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クローゼ王国録~現実的に考えた成り上がり展開の危険性と人情に挟まれ苦悩する頭脳中年少年~  作者: 温泉文太
第三章 ヨナスの新たな出会いと目的

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森の異変

二十名ほどの方評価をしてくださり有難うございました。

区切りが付きましたので、本日より毎日投稿します。

 八年が過ぎた。


 山の下から偶に国が領主を討伐したという物騒な話が流れてくる時はあってもラウメン領からの出兵は無くヨナスの日々は平穏で、孤児院の常である十二歳での職業訓練で予定通り猟師を選び、今では立候補して野生の獣から領地を守る為に作られた山小屋での一人暮らしをしている。


 山小屋の番人選びは熾烈な押し付け合いである。領主より出る手当は雀の涙。されど獣と下手をすれば竜に襲われる危険性は滝の如しなのに加えて、余りに孤独な仕事だからだ。

 成人さえしていないヨナスは普通なら選外。しかし獲物を見つける腕と危険を避ける上手さを誰もが認めていたのに加え、立候補した時の先輩たちの雰囲気からして親族の居ない孤児だから選ばれたのだろう。というのがヨナスの意見。


 とは言え不満と不快感は無い。当然の思考だし、子供の内は頼ればいいと態々孤児院に一番近い山小屋を開けて整備までしてくれている。

 何よりヨナスの考えだと危険はほぼ無い。歩いて半鐘分近い範囲内なら大きな獣は当然、毒蛇等の小さいのでさえこちらを狙うと脳裏に赤く見えるからだ。お陰で猟も獲物の順路に罠を仕掛けるだけ。

 ヨナス自身が不安になるほど有能な第六感であった。自分の脳が何を受け取っているのかさえ分からないのが特に。怖いので毎日寝る前にこの能力を与えてくれたと思われる、あの方に一言感謝を祈るのがヨナスの習慣になっている。

 何にせよ順調な日々であった。



 朝、山小屋で起きたヨナスの脳裏に異常事態が映っている。感じ取れる限界近くの場所に大量の白点がある。

 一瞬驚くも距離は遠く動きも殆ど無いので直ぐに落ち着き、食事等の諸々を始めつつ考えをまとめる。

 一番多く集まっている場所は方角距離から間違いなく水場。なら白点は獣たち。水場は当然獣が良く来る場所だが、今は秋で肉食獣でさえ実り豊かな果物を食べるのに忙しく、ばらばらに生活する時期だった。なのに人間の集会と同じくらいに密集している。

 今も増えていた。当然全てが一か所に集まってはいない。ただ―――気のせいだろうか。とヨナスは自問する。白点が帯状に弧を描いてるように見えるのだ。まるで森の深部にコンパスを刺し、其処から円を描いたように。

 

 さてどうするかである。最も賢いのは今すぐ街へ行き山の様子がおかしい気がすると伝えて町に篭る事だ。

 朝の準備が終わった。結論は出たように思えたが、少々危険だったので心を静めて考えなおそうととっておきである珈琲を淹れる。

 

 結論は変わらない。水場の様子を慎重に確認すると決めた。

 事件をスマホで生撮影するのと同程度には愚かだとは思う。しかしヨナスが猟師になったのは肉を食べたいからだけではない。目的と夢があり、これは夢を幾らか果たす機会であった。


 すなわち恐竜観察。

 不思議は全く無い。ヨナスもかつてブラキオサウルスに抱き着いたオッサンに嫉妬し、殺意を抱いた地球上数十億人の一人というだけだ。


 最大の野望はこんな密集地帯に居る訳は無い。でも噂に聞く棘付き、棍棒付き、首長……は夢を見過ぎだがこれだけ居れば可能性は―――いや、贅沢は禁物。領主の自慢である走鳥もどきでも、狩りに連れていって貰うには後五年は必要なのだから野生の姿を見られれば十分に嬉しい。


 ヨナスは山道を速く長く歩く準備を始める。弓は持たない。逃げる邪魔になるだけだ。


「其処に恐竜(よくぼう)が居る。何故果たさずにおられようか。……ウフッ」


******


 体に匂い消しの狩り用香水を付け、風下から慎重に安全な観察が出来ると見た場所へ白点の集団を迂回する。今の所白点の数は増えるばかりで出て行くのは極少数。異常だが見つからないよう動くのには有難い。

 そして安全な高台へ向かう最後の坂を慎重に音を出さないようゆっくりと上り、藪をかき分け、ヨナスの視界が開けた。

 

 ウサギ、キツネ、狼、鹿、熊。そして大型は居ないが竜。

 半分予想はしていても、尚強烈な光景に竜を見た喜びさえ素通りした。

 狩る者と狩られる者が並んで水を飲み休んでいる。そして何十にも及ぶ動物の群れなのに吠え声が聞こえず静か。不気味だった。


 息を潜めて思考を巡らす。最初に考え付いたのは山火事。

 しかし―――改めて動物たちを詳しく観察する。火傷や毛が火であぶられた様子は無い。今まで煙が上がってもいないし、見える範囲だと緑深い何時もの山である。散らばって普段の生活へ戻っても良いはずだった。

 他にあるとすれば地震、


 一斉に、弾かれたように獣たちが頭を森の奥へ向けた。

 一匹残らず立ち上がり緊張している。滅多に見ない大きさの熊、その熊を獲物にする事さえある群竜まで。

 ヨナスも必死になって見てる先を追うが、見えたのは木だけ。

 何か分からないかと視線を戻し、兎を見て気づいた。耳が良い獣は全て耳を奥に向けている。見えたのではなく聞いた? だが何を?


