序章 選ばれし(ちょうどよい)者
貴方がなろうでは読んだ事の無い楽しめる話である事を願って
人とは全く違う在り方をする者が一つの星の将来を良くないと判断し、幾らかの可能性を増やすため些細な。しかし非常に稀な労力を払うと決めた。
全てを思うようにするのは簡単である。しかしかの者にとってはあくまでそこで生きる者たちが物事を動かすのが良い事。
ゆえにかの者は自分が増やしたい可能性に相応しい人を、その星と近い在り方をしていた地球から選んで送ると決める。
少しでも自然な変化とする為、今死んだ者の中から素養、経験を参考に送る者が選ばれ始めた。
かの者はその星が地球と同じになる事を望まない。
これにより違う文化、歴史、何より自然の循環を大切に考える者。となりアメリカ中国から殆どの候補が消える。
結局日本で小市民として比較的善良に生き、周りが溜息を吐くような死に方をした成人が選ばれた。
特別な者ではない。しかしそれで十分だった。
続けて変化の可能性を創ろうとかの者は自分の力をほんの一粒加え、その人物が無意識に望んだ能力と、知恵と考えている物を器に相応しい分だけ手に入るよう調整する。
最後に無用な混乱で疲弊しないよう自分の意志を会話したという形で記憶に刻み、赤子として形作り直し最もかの者の意志に沿う運命の交わる場所に、
置いた。
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その島でトカゲと鳥が喧嘩してから千を超える季節が回った。
大陸と言える大きな島がある。
北には人にとって住みやすい川と平野。南に行くにつれ高い山と深い森に肉食の動物、特に地球なら恐竜と呼ばれるであろう巨大な爬虫類までが生息しており人には踏み込めない魔境となっている島だ。
そしてどのようにして人々がこの島に住み始めたか忘れ去られる歳月が経ち国が生まれ。
水の権利や『あいつらの顔が気に食わねぇ』に至るまでの様々な理由で争い国が滅んだ。
結果、西には人の住む土地の三分の一を領土とし千年続いていると自負するジョウ皇国と東に数多の国となったのだが。
その数多の小国の一つに合理性、計画性、野心を併せ持った王が産まれる。
彼は生涯を自国を強くするために使い領土を三倍にした。この時点でこの国は東の国々にとって脅威である。のに、
更に東の残る国々が信じる神に対して語彙を尽くして罵声に近い非難を浴びせた偉業。更に二代続けての後継者選びに成功する。
その三代目後継者ヨアヒム・デラ・クローゼは更なる野心を胸に近隣諸国の併合を開始。
正に英雄。この大陸で竜角と称される力と計画性で着実に領土を増やし中央を統一。国土の広さをジョウ皇国と比肩するまでにした。
この国をクローゼ王国という。
さて、このクローゼ王国の首都ノイシュヴァンでは長い間一つの噂が大人気となっている。我等が畏れ敬う王、ヨアヒム陛下が遠征中出会った平民の娘に恋をし子まで産ませたというのだ。
人々はさもありなんと言った。王妃は非常に美しい方であると同時に少々厳しいのが見ただけで分かる。町娘の素朴さに癒されたのであろうと。
いかなる文化であろうと高貴な人の色恋話は最高の娯楽。当然竜巻もかくやという程に噂を巻き込みバラまきつつ疾風の速度で広まった。当人たちの迷惑を全く省みずに。
しかしラウメンと呼ばれる土地にはこの噂も届かない。
一応はクローゼ王国から領主が任命されているのだが南の魔境たる森林。
人々が恐れを込めて深部と呼ぶ領域にほど近い山の山頂という特殊な立地に加え、王国と繋がるのは不自然なまでにまっすぐな一本の道しか無いからだ。
ラウメンのある山はカルデラのような非常に珍しい地形の景観を持ち、掘らないでもあちらこちらに温泉がわき全土において温暖なこの島では貴重な夏も涼しい山岳気候。と観光資源に溢れている。
