表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
車輪の無い世界へ転生した男  作者: 双月 仁介
第7章 大陸暦1153年
94/160

094 送別会

 今日は3月30日。この世界、一か月の日数はどの月も30日なので、月末であり、年度末でもある。

 いよいよ、勤め先の王宮を退職する日となったわけだけど、夜には職場の皆さんが送別会を開いてくれるらしい。二年ほど在籍していた外燃機関研究室と一年ちょいの土木・建築研究室、その合同送別会だ。

 なお、それぞれの研究テーマについては、一歩一歩ゆっくりではあるけど着実に成果を上げている。もはや、俺がアドバイスしなくても大丈夫だろう。帰国したときに研究がどこまで進んでいるのか、今から楽しみだ。

「マーク、帰国したら職場に復帰してくれるんだよな?」

 外燃機関研究室のゴードン室長に聞かれたけど、先のことは分からないな。自分の商会を立ち上げるという夢は諦めてないからね。

「きっと私に会いたくて研究室に戻るはずですよ。ふっ、私も罪な女ね」

 研究員のマーガレット女史が(わけ)の分からんことを言ってるけど、とりあえず無視しておこう。

 俺の代わりに土木・建築研究室のロバート室長が対応してくれた。

「マーガレット、お前、何言ってるんだ?自分の(とし)を考えろよ」

 マーガレットさんがロバート室長の(すね)を右足で蹴り上げた。ちなみに20代後半くらいなのでそんなに歳を取っているわけではない。痛みでうずくまるロバート室長は気の毒だけど、どう考えても自業自得だろう。口は(わざわい)の元とはよく言ったものだね。

 なんとなくだが、独身のロバート室長は同じく独身のマーガレット女史のことが好きなんじゃないかと思っている。好きな子に意地悪するって小学生かよ。


 今年17歳になる(まだ16歳だけど)俺は成人済みなのでお酒を飲んでも構わないんだけど、どうしても前世の感覚でお酒は20歳(はたち)からって思ってしまう。

 なので、夜の送別会でも酒は控えさせてもらった。まぁ、歓迎会でも飲んでなかったから、下戸(げこ)(酒が飲めない人)だと思われているかもしれない。そのほうが良いけどね。

「おい、マーク、俺の酒が飲めねぇってのか?」

 これはおじさん達の誰かの発言ではなく、マーガレットさんの言葉だ。一人称が「俺」になってるし、からみ酒だし、なるほど可愛いのに浮いた噂が全く無い理由はこれか。歓迎会のときは猫をかぶっていたのだろう。

 俺の首に左腕を回して、右手に持ったジョッキグラスをあおっている。典型的な酔っ払いだ。

「すまんな、マーク。こいつの酒癖(さけぐせ)の悪さは一部では有名なんだが、お前は初めて見たんだろう?全く、これさえ無けりゃ優秀な研究員なんだがなぁ」

 ゴードン室長がうんざりした顔で俺に謝ってくれたけど、癖のある部下を持つ上司は大変だなぁ…と同情するよ。

「全く教会の仕事だか王室の仕事だか知らないが、こいつを外国に出張させるなんて間違ってるよな。おい、ロバート。お前もそう思うだろう?」

 女性らしさのかけらも無いセリフだけど、これもマーガレットさんの発言だ。

「お前、王室批判とかするなよな。やばいって」

 ロバート室長がたしなめてくれたけど、どうやら酒乱の対応には慣れている感じだ。多分、いつもフォローしてるんじゃないかな。そして、これも含めてマーガレットさんのことが好きなんだと思う。うん、応援するよ、ロバート室長。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