元で子犬とゴロンゴロン戯れていた殿下の側近のレイモンド様に視線を向けると、また真っ青な顔をしている。いつも顔色が悪いけど、きちんと休養を取れているのかしら。
レイモンド様に撫でられて可愛らしくキュウン、と鳴く子犬は、飼い主らしき人が現れなかったため殿下の提案通り王宮で飼われることとなった。いまじゃ王宮のアイドルである。私とレイモンド様が子犬にメロメロになっていても殿下は大体どうでもよさそうにしているが、たまにおやつを手ずからあげているのを私は知っている。
私たちももう17歳。王立学院にも入学して、もう1年が経とうとしている。殿下が運命の恋をするには、今がチャンス!やっぱり恋とは、学園で起きるものよね!
多くの貴族や優秀な平民が通う学院なら、殿下の運命の相手も現れるに違いない。今のところは現れていないけど、現れるはずなのだ。
それに学園の卒業とともに婚姻を結ぶ生徒も多く、私たちに残された時間ももうわずかだった。今までのようにぼんやりとはしていられない。
卒業といえば、悪役令嬢というものは卒業パーティーで断罪されるのが常識である。つまり、万が一にでも断罪されないために、卒業までに殿下とは婚約破棄をしたほうがいいということ。
「殿下。婚約破棄の件ですけど」
そう切り出すと、殿下がこめかみを押さえてため息をついた。気持ち、わかります。
「お父様にもお兄様にも協力していただいているのに、なかなか破棄できないんですの」
「だろうな」
あの手この手で破棄しようと動いても、何故かうまくいかないのだ。陰謀としか思えない。どうせ運命の相手が現れて結ばれるんだから、絶対に私との婚約ははやく破棄した方がいいのに!
「俺はお前と婚約破棄するつもりはない」
「はあ、」
今のところはそれでいいでしょうけれど。殿下がそうおっしゃるのは、婚約者がいなくなった途端に群がってくる令嬢たちが面倒だとか、王家と公爵家との関係を悪化させたくないとか、そういう理由だろうと想像はつく。
そもそも、私たちの婚約は政略も政略なので、王太子と言えども個人的な感情で簡単に破棄が許されるものではないらしい。
子犬を腕に閉じ込めたレイモンド様が「不憫なゼイン、可哀想に……」とぶつぶつ言っており、心配になりつつも概ね同意だった。
王立学院の2年に進級した年、ついに現れた。もちろん、殿下の運命の相手が、である。
セシリア・レナル。私の調査によれば、元は平民だったが最近男爵家に諸々の事情で養子に迎えられ、王立学院へ編入してくる運びとなったらしい。淡いピンクの髪と大きな瞳が可愛らしく、自分と正反対のセシリア様を見た瞬間、私には衝撃が走った。彼女は見るからにヒロインだった。そうよ、殿下の運命の相手ってまさにこういうイメージなのよ!
