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車輪の無い世界へ転生した男  作者: 双月 仁介
第7章 大陸暦1153年
98/160

098 異国の盗賊団③

 まだ正午過ぎで日は高いけど、あまりもたもたしていられない。12人の盗賊をロープで木に縛り付け、一人だけはアジトへの道案内にした。

 アジトの場所は馬車で向かうことの難しい山の中らしいので、エリカとアリスを残して俺一人で向かうことにしたよ(正確には、俺と道案内の盗賊の二人)。まぁ、徒歩20分くらいらしいので、アジトでの戦闘も含めて往復1時間ってところか。

「ルイさん、エリカとアリスを護衛に残しますので、すみませんが1時間ほどここで待っていてもらえますか?」

「ああ、それは構わないが、君一人で大丈夫なのかい?」

「ええ、問題ありません。エリカ、アリスよろしく頼むよ」

「分かったわ。くれぐれも女性達には配慮してあげてね」

 エリカが沈痛な表情で俺に念押ししたけど、状況次第では留守番役の盗賊達は半殺しにしてしまうかもしれないな。


 道案内の盗賊は、歩くのに問題なさそうな奴を選んで両手は後ろ手に縛っている。さらに逃げ出さないように腰ひもも付けている。

 そいつは抵抗する気力も逃げ出す気力も無いのか、おとなしくアジトに案内してくれた。

 山の中に自然にできた洞窟みたいなところがあり、そこの入口近くに見張りの男が一人座っていた。やる気が無さそうな感じで、うつらうつらと半分居眠りしているようだ。

 俺はまず道案内役の盗賊が逃げないように鳩尾(みぞおち)を殴って気絶させ、歩哨の男に一瞬で近付き、同じように鳩尾(みぞおち)に一撃を食らわせたあと、ロープで手足を拘束した。

 洞窟の中には所々に火が()かれているようで、ぼんやりと通路が照らされている。ただ、洞窟入口から中の気配を探ったけど、人の存在がよく分からない。

 物音を立てないようにゆっくりと中へ侵入し、徐々に目を慣らしていく。20人近くが生活できるくらいの広さがあるわけだから、洞窟の中はかなり広いはずだ。細い道が奥のほうまで続いているようだが、分岐は無いみたい。

 奥にはかなり大きな広間みたいな空間があり、二人の男が酒盛りをしていた。昼間っから飲んでたら頭目に怒られるんじゃないか?いや、もう怒られることはないか。頭目はオネエになってしまったし…。

 (さら)われた女性達はどこだろう?大広間のさらに奥まったところに、ぼろぼろの服を着た三人の女性達が横たわっていた。生きているかどうかは遠くてよく分からない。

 盗賊二人とは距離が離れているので、人質にされる危険は無いな。そう判断した俺は、大広間の入口から盗賊達の位置まで走っていった。そいつらはかなり酩酊しているのか、全く俺に気付かない。酔っ払い二人を簡単に昏倒させたあと、ロープで手足を拘束した。これで全員のはずなんだけど、警戒は(ゆる)めないようにしよう。


 俺は周囲を警戒しつつ、女性達のもとへと向かった。

「おい、君達、大丈夫か?」

 呼びかけにゆっくりと目を開けた女性達は緩慢な動作で起き上がった。

「言うとおりにしますから、もう(ひど)いことしないで」

 俺はマジックバッグから3枚の毛布を取り出して、一人一人に手渡した。

「助けに来た。歩けるなら自力で歩いてくれるかな。歩けないなら俺がおぶっていくけど」

 女性達は何を言われたのかすぐには分からなかったみたいだけど、徐々に理解したのか目を見開いていった。

「私達、帰れるの?」

「助けに来た?え?え?本当に?」

「信じられない…。はっ、早くここを出ないとあいつらが帰ってきちゃう」

「ああ、大丈夫だよ。街道上で13人の盗賊を捕縛して、ここにいた留守番役も全員倒したから。どうでも良いけど、ここの頭目の股間を俺の仲間の女性が蹴り上げていたよ。あれ、多分つぶれただろうな。何がとは言わないけど」

「ぷっ、ふふふ」

 少しは心が軽くなったのか、思わず笑いが漏れたみたいだ。さすがです、エリカさん。


 大広間を横断して出口へ向かう際、ロープで縛られて転がっている盗賊二人の股間を思いっきり踏みつけていった。女性三人ともね。

 女性達は自力で歩くことができたので、俺も助かったよ。

 なお、馬車への帰路は30分くらいかかったけど、街道上に停車している馬車を発見してほっとした(道に迷っていなかったことに安心した)。

「おおい、戻ったよー」

 俺が呼びかけると御者台にいたルイさんとマリーさんが手を振ってくれた。馬車の中からはエリカとアリスが飛び出してきて、俺のほうへ走り寄ってきた。

 俺の後ろにいた女性達は、近付いてくるエリカとアリスにちょっとビクッとしたみたいだけど、俺の仲間だと言ったら安心したようだ。

「マーク、遅いわよ。皆さん、はじめまして。エリカと申します。すぐに出発しますので馬車に乗ってください」

「アリスです。お手伝いします」

 女性同士のほうが色々ときめ細やかなお世話ができると思い、俺が御者台に座ってマリーさんには馬車の中に入ってもらった。背後から女性達のすすり泣く声が聞こえてきたけど、ルイさんと俺は気付かないふりをしたよ。


 その日の夕方には次の宿場町に到着し、この一件を警察に通報するとともに被害者の女性達を引き渡した。あとは警察にお任せしよう。

 なお、別れ際に女性達から俺達への心からの感謝が伝えられた。かなり(ひど)い目にあったわけだけど、心を強く持って生きて欲しいと願った俺達だった。


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