おまけ
淡いピンク色の生地に、金糸で丁寧な刺繍が施されたドレス。
膝下はタッキングされていて、ふんわりと寄せて集められた部分に縫いとめられた細いリボンが動くたびにひらひらとなびく。その下からは白いレースが何重にもなっているのだが、ふんだんに散りばめられた真珠が輝きを飾っていた。
編まれた髪にはリボンと生花。
あとは、贈っていただいた装飾品を大事に身につけ、わたしは目の前の鏡を見ながら思わず息をこぼしてしまった。
この日の自分がとても綺麗に見えるよう、たくさん想像すること数ヶ月。
試着もしているけれど、完成したドレスを纏ってすべてを整えてもらうとまったく今までと違って見えた。
ドレスも髪型もとてもかわいい。
そして自分によく似合っているように思えた。
それに自然と笑みが浮かぶ。
「オレリア」
ノックがされ、返事をするとフェルド様が入ってくるのがわかった。
振り返るのも一苦労だけど、わたしが動くのに合わせてメイドたちが長い裾を持ち上げてくれる。
赤鈍色の上着には、わたしのドレスに施された刺繍と同じものがさされていて並ぶと対のように見えた。同じ職人に依頼したのは正解だったのだろう。
わたしは作るときからお揃いの刺繍がうれしいのだけど、子供っぽいかもしれないので口には出さないでいる。
やわらかそうな栗色の髪は後ろに流されていて、いつも以上に凛々しく見えてしまいわたしは思わずため息をこぼした。
こちらを見たまま止まってしまっているフェルド様に口を開こうとすると、ドアを開けていた侍女が咄嗟に唇へ指を当ててわたしに合図を送った。驚いて口をつぐむと、ため息がひとつ。
はっとして目の前の方へ視線を戻すと、フェルド様が一歩前へ踏み出した。
「……綺麗だ」
目を丸くするわたしを、フェルド様はきまり悪げに頬をかいて見下ろす。
「こんな陳腐な言葉しか出てこなくて困ってしまうな。もっとうまく伝えたいのですが」
本当に真剣にそんなことを仰るのだから。
わたしは頬が赤くなってしまうけれど、負けじと口を開く。侍女はもう止めなかった。
「それでしたら、わたくしだって同じです。フェルド様も一段と、その、かっこよくて。あたたかな色がとてもよくお似合いです」
「ありがとう。あなたも、ドレスも髪も、どれもよく似合っていますよ」
お互いにそんなことを言い合って、わたしは照れてしまってフェルド様から目を逸らしてしまったけれど。周りに控えている人たちが微笑ましそうに見ているのがわかってしまって余計にくすぐったくなる。
行きましょう、と腕を差し出してくださるのに、はいと答えて手をのせた。
今日は、結婚式だ。
わたしの家に迎えに来てくださった馬車に乗り込むと、華やかに装飾された馬たちが教会まで連れて行ってくれる。
道ゆく人が笑顔で祝福をしてくれているのがわかって、わたしもフェルド様も窓から惜しみなく手を振って応えた。
着いた先は街の教会。
馬車から降りるのを手伝ってくださったフェルド様と一緒に、たくさんの参列者たちに迎えられながら司祭様の前へと進んだ。
誓約書に、お互いの名前をしるして、結婚の誓いを立てる。
羽ペンを持つ手が震えてしまってどうしようと内心であせったけれど、なにも仰らずに、そっとあたたかな手がわたしの背中を支えてくださった。
うつくしいフェルド様の手蹟と並ぶ名前が恥ずかしくないように、息をゆっくり吐き出してからペンを走らせる。大丈夫、いつものわたしの字だ。
書き上がったものを、やわらかな笑みをたたえた司祭様が両手で受け取り周りを見渡した。
「おふたりの誓いをここへ証します」
わっと拍手が響いて、お祝いの言葉が抱えきれないほどおくられる。
うれしそうに笑って手を叩いているお母様の横で、お父様も穏やかなお顔だ。少し目元が赤く見えるけれど気のせいだろうか。
妹たちも、伯父様たちも、ご招待したお家の方々も、みんなが喜んでくれていてわたしの胸があたたかくなる。
手を振って応えながら、こちらを見下ろしたフェルド様と目が合った。
少しだけ背を屈めて、わたしだけに聞こえる声が耳元で囁く。
「一緒に、幸せになりましょうか」
一緒に。なんてすてきなことでしょう。
今日も、明日も、明後日も、なにが起こるか楽しみで仕方がない。
「はい。素敵な日にしていきましょう」
お芝居ではないと言ってくださったフェルド様の言葉が思い出される。
一度だって、これまで過ごしてきた時間と同じだったことはない。そして、これから先になにがあるのかも決まっているわけではない。
だから、フェルド様と手を取り合って向かうこれからの日々を大切にしていきたいと思いながら。
支えてくれているしなやかな腕に手を重ねて、心から微笑んだ。
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