私の勘は正しく、セシリア様が編入してきてから2人は徐々に仲を深めている。多分。殿下がめずらしくセシリア様には名前を呼ぶことを許しているし、中庭で2人が談笑しているところを何度も見たし、今だってその最中だ。
中庭のベンチに並んで座る2人を木の影から覗いている私には会話の内容までは聞こえないけど、とても良い雰囲気だった。殿下とセシリア様が並ぶ姿はお似合いと言う他ない。殿下は通常運転の無表情だけど、きっと心では楽しんでいるはず。
「リーゼロッテ嬢……こんなところで何してるのかな」
ビクッと肩を跳ねさせ後ろを振り返ったところで、なんだレイモンド様かと胸を撫で下ろした。ヴァレンティ公爵家の令嬢が覗きだなんて、他の生徒に見られたらとても困る。「氷の公爵令嬢」よりもさらに不名誉な名で呼ばれてしまう。
「レイモンド様、見てくださいあちらを。ついに殿下に春が来ましたよ」
「いやあ、来てるかな〜?」
レイモンド様は眉を下げて曖昧に微笑む。きっと仮にも婚約者の私に気を遣っているのだ。「葉っぱがついてるよ」と頭に伸ばされた手は、できるだけ私に触れないようにととびきり丁寧だった。
「あのさ、リーゼロッテ嬢はなんでそんなに殿下の運命の恋にこだわるの」
「なんでって……私なんかよりも本当に愛する方と結ばれるほうが殿下も幸せでしょう?」
「う〜ん」
「殿下はいつか運命の相手と結ばれるし、どうせ私が殿下に愛されることはないし、それならはやく婚約破棄したほうがお互いのためだと思うのよ」
「な〜んでそうなるのかなあ」
「私は殿下の幸せを心から願っているだけですわ」
困ったような顔をするレイモンド様を見上げる。
「そんなの、君がいちばん……うわっやべ!」
聞き分けのない子を窘める大人のような顔をしていたレイモンド様が、急にイタズラがバレた子供のような顔で焦り始める。視線の先を追うと、殿下がこちらへ歩いてきていた。隣にはセシリア様がいる。
「ゼイン!誤解だ!誤解!俺は何にもしてないし何にも言ってない!」
いつもレイモンド様が言うその誤解だ!ってやつ、一体なんなのかしら。2人の間の合言葉なのかしら。
「2人で何をしてる?また犬でもいたのか」
「そ、そう!犬を探してたんだよね、リーゼロッテ嬢!」
「お前ら、王宮で犬何匹飼うつもりだ」
私が覗き魔だということを隠すために下手な嘘をついてくれるレイモンド様は優しい。
それにしてもなんで私たちがこんなところにいるってわかったのかしら。もしかして私の覗きがバレバレだった可能性がある。殿下は私を見つけるのが何故か昔から得意なのだ。
「ゼイン様、わんちゃん飼ってるんですか〜?私もわんちゃん大好きなんですう!」
セシリア様が可愛らしく声を上げる。なるほど、犬好きに悪い人間はいないわね!グッとちいさく殿下にガッツポーズを送るも、じとりと睨まれてしまった。
「リーゼ。今日の放課後の予定は」
「え、えーと」
「そうだ、ゼイン様!私、今日の授業でわからないところがあったんですっ!放課後教えてくれませんか?」
「今日は、王妃様からお茶会にお誘いいただいていますわ」
「そうか」
殿下は腕に絡みつくセシリア様をするりとかわし、何事もなかったかのように私と会話を続けた。その様子に違和感を抱く。なんか、殿下とセシリア様、言葉のキャッチボールがまったくできていないような……。
セシリア様は、私とレイモンド様の存在を完全に無視して喋り続けた。そんな彼女を殿下が無視して私たちに話しかける。異様な光景。2人なりのコミュニケーション、なのかしら。
私から挨拶するタイミングも逃してしまったし、殿下からセシリア様を紹介されることもない。
ちらりとレイモンド様を見ると、にこっと笑い返される。全く意味がわからない。
しばらくして、セシリア様が嫌がらせを受けているという噂を聞いた。セシリア様が誰かから悪意を向けられている理由なんて明確である。殿下絡みだろう。
特定の誰かが殿下と親しくすれば気に入らない生徒が出てくるのは想像に難くないけれど。うーん。