 考えている内に動物たちの緊張が少しずつ解けて又元のように休みだす。それを見てヨナスも観察を止めて距離を取った。

 歩きつつ悩む。欲望交じりの好奇心が強く疼いた。もしかしたら。噂にも聞か無いが、これだけの動物たちが縄張りから追い出された理由が生き物だとしたら。

 ヨナスの知識では声を遠くまで届かせる生物は象をはじめ皆巨体だ。これだけの動物を追い出す巨大な生物。考えただけで頬が緩む。

 しかし、もし本当にアレ系ならいよいよもって危険になる。こちらは遠くから動きを察知出来るが、相手が居るとすれば深い森の中のはずで、安全な場所がある可能性は低い。近距離でこちらを認識されれば……。


 それでも行くのか。と自問した所で、余りに背負った思考だと恥ずかしくなり自分の額を叩く。

 興奮しすぎて子供になっていた。行くに決まっている。今自分が予想してるのは生息を噂にも聞いた事が無く、居るとすれば人が入った記録の無い深部だろうと思っていたのだ。


 それが近くに居るかも知れない。しかも道中危険だったはずの動物が此処に居ると期待出来る。今行かなければ生涯後悔する確信があった。

 せめてもの大人な判断として持っている食料と塩分を確認し、探すのを今から夕方までの半分と決めた。大事なのはいざとなった時走って逃げられるよう静かに体力を温存しつつ歩く事。

 しかし決心が口から零れ落ちた。


「くふ、くふふふふ。生えてるのは鱗かなぁ? それとも羽毛かなぁ? 思い出に拾えるといいなぁ。そして絵を描くぞぉ。居てくれよスピノ、ギガノト、Tレックスぅ!」


 胸が苦しかった。

 成程。恋は癖になる感情だとヨナスは頷く。


******


 動物たちが顔を向けた方角へ既に鐘一つ半以上ヨナスは歩いている。

何時も見ている子爵領周囲全てを囲った壁のような山を越え、降りに入っていた。


 猟師も滅多に来ない領域で当然ヨナスは初めて。何といっても危ないのだ。山の内側より遥かに深い森の中群竜に襲われたら、映画ではないので子供だというだけで生き残れはしない。

 しかし道中は動物たちの大移動で出来た道があり、何度か逃げて来る動物を避けた以外は想像していたよりも楽だった。その動物たちも半鐘分以上感知出来ていない。

 理由は既に分かっている。又聞こえた。すぐさまヨナスは耳を抑える。


「ピイイイイイイィイィィィアァァァァ―――」


 抑えて尚耳が痛い。音の大きさに加え可聴領域を越えた音を含んでそうで、死前も含め聞いた記憶の無い声。これが動物たちの怯えの原因だろう。後は声の持ち主を確認すれば大満足となる。


 それらしき点も脳裏には見えていた。ただ不気味な程動きが無い。可能性としては―――出産か。だとすれば相当に気が立っている。と考え、改めて気を引き締める。

 色は白い。こちらへの害意はまだ持っていないはずだった。

 超常現象としか思えない第六感で動物の感情を判断する事に今更不安を覚えるが、少なくとも今まで外れた事は無いとヨナスは自分に言い聞かせ、更に注意を払い歩みを進める。


 にしても―――ちょっぴり残念。とヨナスは思う。

 あれだけの数を縄張りから追い出したのだから、体の芯から震える猛々しいうなり声を期待していた。しかし聞こえてくるのは甲高く、鳥の声に近い。

 昔聞いたティラノはハトのような声かもという論文よりはマシだがなぁ。と、益体の無い愚痴が浮かんだところで歩みを止める。いよいよの近さだ。


 軽い食事をして逃げやすいよう準備し、呼吸音を抑える為口に布を巻き出来る限り気配を消して地形を見定めつつ近よる。残念ながら観察するのに都合の良い高台は見つからない。

 となると週刊誌記者よろしく気配を消して観察するしかない。極めて不快な事実として、見つかれば殺されて当然の真似という意味では一緒なのだ。


 風下に回った途端匂いを感じた。美味しそうな、知っている匂い。腐毒ダケの匂い。

 あちゃー。である。そりゃ動けないよねと納得し、まだ見ぬ相手に敬意を抱く。死ぬ程苦しいはずなのにあんな大声を出し続けるとは見上げた根性だ。

 ヨナスの緊張が少し解ける。まず襲い掛かられる心配は無いだろう。目の前で両手を振りでもしない限り気づきさえしないかもしれない。地獄の腹痛はそういうものだ。

 それでも更に静かになるよう中腰になって進む。決して相手の視界に入らないよう草木の間を縫って。最後には藪の間から顔だけを出し、ヨナスはついに見た。


 鳥が―――うずくまっている。ように見えた。

 口に布を巻いた自分は賞賛に値するとヨナスは思う。でないと声を上げている。

 鳥のような声だとは思っても、本当に鳥が居るとは想像もしていない。ダチョウが幾ら大きくなろうと朝見たでかい熊や竜の群れを追い散らせるとは思えないからだ。


 一度地面を見て自分が落ち着くまで待ち、顔を上げて見直す。

 さっき見たままだった。上手い事側面に付けたので全体を間違いなく把握出来る。それでもヨナスは信じられず、歩いてる間に木からもいだ果物に麻薬成分があったのかと本気で疑い鼓動を計ろうとするが、興奮しても速くなると気づいてやめた。

 

 人を拒む深い森の中。猛毒のキノコが食い散らかされた広場で、ヨナスはクジラより巨大な鳥を見た。

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― 新着の感想 ―
[一言] アニキ更新おつ
[良い点] これから毎日投稿とか嬉しすぎる! オラ、ワクワクすっぞ!!
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