094 送別会
今日は3月30日。この世界、一か月の日数はどの月も30日なので、月末であり、年度末でもある。
いよいよ、勤め先の王宮を退職する日となったわけだけど、夜には職場の皆さんが送別会を開いてくれるらしい。二年ほど在籍していた外燃機関研究室と一年ちょいの土木・建築研究室、その合同送別会だ。
なお、それぞれの研究テーマについては、一歩一歩ゆっくりではあるけど着実に成果を上げている。もはや、俺がアドバイスしなくても大丈夫だろう。帰国したときに研究がどこまで進んでいるのか、今から楽しみだ。
「マーク、帰国したら職場に復帰してくれるんだよな?」
外燃機関研究室のゴードン室長に聞かれたけど、先のことは分からないな。自分の商会を立ち上げるという夢は諦めてないからね。
「きっと私に会いたくて研究室に戻るはずですよ。ふっ、私も罪な女ね」
研究員のマーガレット女史が訳の分からんことを言ってるけど、とりあえず無視しておこう。
俺の代わりに土木・建築研究室のロバート室長が対応してくれた。
「マーガレット、お前、何言ってるんだ?自分の歳を考えろよ」
マーガレットさんがロバート室長の脛を右足で蹴り上げた。ちなみに20代後半くらいなのでそんなに歳を取っているわけではない。痛みでうずくまるロバート室長は気の毒だけど、どう考えても自業自得だろう。口は禍の元とはよく言ったものだね。
なんとなくだが、独身のロバート室長は同じく独身のマーガレット女史のことが好きなんじゃないかと思っている。好きな子に意地悪するって小学生かよ。
今年17歳になる(まだ16歳だけど)俺は成人済みなのでお酒を飲んでも構わないんだけど、どうしても前世の感覚でお酒は20歳からって思ってしまう。
なので、夜の送別会でも酒は控えさせてもらった。まぁ、歓迎会でも飲んでなかったから、下戸(酒が飲めない人)だと思われているかもしれない。そのほうが良いけどね。
「おい、マーク、俺の酒が飲めねぇってのか?」
これはおじさん達の誰かの発言ではなく、マーガレットさんの言葉だ。一人称が「俺」になってるし、からみ酒だし、なるほど可愛いのに浮いた噂が全く無い理由はこれか。歓迎会のときは猫をかぶっていたのだろう。
俺の首に左腕を回して、右手に持ったジョッキグラスをあおっている。典型的な酔っ払いだ。
「すまんな、マーク。こいつの酒癖の悪さは一部では有名なんだが、お前は初めて見たんだろう?全く、これさえ無けりゃ優秀な研究員なんだがなぁ」
ゴードン室長がうんざりした顔で俺に謝ってくれたけど、癖のある部下を持つ上司は大変だなぁ…と同情するよ。
「全く教会の仕事だか王室の仕事だか知らないが、こいつを外国に出張させるなんて間違ってるよな。おい、ロバート。お前もそう思うだろう?」
女性らしさのかけらも無いセリフだけど、これもマーガレットさんの発言だ。
「お前、王室批判とかするなよな。やばいって」
ロバート室長がたしなめてくれたけど、どうやら酒乱の対応には慣れている感じだ。多分、いつもフォローしてるんじゃないかな。そして、これも含めてマーガレットさんのことが好きなんだと思う。うん、応援するよ、ロバート室長。