すべての女の子の理想を具現化したような、美貌と人望と才能すべてを兼ね備えた殿下だが、「私こそが殿下の寵愛を受けるのよ!」と熱狂的にアピールする令嬢が、何故か年々減っているような気がするのだ。わたしのせいかしら。そうなのかしら。最近では「殿下はみんなのものだから抜け駆けはなしよ!」「観賞させていただけるだけで幸せよ!」という思想の同盟が密かに組まれているらしい。
だからセシリア様に嫌がらせをして牽制するような行動に走る人物が全く思い浮かばないのだ。
そんな状況の中、セシリア様への嫌がらせの首謀者として私の名前があがるのは当然と言える。殿下の婚約者で、「氷の公爵令嬢」だからだ。
弁解させてもらえるなら、そもそも私は2人を応援してるので、嫌がらせなんてするわけがない。殿下をどの令嬢に押し付けようか、殿下に相応しい令嬢は誰なのか、殿下の運命の相手はいつどこに現れるのか。それだけをひたすら考え続けた私のこの数年間を舐めないでほしい。
そもそも彼女とは言葉を交わしたこともないのだ。殿下とセシリア様が一緒にいるところを見掛けるたび、彼女からくすりと謎の微笑みを向けられたりするくらいで、接点は0と言っていいだろう。
殿下からその話題に触れられることもないため、その件に関して首を突っ込むのも憚られた。
放置していていいものか頭を悩ませていたところで、3年生に上がる前に学院では進級パーティーが行われた。断罪の定番である卒業パーティーじゃなかったので、わたしは油断していたのだ。
殿下のそばに立って大人しくパーティーをやり過ごしていると、ドン!と強く誰かがぶつかってきて、手にしていたグラスの中身を相手にかけてしまう。
咄嗟に謝ろうと言葉を発すると同時に、ドレスが汚れてしまったセシリア様が大きな声を上げた。
「ひどいわ、リーゼロッテ様……っ!」
予想外に激しい剣幕に目を見張るも、悪いのは完全に私なのできちんと謝罪してハンカチを差し出し、とりあえず控え室に行きましょうと背中に手を添える。しかし、うるうると涙が溜まった大きな瞳は私を睨みつけ、この場を離れようとしない。彼女のほうが背が低いので、見下ろしているだけでいじめているみたいで罪悪感に胸がギュッとなる。
「リーゼ。お前は汚れなかったのか」
「ああ、はい、私は平気ですけれど。セシリア様が」
隣の殿下がセシリア様に視線を移すと、彼女は殿下の胸に飛び込んだ。反応に困って「あらあら」とただ私は立ち尽くす。
「おい、」
「ゼイン様っ!リーゼロッテ様ったらひどいんですう!きっと私がゼイン様に近づくのが気に入らないんです!だからグラスの飲み物をかけたりしてっ!それに学校でも教科書を破ったり物を盗んだり……!」
突然始まった断罪劇にぱちくりと瞬きをした。わたしが前世の記憶を取り戻してから怯え続けた展開が今、唐突に……!
やっぱり私は悪役令嬢だったのね。嫌がらせなんてしていなくても断罪される、そういう運命なんだわ。
セシリア様に抱きつかれている殿下が何も言わないので、私も口を閉ざしてセシリア様の訴えをただ聞いた。
「ほら、リーゼロッテ様、言い訳も何もしないじゃないですか!ただ黙って、私のこと睨みつけて……っ!どうせ私のこと見下してるんでしょ!?」
ヒートアップしていく彼女の言い分にほとほと困ってしまう。睨んでいないのに睨んでいると勘違いされるってお父様も悩んでいたわね……と現実逃避に別のことを考えてしまうほどだ。
パーティー会場にいた生徒たちがざわざわとし始め、人が集まってきていた。知らないうちに注目の的になっている。
「ゼイン様に相手にされてないから私に嫉妬してこんなことをするんだわ……っ」
はあ、と殿下の深いため息が落とされ、騒がしかったその場の雰囲気が一気に張り詰めた。
殿下の表情が心底めんどくさがっているときのものだとこの場で察することができるのは、私とレイモンド様だけかもしれない。
近くで女の子と談笑していたレイモンド様がやってきて、「はい、ごめんね〜、殿下に触んないでね」と軽く言いながらセシリア様を殿下から引き離す。
憂いを含んだ殿下の綺麗なお顔を、野次馬の生徒もセシリア様もうっとりと見つめ、彼が次に発する言葉を静かに待った。
「こいつが嫉妬で嫌がらせなんかするわけないだろう」
面倒くさそうにそう吐き捨てられると、これまで殿下と過ごしてきた年月が報われたような気になる。信頼関係を築いてきたおかげだ。ナイス断罪回避!
