表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
車輪の無い世界へ転生した男  作者: 双月 仁介
第7章 大陸暦1153年
97/160

097 異国の盗賊団②

「マーク君、どうする?」

 ルイさんが荷台のほうを振り返り、俺に問いかけた。少し声が震えているけど、意外にも落ち着いている。なお、荷台には(ほろ)がかけられているので、盗賊達から俺達3人は見えていない。

「そうですね。面倒ですが殲滅(せんめつ)しましょう。アリスは後方の敵をお願いできるかな?エリカは全体のサポートをよろしく」

 俺は木刀を腰に差して、左手にはスリングショットを持ってから御者台に出た。怖いのは弓矢だな。まずは弓使いを倒したいところだ。後方の奴らの中には弓を持っている者はいなかったけど、前方の敵の中の3人くらいが弓を手にしている。もしかしたら木の上にも弓部隊が待機している可能性もあるけど、そいつらはエリカに任せよう。

「ルイさんとマリーさんは馬車の中へ」

 二人が退避したのを確認した俺は、スリングショットのゴムを引き絞り直径1インチの滑車を生成して、それを撃ち出した。

 弓を持つ3人の中の一人については俺との間の直線上に誰もいなかったので、まずはそいつからだ。

 ちなみに身体強化は発動済み。この状態なら飛んでくる矢すらかわせるからね。

 最初に狙った弓持ちの男は、頭に滑車が命中して後ろに倒れた。さらに次々に滑車弾を放つ俺。身体強化によって1秒間に2発は撃てるよ。

 矢が馬達に当たると困るので、とにかく弓持ちを先に倒すことが重要だ。10秒間ほど滑車弾を発射したあと、俺は前方へ走り出した。すでに木刀は腰から抜いて、右手に()げている。


 前方8名中、5名はすでに戦闘不能になっている。残り3名。巨漢の頭目と下品な小男、それに顎鬚(あごひげ)()やした中年男が一人だ。

 御者台を降りる前にちらっと後方を確認したけど、すでにアリスは5名の男達を制圧していた。うん、さすがです。もう、敬意をこめてアリスさんと呼んだほうが良いかもしれない。

 俺は一瞬で顎鬚(あごひげ)男との間合いを詰めて、木刀を一閃(いっせん)させた。木刀が折れると困るので「魔力付与」を使って硬化させているけど、斬れない様には調整した。まぁ、骨くらいは折れるだろうけどね。

 続けて背中を向けて逃げ出そうとした小男を背後から袈裟懸けに打ちのめした。

 さて、残りは頭目だけだね。


「ちょ、ちょっと待て。いや、待ってくれ。お、お前、俺達の仲間にならないか?それだけの腕があればすぐに幹部にしてやるぞ。どうだ?悪い話じゃないだろう?」

 でかい体して見掛け倒しか?こいつ。

「断る」

 簡潔に返答したけど、相手も予想していたのだろう。2mくらいありそうなでっかい剣を振り回し始めた。なかなかの膂力(りょりょく)だな。

 でも、身体強化した俺の動きを見切れるはずもなく、頭目のおっさんが振り回す剣をかいくぐり、俺は頭目の右腕、左腕、右足の順に打ち据えていった。あとで尋問するために手加減しているけど、骨くらいは折れているだろう。

 結局、総戦闘時間(身体強化した時間)は20秒にも満たない時間だった。良かった。明日の筋肉痛は回避できそうだ。


「エリカ、周囲の状況はどうだい?伏兵はいそうかな?」

 馬車から出てきたエリカが俺に言った。

「レイスで周囲を探索したけど、これで全員のようよ。アジトのほうは知らないけど」

 目には見えない偵察要員(霊能力者には見えるかもしれないけど)を使役できるエリカは、周辺探索にはもってこいなのだ。

「アリスもさすがだね。もちろん、エリカもだけど、二人に同行してもらって本当に助かったよ」

 俺一人だけだったら、とても手が回らなかったからね。護衛対象のルイさんやマリーさんを人質に取られたりしたら厄介だったからなぁ。

「えへへ、()められました。マークのお役に立てて嬉しいです。いえ、嬉しいよ」

 アリスの言葉遣いには、まだ敬語が混じってしまいがちだ。もう、俺を呼び捨てにすることには慣れたみたいだけど。


「ルイさん、マリーさん、もう出てきても大丈夫ですよ」

 馬車の中に声をかけると、二人が出てきて周囲の惨状に驚いている。総勢13人の男達が倒れて(うめ)いているからね。

「マーク君、アリスさん、すごいな、君達は」

「ええ、本当に。守ってくれてありがとう」

 ルイさんとマリーさんの称賛とお礼の言葉に対し、俺は一言申し添えた。

「実はエリカも魔法師として活躍していたんですよ」

 二人は驚いた顔でエリカを見たあと、エリカにもお礼を言った。エリカさん、嬉しそうです。


「さて、こいつらの後始末が残ってるんだけど、どうするかな?」

 俺の問い掛けにルイさんが答えた。

「木に縛り付けておいて、次の宿場町でこの国の警察に通報すれば良いんじゃないかな?連行していくわけにもいかないしね」

「そうですね。ただし、念のためこいつらのアジトに(さら)ってきた人がいないかどうかだけ確認しておきましょう」

 俺の言葉にエリカがすぐに動いた。この辺、以心伝心で、もはや何も言わなくても意思が通じるんだよな。

 へたり込んでいる頭目の頭にエリカの右手が置かれた。徐々にエリカの顔が(けわ)しくなっていく。

「近隣の村から(さら)ってきた若い女性が3人、こいつらのアジトにいるわね。アリスには言えないような(ひど)い扱いを受けているわ。あと、アジトの見張りが3人残っているわね」

 そしてエリカの右足が頭目の股間に吸い込まれた。ぐしゃっという嫌な音が聞こえたけど、気のせいだと信じたい。絶対、身体強化してからキックしたよ、この人。

 頭目が顔を地面に付けて悶絶している。両腕の骨を折っていなければ股間を押さえていたことだろう。俺も股間がヒュンとなったよ。怖い…。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