大人になるということ
ねえ、明日はなにするの?
夕暮れの高台で、幼い僕は、いつも決まって同じ時間に問いかけた。
少年は、少し困った顔をしていた。
雨上がりの湿った土の匂い。
ゆるやかで、おだやかで、どこか優しい空気。
ああ。
この雰囲気、久しぶりだな。
少し年上のその少年は、決まって答える。
そうだな。
明日の事はわからないな。
僕は、なんだか嬉しくなる。
また同じ明日が来るのだから。
行きたいところ。
話したいこと。
やりたいこと。
たくさんあった。
あたりまえの場所で。
あたりまえの時間に。
あたりまえの人と。
あたりまえの言葉。
そうだ。
明日はあれをやろう。
ねえ、明日はさ
。
振り向いたそこには、誰もいなかった。
僕は、泣いた。
時間が止まった夕暮れの高台には、ゆるやかで、おだやかで、優しい空気だけが残っていた。
一通り泣いた僕は、大人になっていた。
知らない間に、大人になっていた。
ああ。
そうか。
また、君がいなくなってしまった季節がやってくるんだね。
僕は、君より大きくなってしまったよ。
目を覚ました。
また、明日が来たんだなと思う。
あたりまえの場所で。
あたりまえの時間に。
昔、幼かった頃。
あたりまえの人と。
あたりまえの言葉を。
大人になると。
その言葉は、あたりまえではなくなってしまった。
きっと、大人になるってそういうことなんだ。
僕はまた、夏を感じた。
ねえ、兄ちゃん。
明日はなにするの?
久しぶりにさ、メロン味のかき氷、食べたいね。