「ゼイン様はリーゼロッテ様に騙されてるんです!」
めげないセシリア様!
というか2人はいい雰囲気ではなかったのだろうか。私は断罪さえしないでくれたら大人しく身を引くつもりだから、こんな騒ぎを起こす必要なんてないのよ。
「……俺はお前よりもリーゼのことを理解しているつもりだが、こいつは俺にちっとも興味がないし、愛してもいない。だからそもそも嫌がらせをする理由がない」
殿下がそう断言すると、シーンと会場が静寂に包まれた。そりゃそうだ。王太子とその婚約者の冷え切った関係。国の将来が不安である。
「……」
「……」
「……」
そんなことないわよ!と割って入るべきかと考えてしまうほどの静寂。
野次馬の生徒たちの中で「たしかにそうかあ」「それもそうかあ」と殿下の発言に納得している空気が流れ、私はとても気まずかった。私が不敬にも殿下を誰かに押し付けようと企んでいたことは、どうやらしっかりと伝わっていたらしい。
「でもっ、それはゼイン様も同じでしょう!?2人の間に愛なんてないのに、リーゼロッテ様と結婚させられるゼイン様が可哀想で……っ!だから私は、」
「問題ない。俺はリーゼを愛しているからな」
「え!?!?」
いくらこの場が面倒で適当に言いくるめたいにしても、愛してるなんてそんな軽々しく言っちゃいけないでしょう殿下!そう思って殿下を見ると、いつものようにまっすぐ私を瞳にうつしていたので、言葉を失ってしまう。
「驚きすぎだろう」
私だけじゃなく、この会場にいる全員が驚愕してますわよ!
いつも真っ青になっているレイモンド様が、今日に限って穏やかに微笑んでいる。セシリア様を爽やかに拘束しながら。
「この際はっきり言っておくが、俺はリーゼ以外と結婚するつもりはない。俺はお前の名前すら知らないし、興味がないから周りをうろちょろされても放っておいただけだ。リーゼを侮辱されると腹が立つのでもう喋るな」
いつも通り淡々と喋る殿下に私の頭は大混乱である。
「好きな女を何年もかけて口説いている途中だから、邪魔しないでくれ」
私が殿下の発言を必死に咀嚼している中、周りの生徒は殿下の言葉をあっさりと受け入れたようだ。他人事だからってキャーだのワーだの楽しげに声を上げ、口々に殿下を褒め称え、パーティー会場はお祭り騒ぎとなった。私を置いていかないで……!
「リーゼ。やっと俺の話を聞いたな?」
「え、え〜と」
殿下の大きな手が私の頬をするりと撫でる。今までのスキンシップとは違う、色っぽく意図されたその触り方に目を白黒させた。
「お前は昔から思い込みが激しくて話を聞かないし、婚約者のくせに他の女を何度も勧めてくるし、最悪だ。いい加減うんざりする」
リーゼ、と私の愛称を呼ぶ声はいつからこんなに甘やかだったのかと考える。何度も重ねた手はこんなに熱かっただろうか。殿下の瞳はこんなに雄弁だっただろうか。
うんざりだ、なんて言っておいて、殿下は仕方がないなと許しを与えるように目を細めた。
「聡明なリーゼなら俺の運命の相手が誰なのか、もうわかるよな?」
なんとか「あの」とか「うう」とか、言葉にもならない声を絞り出す。なんと情けない姿だろう。
「俺を、心から愛した女と生涯添い遂げる幸せな男にしてくれるんだろう」
滅多に見ることのできない殿下の微笑みを間近で一心に浴びた私は、その有無を言わさぬ瞳に真っ赤な顔でこくりと頷き「わたしが殿下をしあわせにしますわ……」と誓う他なかったのだった。
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side レイモンド
リーゼロッテ・ヴァレンティは、俺の主君であるこの国の第一王子、ゼイン殿下の婚約者である。