しかし深部への恐怖もあり多方面の意味で世情と遠く、人間が住むようになってから今まで一部の者しか知らない辺境筆頭。という地位を小動もさせずにいた。
そのラウメンの国のあちこちに作られているのと全く同じ作りの孤児院、表扉の前。
忽然と。籠が現れた。
中には布を掛けられた裸の赤子。そして目を開き扉を認め声を、
「あだぁ……」
口と舌が思うように動かなかったらしい。眉が寄った。そして手を上げ、
「うだっ?」
人生が現れる手に何も表れて無いと気付く。そーいえば、新しい生とあの方は仰っていた。
ほぅ、これは今の私が赤ん坊である確率98.73パーセント。と目をつむり頷き、己に落ち着くよう言い聞かせ、
「お、おだぁ?」
目をつむっても開いても、脳裏に感じるとしか表現しようのない感じで動く白い点に気づいた。
白い点は一部に偏っていて数十個は在る。何だこれ……とまで考え、赤子は深刻な衝動により思考を中止した。つまり、
うんこがしたい。
尻に力を入れ眉を寄せ我慢し更に我慢する。立とうとしたが立てない。
となると自分での解決は不可能。だが希望はあった。扉の向こうから人のたてる物音と声が少しづつ近くなっているのだ。
と、同時に白い点も動いていると気づく。又白い点を感じるのも扉の方向だった。
もしかしてこの白い点は音の元、人の場所を感じ取っているのかと思う。
しかしそれ以上を考えられない。ついに極まって来たのだ。
加えて人が自分に気付いたとしても、極まっていると気付いてくれる可能性は低いとまで考え―――諦めた。当然大放出される。
爽快だったのも一瞬すぐさま臭さと不快な感触に哀しみを抱く。しかし自分ではどうしようもない。
普通の赤子ならすぐに泣き喚いたのは間違いない。しかしこの赤子はちょいと賢く忍耐強かった。
物音が扉の近くに来るまで声を上げるのを我慢し、力をため続ける。そしてついに一つの白い点が今まででもっとも中心に近くなった時、扉の向こうからもはっきりと足音が聞こえた。
今
「おだああああぁぁあぁ!!! うだぁぁぁあああああ!! あっだあああああ!!」
ドダンッ! と扉が開き籠が風圧で動され赤子の鼓動が早くなる。一方開けた人間はもっと驚いていた。
驚いている場合ではない。この初めて会った三十歳頃と思われるオバ……お姉さんの人となり次第で自分の運命は決まるのだ。と赤子は忙しくあの方に祈りつつ手を相手へ向ける。
緊張の一瞬。そして赤子は祈りが聞き届けられた、と考えた。女性が暖かい笑顔を浮かばせ手を伸ばして自分を抱え上げたからだ。
「エイングルッチ。ノウン?」
赤子は何を言ってるか全くわからん。と思う。ぬおっ。このオバハン片手を離しおった。重みの掛かる面積が減って痛い。声を上げて抗議すべきか迷っていると、
「ワサーエクステンス」
尻に水がかけられた。おお、あり難い。尻の嫌な感触が洗い流されていく。しかし……お姉さんは両手に何も持っていなかったと思い出す。
少しして尻に当たる水の感触が止まりお姉さんが籠に入っていた布で水を拭ったあと、両手で抱え直してくれたのでほっと息を吐きつつ考える。
ジョウロみたいなのを置いたりはしなかった。やはり何も持っていない。なのに尻を水で洗ってくれた。それにさっきお姉さんは、私の尻に片手を向けた姿勢を取っていたような。
もしかして―――との思いに囚われそうだけども、それより今私が取るべき行動は……と数瞬考え、赤子は最適解に至ったとの確信と共に、
目の前の女性に向けて全力の笑顔で媚びを売った。
女性も笑みを深めると赤子を高く持ち上げて、
「ネットエインビビー、エインナーム、ヨナス」
赤子はキャッキャと愛らしく聞こえるよう苦心して声を出しつつ女性の笑顔を見て、どうも悪くない所に拾われたようだと思う。そして十日後、この時ヨナスと名付けられた事を知った。
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