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車輪の無い世界へ転生した男  作者: 双月 仁介
第7章 大陸暦1153年
95/160

095 出発

 4月になったけど、すぐに旅立つわけじゃなく、一週間ほど準備期間に()てることにした。今住んでいる賃貸アパートの契約解除とか、鍛冶屋や木工場への挨拶回りもあるしね。

 俺からの車輪関係の供給が止まってしまうことになるんだけど、最近は車輪製造に挑戦している業者も多く、そこそこの品質のもの(車輪や滑車、キャスター等)も作れるようになってきたらしい。自転車のタイヤだけは模倣(もほう)できないみたいだけど。

 自転車やリヤカーの製造が(とどこお)るかもしれないけど、それは仕方ないよね。木製の車輪なんかで代用してもらうしかない。


 あと、エリカに国王陛下からの特命が下ったことで、エリカの実家のアトキンス家が社交界で自慢しているらしい。死霊魔法なんて気味の悪い【恩恵(ギフト)】を持つ娘はアトキンス家には存在しない…そういうスタンスで長年エリカとは没交渉だった実家だよ。全く厚顔無恥(こうがんむち)(はなは)だしい。

 エリカ自身はあまり気にしてないみたいだけどね。

「私の家族はカーチス家の皆さんであって、アトキンス家ではないわ。エリカ・アトキンスではなく、エリカ・カーチスと名乗りたいくらいよ」

「俺の家族を褒めてもらって嬉しいよ。でも、君の実家と和解するチャンスでもあるし、一度アトキンス家へ戻ったほうが良いんじゃないか?」

「いいえ、二度とアトキンス家の敷居を(また)がないと女神様に誓ったのよ。もう両親の顔も忘れたわ」

 まだ幼い頃に実の両親から拒絶されたわけだから、分からなくもないけどね。うん、エリカのしたいようにさせよう。俺はそれを応援するだけだ。


 旅に必要な様々な道具類はマジックバッグに入れていくんだけど、俺達三人には最新のマジックバッグが贈られた。もちろん、ソフィアちゃん作だ。

 最初に使用した人にroot(ルート)権(管理者権限)があり、root(ルート)(管理者)であればユーザを追加することも可能だ。俺が管理者であるマジックバッグにはエリカとアリスちゃんも利用できるようにユーザ登録を(おこな)ったよ。俺に何かあったときに取り出せないと困るからね。

 余談だけど、root(ルート)という言葉を使っているのは俺だけだ。前世では趣味でUNIX(ユニックス)サーバを構築したことがあったので…。

 エリカのマジックバッグにはアリスちゃんを、アリスちゃんのにはエリカをユーザ登録しているらしい。あれ、俺は?

「女の子のバッグを(のぞ)こうなんて最低ね、この変態」

 …だそうです。

 大事なのは外観サイズと内部倍率なんだけど、外観サイズは今まで使っていたものと同じ10cm×20cm×2cmで、内部倍率は50倍だ。これは現時点でソフィアちゃんが生成できる最大の倍率らしい。つまり、内部の大きさは5m×10m×1mだよ。ちょっとすごいよね。

 これで、必要かどうか悩んだ物については、何も考えずにマジックバッグに放り込んでおくことができるよ。


 目的地までの移動手段については馬車や自転車を考えてみたけど、やはり目立ち過ぎるということで却下した。俺達の国では馬車はかなり普及しているし、近隣諸国くらいまではその存在は知られている(交易で使うので)。でも遠方の国では車輪の存在がまだ周知されていないのだ。

 …ってことで、交易で使う商人の馬車に便乗させてもらい、交易路が無い遠方の国では徒歩移動にしたよ。エリカの体力が少し心配だけどね。


 アパートを引き払ったため、俺とアリスちゃんは王都の宿屋に泊まっている(もちろん別々の部屋に)。

 今日は王都を出発する日だ。宿屋の1階の食堂で朝食を()りながらアリスちゃんと会話した。

「いよいよ出発だね。俺の仕事に付き合わせてしまって、本当にごめんよ。君の身は俺の命に代えても絶対に守るからね」

「逆ですよ、マーク様。私があなた様をお守りしますから」

「うん、ありがとう。あと今更(いまさら)だけど、俺のことはマークと呼び捨てにしてくれないかな。主従の関係じゃなく対等の友人として…。もちろん、敬語も不要だ。あと、俺のほうもアリスちゃんじゃなくて、アリスと呼ばせてもらうよ」

 本当はもっと早く言うべきだったんだけど、きっかけが無かったんだよな。

「えっと、それがマーク様のお望みであれば…。いえ、ま、マークの言う通りにします。いえ、言う通りにす、するわ」

「はは、慣れないうちは大変だろうけど、エリカを手本にしてくれれば良いから」

 アリスちゃん、いやアリスもツンデレキャラになったら、ちょっと困るけどね。


 朝食後、宿屋にやってきたエリカと合流し、東の隣国であるマイフォーディア王国に馬車で交易に(おもむ)くという商会に向かった。

 なお、馬車に乗せてもらう商人さんに迷惑をかけられないから見送りは最小限の人数にしてもらったよ。余談だけど、国王陛下や大司教猊下(げいか)が見送りに来ようとしたことについては、全力でお断りさせていただいた。勇者の旅立ちじゃあるまいし…。

 商会の前には見送りである友人達がすでに勢揃いしていた。エリザベス様、その護衛のダンとマッシュ、アンネット嬢とソフィアちゃんのアーレイバーク姉妹、その護衛のジョセフィンさんとセシリアさん、ビルにアリアの9人だ。

 身分的に最上位の伯爵家ご令嬢であるエリザベス様から送別の言葉が贈られた。

「マーク、エリカ、アリス、必ずここへ戻ってくるようにね。何年かかっても待ってるけど、できるだけ早く帰ってきて欲しいわ」

 何か意味深な発言だな。まさかのハーレム展開でもあるまいし、おそらく社交辞令の一つだろう。うん、あまり気にしないでおこう。

「マーク、必ず帰ってきてね。待ってるから」

「マークお兄ちゃん、帰ってきたら私と結婚だよ。忘れないでね」

 アンネット嬢の控え目な言葉とソフィアちゃんの純粋な好意が嬉しい。君達、エリカとアリスにも声をかけなさいよ。

「お前がいないと寂しくなるな。早いとこ帰国して、商会を立ち上げて僕を雇ってくれよ」

 ビルは数少ない、いや唯一の男友達だからとても貴重な存在だ。あ、腐の方々、BL展開はございません。

「マーク、エリカ様、アリス、あたいん()の工房を国一番の工房にして待ってるからね。楽しみにしててね」

 アリアん()は今でもかなりの大工房なんだけど、まだ大きくするつもりかよ。まぁ、楽しみではあるな。

 あとはジョセフィンさんやダンなど護衛の人達からも声をかけてもらった。


「皆さん、本当にありがとう。ちょっとした仕事だから、簡単に済ませてすぐに帰ってくるよ」

 全然ちょっとした仕事じゃないし、簡単に済むとも思えないけどね。

 俺の言葉に続いてエリカとアリスも発言した。

「みんな、お見送りありがとう。こいつのことは絶対に守ってあげるから心配しないでね」

「皆様、行って参ります。マーク様、いえ、ま、マークのことは私が守りますから」

 あれ?なんだか俺が二人に守られる(ふう)になってるけど、これって本来は逆だよね。えっと、皆さん生温(なまあたた)かい目で俺を見るのは()めてくれるかな。


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