殿下と彼女が初めて出会ったのは6歳の頃。人並外れた美貌を持つ殿下だったが、そんな彼が目を奪われてしまうくらいリーゼロッテ嬢は美しかった。
手入れの行き届いた銀髪と藍色の瞳を持つ彼女は妖精のようだったし、静かな微笑みを浮かべて王宮の庭園に佇む姿は1枚の絵画のようだった。あの初対面の彼女は外行きの顔だったのだろうと今ならわかるが、当時の俺には現実離れした神聖な存在にさえ見えたのだ。
いつも無表情で物事への関心が極端に薄い俺の主君が、初めて誰かに強く心惹かれる瞬間を、同席していた俺は見てしまった。恋に落ちる瞬間である。
幼い頃から自分は国と民に尽くして生きていくのだと覚悟を決め、我儘など言ったことのない殿下の最初で最後の我儘は「リーゼロッテ・ヴァレンティと結婚したい」だった。
顔を合わせるたびに殿下はリーゼロッテ嬢にどんどん惹かれていった。子どもながらにリーゼロッテ嬢を見つめる殿下の瞳は本気だった。どんなに無表情でも、ずっとそばにいる俺には殿下の気持ちがわかるのだ。
感情を表に出さないあの殿下が、リーゼロッテ嬢にだけは独占欲を覗かせることに、最初の頃はとても驚いた。俺がリーゼロッテ嬢とちょっとでも仲良く笑い合うだけで殿下は気に入らないと言いたげで、そうなると決まって剣の鍛錬でボコボコにされてきた俺は、リーゼロッテ嬢との距離感には細心の注意を払わなければと学んだ。
幼馴染のように育った女の子の名前を親しげに呼ぶことすら許されないなんて、そんな悲しいことがあるだろうかと思わないでもない。
殿下が直々に望んだ婚約だったが、リーゼロッテ嬢を溺愛する公爵家の妨害はひどかったらしい。あらゆる手を尽くしてやっと彼女との婚約を内定させたのは10歳の頃だった。
やっとの思いでこぎつけた婚約。婚約者となって初めてリーゼロッテ嬢と顔を合わせた日の殿下のことは忘れられない。
「殿下はいつかきっと、運命の相手に出会い、恋に落ちるでしょう」
「……は?」
「私の存在が邪魔になったときは遠慮なさらず教えてくださいね」
殿下の気持ちを知っていた俺は、殿下の背後に立ちながら真っ青になって倒れ込みそうになった。
運命の相手にならもう出会ってるよ、恋に落ちてるよ、君が邪魔になるわけないしなんなら今邪魔なのは俺だよ。と、言えればどんなに楽だっただろうか。
つまるところ自分以外の人を愛して勝手に幸せになってくれと言わんばかりの矢継ぎ早に繰り出される言葉たちに、さすがの殿下も圧倒されていた。
本人は真剣なのだからタチが悪い。慈悲深さすら感じるその表情で、結局言っていることは残酷の限りである。全然話聞かないし。
リーゼロッテ嬢の思い込みの激しさにはいつも驚かされる。何を根拠にそう考えているのか知らないが、殿下が自分を愛するわけがないと決めつけ、殿下には自分以外の運命の相手が現れるのだと言い張る。
殿下に相応しい女性なんて君以外にいるはずもないのに、どうやったらそんな思考回路になるんだろう。
「リーゼ、お前のことはよくわかった」
冷静で賢い俺の主君は、ひとまず彼女を理解することに努めると決めたらしい。この日から殿下の戦いは始まったのだ。
リーゼロッテ・ヴァレンティという人物は、ときには予想のつかない言動で殿下を困らせ、ときにはともに切磋琢磨する心強い戦友のように殿下の側に立ち、ときには母親のように慈悲深く殿下の将来を想い、ときには花が咲いたように親しみを込めて殿下へ笑いかけた。
捉えどころのない美しい彼女に殿下はいつも夢中だった。己の主君の、滅多に見せないちいさな笑みも、すこし焦ったような口調も、喜びの滲んだ背中も、惚れた相手には敵わない情けなさも、彼女がいるだけでお目に掛かれるのだから、俺は彼女にとても感謝している。
