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クローゼ王国録~現実的に考えた成り上がり展開の危険性と人情に挟まれ苦悩する頭脳中年少年~  作者: 温泉文太
第三章 ヨナスの新たな出会いと目的

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ノクヤと初めてのお話し

 まず聞くのは相手の話から。ヨナスが東京で出来る男から学んだ弱者の鉄則である。今日、夜を迎えられれば大神先輩の幸せを祈って寝ようと決める。


 かくして彼女が怯え半分の態度で話した内容をヨナスは頭の中で纏め、

「極めて不快だった腐毒ダケの件を、私が飾りつきで言い広めるのを殺して防ぐためにおいでになられた。で良いでしょうか。とすると、森で始末しなかった理由をお聞きしても?」


「あの時は、じゃな。一応助けられたと思うて、いや、命ではないぞ。()は腐った沼色鱗など及びもつかぬ強さなのだから。されど苦しかったのは事実であるし、大変な恥辱ではあったがその、(あるじ)様のお陰で健やかになった訳で、感謝したのじゃ。ほ、本当であるぞ。此処にきた時まず話を聞こうとしたのを思い出しておくれ。まぁ、何より突然過ぎて混乱してな。そういう時は飛びたくなるであろ? な?」


 ―――貴方には私の手が翼に見えてんの?

「分かります」


 最も、とりあえず逃げたくなる時はあるよな。ともヨナスは思う。自分の知ってる鳥もそうだ。目の前の女性に当てはまるかはとても疑わしく感じたが。


「で、あろ? しかし人が我らを見た時大体大騒ぎするのを思い出しての。しかも訳の分からぬ話を天にも届かんばかりに積み上げる。以前人の何と言ったか―――。ああ、商人じゃ。商人が我らの住処に来て、山を燃やし毒を撒いたので殺すついでに尋ねてみたら、我らの血を飲めば不老になるとの戯言を、しかもその者から見て十代は親の話を頼りにして来たと言いおった。

 アレがどんな風に話され、それで何時か愚かしき事が起こるのならば、殺した方が良かろうとな」


 世界が変わっても商人は商人だなとヨナスは頭が痛い。士農工商で商が一番蔑まれたのはここら辺が理由かもと思う。


「お話しは分かりますが、私はノクヤ様に迷惑を掛ける話を遺さないよう気を付ける気ではあったんです。特に腐毒ダケの件は生涯話さなかったと思います。あ、でも絵を描こうとしてる時点で迷惑をかけたでしょうかね……そもそも話さないのが本気か証明出来ませんし」


 絵の鳥を見たいという風潮が流れてネッシー状態になる可能性を思いつき、ヨナスは落ち込んだ。


「ムヌ? いや、分かる。喋る気が無かったと知り更に申し訳なく思うておる。―――その、人の言葉で自分がした事を誤りであったと考え、容赦して欲しい時に言うのは『申し訳ない』で合っておるか?」


 ノクヤはあくまでしおらしい。ヨナスはしおらしさが募る度に自分の生存率が下がっているように思えて逃げ出したくなるが、誤解が時間経過で問題を過激に膨らましたら、と考えて逃げられない。

 加えてさっきから感じている違和感が正しいなら、誤魔化しは逆鱗の周りをなぞる真似だ。

 なのでその違和感を確かめるべく、

「申し訳ないで合ってますよ。所で……私には何か嘘かどうか判断する瞬間が人とは違う上に、強い確信をお持ちのように感じるのですが何かあるんですか?」


「人と違うのは当然であろう? ()の目、耳、鼻さえ人のように惨めなまでに鈍くは無い。しかも人は力が全く見えぬ。(あるじ)様は人と比べればとても分かり難いが、それでも心より話そうとしてくれているくらいは分からない方がおかしい」


 ―――成程。となると、彼女の私が人以外であるとの勘違いをそのままにしようとしても、やはりバレるのでは? きっと怒るだろう。そして……。

 ヨナスは心臓に高い所に立った時のような寒気を感じた。

 落ち着こうと両手の指先を眼前で合わせ額に当てて、子供の頃からしてきた所作と思考を連動させる訓練の成果に頼り、五郎さん力を貸してくれと願い、何とか口を開いた。


「あの、先ほどから感じていたのですが、誤解なされています。私は人です。ノクヤ様がお話しになった大迷惑な生き物と同じ生物です」


 返事が顔に書かれて行く。何言ってんだこいつ、となった。


「怯えて何をのたまうかと思えば。確かに(あるじ)様は人のような見た目ではある。しかし力の動きは我ら一族にさえ無しえぬ滑らかさであるし、何より如何に小さかろうとその美しき真なるモノをお持ちじゃ。何者であろうとそれを見れば人とは思わぬぞ」


「えーと、ずっと尋ねたかったのですが、そもそも力って何ですか?」


「力を使うためにある―――そんな力が力じゃ」


 ―――誰だっけ。この吐き気がするくらい考えて無い返事する人……あ。意識高い系にして見た目だけ整えて他人に迷惑押し付け系人間の頂点、元総理の息子議員だ。


 と、唾を吐きそうな気持でヨナスが困っていると、

「あ、お怒りは待ってくれ(あるじ)様、考えるから。―――そう、人も一応力を使っているな。水を出したり、何とか火を付けられたはずじゃ。後はかなり珍しいが遠くの者との会話、確か人は念話と呼んでいたが、『これ』を出来る者も居た」


