093 デート⑤
警察が来て男は取り押さえられた。そして、自分がナイフを突きつけていた女性が伯爵令嬢であったことに愕然としていた。まぁ、普通は死罪になってもおかしくないからね。
てか、やってきた警察官の一人はエリカのときの担当者と同じ人だったよ。
「マーク君、また君か…。しかも前回は子爵令嬢で、今回は伯爵令嬢ときたもんだ。何者だよ、君は」
「ハハハ、なんだかトラブルによく会いますね。でも今回、俺は何もしていませんよ」
うん、本当に会話をしただけだよ。
「ねぇ、チンピラのお兄さん、俺もこの方も何もしてないよね?」
俺が低い声で問いかけると、前かがみで股間を押さえて立っていた男は直立不動になって言った。
「はっ、はい!その通りです。俺がナイフで脅した罪は償わさせていただきますので、なにとぞご容赦ください」
「ほら、このお兄さんもこう言ってることですし、俺達はもう行っても良いですかね?」
「いや、うーん、しかし調書が…」
ここでエリザベス様が鶴の一声を発した。
「何かあったらジョンソン伯爵家にいらっしゃいな。私達のデートを邪魔するとお父様に言いつけますわよ」
ふ、これが貴族特権というものだよ。警察の人もこれには諦めたようで、俺達は仕方なく解放された。てか、詳細に説明すると、この男が死刑になりかねないからね。エリザベス様も俺もそこまでは望んじゃいないし…。
「エリザベス様、申し訳ありません。あのチンピラは俺の関係者だったみたいで…」
「いえ、大丈夫。ちょっと楽しかったわ。あと、私のことは、ベ、ベスと呼んでいただいても構わなくてよ」
おっと、愛称呼びって不敬罪にならないか?まぁ、友達だから良いか。
「分かったよ、ベス。それじゃあ、デートの続きをしようか」
このあと、昼食を公園に出ていた様々な屋台の食べ歩きで済ませたんだけど、高級レストランよりは庶民のB級グルメみたいなのが良いかと思ったんだよね。エリザベス様も楽しそうだったし、まぁ良いだろう。お父上のジョンソン伯爵様には怒られるかもしれないけど。
食後は雑貨屋や宝石店なんかに寄ってみたんだけど、そこそこ高いネックレスをエリザベス様が熱心に見ていたので、俺は店員を呼び止めた。
「このネックレスだけど、ガラスケースから出して良く見せてくれないかな」
店員は俺を見てどうしようか一瞬迷った素振りを見せたけど、隣にいるエリザベス様を見てすぐにネックレスをケースから取り出し、俺に渡してくれた。やはり高貴なオーラって分かるものなんだな。
「ベス、これが気に入っているのなら買ってあげようか?とりあえず、身に着けてみなよ」
「ええ、ありがとう。着けていただけるかしら」
うお、いきなりハードルの高いご指示を…。ネックレスの留め具なんか良く知らないぞ。目で店員に助けを求めると、さすがはプロだね。すぐに着け方を教えてくれたよ。
んで、俺はエリザベス様の後ろに回って、ネックレスを着けてあげた。肌に触れないようにするため、緊張で手が震えてしまう。
「どうかしら?似合ってる?」
なにしろ元が超絶美人だから、何を着けても似合うと思う。美人は得だね。
「ああ、似合っているよ。美人なのが一際引き立つね」
「あら、マークの口からお世辞が出るなんて珍しいこともあるものね」
実際、お世辞じゃなく本心なんだけど、照れくさいからそれは言うまい。あと、ネックレスは俺が買ってエリザベス様にプレゼントしたんだけど、価格は68万エンだったよ。伯爵令嬢にとっては安物だろうけど、庶民にとってはなかなかの値段だ。まぁ、チンピライベントのお詫びも兼ねてるから良しとしよう。




