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きまぐれぶんのすけ  作者: 芳田文之介
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お引越し中



もっとも、オジサンの、この憤りに対しては、こういう指摘があるやもしれぬ。


これってさ、自意識過剰のおまえがひとつの価値観に基づく遠近法によってとらえ、それを独善的に主張しているだけだろうーーという指摘が。なるほど、たしかにオジサンは、自意識過剰で、独善的で、鼻につく、ヤナ野郎では、ある。


それに、駅の入り口は公共空間でもある。ことに朝の通勤時における人の出入りは一通りではない。


その頭上につくられた、ツバメの巣……。ともすれば、フン被害に見舞われるという懸念は、たしかに否めない。


あ、もしや、昨年、そういう被害が、実際にあったーー。それで、被害にあっただれかが、凄いけんまくで被害を訴えた。それを受けて、駅側が、やむなく、このような処置を取らざるを得なかった、というようなことがあったのかもしれない。


ほれ、みろ。だとしたら、駅側の対処もあながち悪くないってことになるぜ。


そのような声も、どこかから聞こえてきそうだ。ただ、そうはいっても、駅側もそこは抜かりなく、かねてよりしかるべき措置をとっていたのだ。では、どのようにとっていたかというと、それはおおよそこんな具合。


この季節になると、巣作りされた真下にカラーコーンを設え、そこに『頭上注意』という張り紙を貼り、そうすることで、ここを通る人たちの注意喚起をうながすという、そんな措置を。それも、もう何年となく。


というわけで、ここを利用する人のほとんどことごとくが、この季節にはひさしにツバメが巣作りするということを認識していたはず。



そればかりではない。昨今は、『共生』ということばが盛んに叫ばれている時代でもある。共生――それは、この地球上で暮らす様々な種類の生物は、みんなで、仲良く、共存共栄してゆこうね、という考え方だ。


それでなくても、ツバメの個体数は、年を追うごとに、減少しているのが現実である。その要因の一つに、人間のエゴイズムによる環境破壊があるらしい。少なくともそうである以上、この問題に於いては、こういう処方箋も考えられよう。そもそも、ここに、人間のエゴイズムの表象らしき針の山を設え、あえて、ツバメに嫌な思いをさせることはないのである。それよりむしろ、人間のほうが意を用いて対処すれば、こと済む話ではないかと思うのだ。たとえば、フン被害に遭いたくない人は、駅側が用意した帽子でも被って、そこを通るとか。


なにしろ、時代のキーワードは「共生」。だとしたら、われわれ人間も、彼らの種の保存の一助に寄与すべきではあるまいか。


この美しい地球は、人類だけのものではない。生きとし生けるもの、みんなのもの。


ということで、来年からは、針の山は撤去!


かくして、これにて一件落着ーー。


とはいかぬものか、針の山を設えた、××線、○○駅の、駅長さん。



この章、おしまい



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