 不快感をきっちり読み取られたのと、突然頭に『これ』と聞こえてヨナスは驚くも、念話と言うならこんな感じかと適当に、

『念話なんて技術があるのも今まで知りませんでしたよ。これ、伝わってますか?』


『ほれ見ろ。人が簡単にこれを出来るわけが―――いや、これだと人では聞けぬか。それより(あるじ)様、そのような真なるモノをお持ちなのに人と言われても意味が分からぬ。(あるじ)様も自分が其処らに居る人とは全く違うのはご存知、じゃろ?」


 いやいや、自分が他の人と違う特別なオンリーワン。なんて言葉を喜んじゃうのは、それを歌ってるのが特別に集金してる人たちだと気づかないくらい考え無しな人だけだから。自分が特別では無く、歴史の川に流される砂粒だと中学生の頃には知ってたから。とヨナスは思う。


 しかしそう言われれば心当たりがあるのも事実であった。

 少し迷う。墓まで持っていくつもりの記憶なのだ。しかしこの超野生生物相手なら良いかなとの結論が出て、

「ほんの少し違う所があるとは思ってます。人では私くらいしか持ってなさそうな感覚もありますし、えっとですね―――」


 死前からの全てを簡潔に話し、表情を伺う。心配していた狂人を見るような気配は無かった。


「かくも稀な話があろうとはのぅ。初めて一族より美しき力を見たゆえ、(あるじ)様が人の言う神なのかと思うたが、神に会い授けられた方であったか。ならその真なるモノは」「しょ、少々お待ちを」


 不味い表現に動悸を速くされ、焦ってヨナスは割り込む。


「神、とは呼ばないでください。名も、何者かさえ話して頂いてないのですから、『あの方』とでも呼ぶ以外ありません」


「しかし人はそのような方を神と呼ぶぞ。……(あるじ)様が其処まで怯える話か?」


「単なる私の拘りだとは思うんですが、あの方が話してない事をこちらが勝手に決めるのは不敬だと思いまして。ノクヤ様も話を勝手に盛られたら嫌だから此処に来たのでしょう? あの方は私の記憶を保ったまま赤子にするなんていう人には決して出来ない真似をなさいました。正直今も私を見ているとは思えないのですが、もし見られていて不快に思われたら―――。言葉通りどんな目にだって合わせられそうじゃないですか。なので、考えられる限り気を付けたいんですよ」


「然り、であった。ソレを授けた方には慎重でなければ。至らず済まなんだの」


 両者ともに寒気を感じたような表情で黙る。

 それはそれとして、命は助かったようだなとヨナスは一安心した。

 全ての問題を解決してくれたモノを自身が認識出来ていないのがしっくりこないが、言われてみればよく分からない感覚を持ってる以上、普通人には無い物が体内にあるのが正しく思える。


 ビームをパなす怪獣がビーム袋を持っているのと一緒だ。そしてそのビーム袋はあの方がくれたモノ。見えるのなら本来存在しえないような価値を感じそうな気もしないでもない。と自分を納得させて脇に置く。


 続けて他に何か話さないといけない事が無いかな。と、考え、

 思い出した。背後の木箱に入っている。ヨナスはそれを机の上に置き、

「これをご存知ありませんか? お会いした草原に落ちていたもの―――なの、ですが」


 言い終える前にノクヤの頬が一瞬で赤くなり、ヨナスはつい身構えそうになるが何とか抑えて相手の言葉を待つ。

 

「勿論知っている。()はこれを感じて此処に来たのじゃから」


 感じるですかそーですか。とは言わない。とにかくこれで思いつく限りの問題が解決であった。

 後は丁重にお見送りするだけ。終わってみれば実に興味深い相手と会話出来たものだと、達成感交じりの喜びがヨナスを包む。


 縁があれば又話に来てくれたら良いな。と一瞬考え、骨から来る両脇の痛みに撤回する。

 彼女を助ける為死ぬのを覚悟したと言っても、怒らせれば胸斬の刑と分かった後では腰が引けた。


「となると私が盗んでしまった訳ですか。お帰りになる前に思い出せて良かった、お返しします。こういった物を大事にするとは考えず、美しい鳥と会えた記念にと持ってきてしまいました。何卒ご容赦ください」


 そう言うと、ノクヤは眉間に皺をよせ暫く悩んでる様子を見せてから、

「大事、では無い。その、それは()の涙である。あの時あの愚かな臭い鱗雌の力に気づかず食べてしまった自分が情けないし腹立たしいしで、そうしたら途轍もない無礼を働かれて何者かと思ったら人であろ? あれだけ高ぶって泣けば力が石にもなろう。だから、その、記念とまで思ってくれるのなら持っていても良いのじゃ」


 一言毎にノクヤの顔が赤くなった。実に感情の激しい娘さんである。怒って自分の体を、今も床に転がる机の一部だった物と同じようにされては溜まらんなとも思う。しかしヒステリーという感じでないのと、何でも一瞬で切り替わる割り切りの速さが野生動物らしく、ヨナスは好意を抱く。


 最も自分にとって死ぬ方へ切り替わる可能性は何時だってあるので、

「ご厚意は嬉しいのですが、何かでノクヤ様をご不快にさせる扱いをしては事ですので遠慮いたします。さて、私の方からはこれで全てです。お帰りになる前に何かありますか?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 実は綺麗なう〇こだと思ってました、はい。
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