本人は王妃になるつもりなんてまったくなさそうだが、厳しい王妃教育を彼女が途中で投げ出すことはなかった。いつも泣かされていた鬼と恐れられる教師にさえ、今ではよく褒められている。社交界では憧れの存在で、彼女が殿下の婚約者であることに異を唱える者はいない。たまに見せる独特の価値観が物事をいい方向に導くことも多く、王太子の婚約者として公務をこなしながら事業も任されるようになるほど優秀である。
そんな上辺だけは完璧と言える彼女が、いつしか「氷の公爵令嬢」と呼ばれるようになっていたのには殿下も俺も驚いた。世間と俺たちの間には、リーゼロッテ嬢の認識に齟齬があるらしい。
彼女はたしかに清廉潔白の聖人君子というわけではなかったが、決して冷酷なわけでもない。強い意志を感じさせる凛とした藍色の瞳が印象的だからか、その佇まいが上品で気高いからか。氷なんて形容される要素は、その見た目だけではないだろうか。
思い込みが激しく、ずれた方向に自信満々で、弱音を吐いたかと思えば翌日にはけろりと立ち直り、誰にも偉ぶらない代わりに媚びもしない、葉っぱまみれになりながら犬と戯れ、殿下が頻繁に贈る花や宝石やドレスにまったく興味を示さず、甘いものには目がなく、人からの悪意も好意も「あらあら」「まあまあ」とのらりくらり受け流し、お忍びで殿下と市街地に赴いては露店の串焼きにかぶりつく。それこそが殿下の愛するリーゼロッテ嬢なのだ。
自分の婚約者が「氷の公爵令嬢」なんてなんとも言えない呼ばれ方をしているのを聞いた殿下は「なんだそれは」と、やはりめずらしく微かに笑うのだった。
殿下は婚約者に1ミリも興味がない、という認識が共通のものとして知られているのは、もちろん殿下の表情が乏しいからである。何度も婚約破棄を仕掛けてくるリーゼロッテ嬢と公爵家に毎回奔走していることも、多忙な中リーゼロッテ嬢とのお茶会やお出掛けの時間を無理やり捻出していることも、リーゼロッテ嬢が喜びそうなお菓子や似合いそうな贈り物の厳選に手を抜かないことも、周りは知らないのだから仕方がない。
だからリーゼロッテ嬢が一方的に殿下を、または殿下の婚約者という立場を愛していると周りは思っていた。
リーゼロッテ嬢が殿下の瞳の色と同じドレスと宝石を身につけてパーティーに参加し、婚約者として殿下の隣にずっと寄り添っていれば、「たしかに美しいのは認めるけれど、自分は殿下の寵愛を受けていると言わんばかりね」と。
いやいや、リーゼロッテ嬢のドレスや装飾品をいつも勝手に決めているのは殿下ですよ。リーゼロッテ嬢が離れて行かないようにずっと腰を抱いてるのも殿下の意志ですよ。
リーゼロッテ嬢が殿下の恋の相手を見つけるべく、意気揚々と令嬢たちに殿下のいいところをプレゼンし、面接と称して「殿下のことはどう思っているの?」と探りを入れると、「殿下の婚約者だからって、あんなふうに牽制して回るのはどうなのかしら」と。
いやいや、リーゼロッテ嬢は婚約者という立場を人に押し付けようとしているだけですよ。あなたたち、婚約者押し付け候補としてリストアップされてますよ。
しかし、成長とともに殿下とリーゼロッテ嬢を見かける機会が増えれば、周りは嫌でも気づき始める。リーゼロッテ様、もしかして殿下にちっとも興味がないのでは、と。
殿下を狙う令嬢が現れても「あらあら」と機嫌良く背中を押すし、人前でリーゼロッテ嬢から用もなく殿下に近づくこともないし、王妃という立場にも興味なさそうだし、なんだかいろいろやる気もないし。
そうしてリーゼロッテ嬢が殿下の婚約者を誰かに押し付けようとしていることがうすうすバレてしまったことで、彼女を出し抜いて婚約者の席を掴み取ろうという強気な令嬢は急激に増えた。しかし涼しげな顔で何でもこなす美しく優秀なリーゼロッテ嬢を前に、やはり敵わないわと諦めていくのが常だった。殿下のあまりの素っ気なさにも心が折れてしまうのだろう。
リーゼロッテ嬢の思惑に反して殿下の婚約者を押し付けることができる人物は年々脱落していき、殿下の婚約者が務まるのはリーゼロッテ嬢しかいないわねというのが、令嬢たちの結論であった。
殿下がリーゼロッテ嬢の言動を基本的に放任しているのは、「お前より俺に相応しい人間がいるなら連れてきてみろ」という無言の挑発でもある。
王立学院に入学し、2人の関係が広く浸透してきた頃、セシリア嬢は編入してきた。
殿下に近づきベタベタとまとわりつくセシリア嬢を、婚約者という立場のリーゼロッテ嬢はいつものように放置である。そのせいで、セシリア嬢は完全に調子に乗っていた。
みんなが噂する通り2人は愛のない婚約者同士で、自分にも付け入る隙があると。それに「氷の公爵令嬢」なんて呼ばれているくらいだから、冤罪を押し付けることだって容易だろうと。
男爵家の養子となったばかりで貴族社会に馴染みの浅い彼女は、殿下とリーゼロッテ嬢に関してひとつも理解が及んでいなかったわけだ。
そしてリーゼロッテ嬢と負けず劣らず思い込みが激しい彼女は、殿下に素っ気なくされてもまったくめげないどころか、殿下も自分のことが好きなのだという勘違いをしているようだった。
「私がヒロインなのよ、」などとよくわからないことをぶつぶつ言っているのも聞いたので、きっと頭がおかしいのだと思う。リーゼロッテ嬢もまあ、本質は変わらないのだが。
そんな中でセシリア嬢に発生した嫌がらせ。正直周りの反応は「いや自演だろ」だった。
リーゼロッテ嬢の仕業だと唱える人間がいないわけでもなかったが、よくよく考えてリーゼロッテ様がそんなことをするか?と聞かれれば否。彼女が殿下に近づく令嬢を排そうとする姿は、まったくもって想像ができない。
それに殿下はあの令嬢の存在を完全にないものとして扱っているのは見て分かったので、ちょっと可哀想ですらあった。そんな彼女に誰も嫌がらせなんてしない。
よくわからない勘違いをしているのは学院でリーゼロッテ嬢ただ1人である。
騒がしいパーティー会場の中心にいるのは、麗しい俺の主君と、主君の愛しい婚約者。殿下の紡ぐ言葉に、会場の生徒たちは今までの答え合わせを見た気分だろう。
望んで婚約した好きな子本人から何年も「婚約破棄したい」だの「あなたにはいつか心から愛する人ができる」だの言われ続けて辟易し、知らない令嬢をすすめられるたびに腹を立て、思い通りにならない彼女に嫌気がさし、それでも諦めることを諦めた可哀想な殿下。
「好きな女を何年もかけて口説いている途中だから、邪魔しないでくれ」
殿下の恋はしぶとかった。好きになってしまったのだから仕方がない。運命の恋に出会ってしまったのだから仕方がないのだ。
しかし俺の主君は、欲しい物は絶対に手に入れる男なのである。
「俺を、心から愛した女と生涯添い遂げる幸せな男にしてくれるんだろう」
殿下に見つめられて愛を囁かれるリーゼロッテ嬢の、それはそれはめずらしい真っ赤に染まった頬を見て、俺はふふんとご機嫌に笑みを溢したのだった。
リーゼロッテ
思い込みが激しいのは前世の記憶を思い出して混乱したせい
ゼイン殿下
放任主義の不憫な男
レイモンド
苦労人だが2人のことが好きなのでそれで良し
セシリア・レナル
前世の記憶あり