092 デート④
今日は休日なんだけど、俺は教会へ行く日ってこともあって、身体強化訓練はお休みにした。そして女神との雑談のあと、俺が教会前で待っているとジョンソン家の馬車がやってきた。そう、今日はエリザベス様とのデートの日なのだ。
なかなか時間の都合がつかなかったんだけど、ようやく約束(身体強化に成功したお祝いにデートするという約束)を果たせるよ。ちなみにアリスちゃんとのデートの約束については、とっくに果たしている(なにしろ隣の部屋だから、時間の都合はつきやすい)。
「マーク坊ちゃん、うちのお嬢をよろしくお願いするぜ」
「エリザベス様、ダン、おはよう。もちろん、しっかり護衛するよ。実はエリザベス様って俺よりも強いから、逆に俺が護衛される側になるかもしれないけどね」
「マーク、おはよう。余計なことを言ってないで、今日はしっかりエスコートしてね」
俺の軽口に対して軽く釘を刺されたけど、嘘は言ってないよ。現時点では本当に俺よりも強いので…。
なお、デートコースはエリカのときと同じく、平民街区の街歩きだ。ただ、本当のお嬢様だから平民相手の店なんか見て楽しいかどうかは分からないな。エリカは俺と同じように平民っぽい考え方の貴族だから、安物のアクセサリなんかでも買ってあげると喜んでくれたけど…。
「私、こういう風にお店を見ながら歩くのなんて初めてですわ。お店の品揃えはともかくとして、マークと二人で歩くこと自体が楽しいわね」
「うん、だったら良かったよ。エリザベス様のお眼鏡にかなう商品はなかなか無いだろうけど、もしあったら言って欲しいな。プレゼントさせてもらうよ」
「ふふ、じゃあできるだけ高価な品を見つけなきゃね」
心の中で冷や汗が流れた瞬間だった。平民街区にある店であっても高いものは高いからね。
ちなみに、エリザベス様はエリカやアリスちゃんのように俺のことを恋愛対象として見ていないはずなので、俺としても男友達みたいな感覚で気楽に付き合えるよ。ただ、女性であることは間違いないので、デート費用は俺持ちだけどね。
腕を組んだりすることもなく、俺達は横並びで歩いている。俺が車道側でエリザベス様が店舗側なのは当然のマナーだ。
突然、店と店の間の路地から腕が伸びてきてエリザベス様の身体を拘束した。不審者は左腕をエリザベス様の首に回して、右手にはナイフを持っている。俺はとっさに対応できなかったんだけど、それはエリザベス様も同じだったようだ。
「おい、兄ちゃん。俺を覚えているか?」
不審者はチンピラ風の男だったんだけど、見覚えが無い。
「いや、誰だ?お前」
「くそっ!てめえのせいで俺の左腕は治るまでにかなりの時間と金がかかったってのに、覚えてねぇのかよ」
いや、本当に見覚えが無いんだけどな。
「すまん、人違いじゃないか?それよりもその女性を解放しろ。これはお前のためを思って言ってるんだぞ」
エリザベス様が手加減できるかどうか分からないし、手加減できなかった場合は死んでしまう可能性もあるからね。
「お前に肩の関節を外された恨みは忘れてねぇぞ。あと、こいつは人質だ。まずはそうだな、土下座でもしてもらおうか」
「あー、思い出した。そうかそうか、あのときのチンピラか。思い出せてすっきりしたよ」
エリカとデートしたときに突っかかってきたチンピラ5人組の一人だよ。
「てめぇ、誰がチンピラだ。それよりもお前、この女の顔に傷が付いても良いってのか?さっさと土下座しやがれ」
「ベス、君なら簡単にそいつを制圧できるよね?」
本名を言うのはまずいと思ったので、勝手に愛称で呼んだけど、あとで怒られるかな?
俺の言葉に頬を赤らめたエリザベス様は、少し硬直したみたいだったけど、すぐにその右手でチンピラの右手首をつかみ、左手を身体の後ろに回したように見えた。
「ギャー!!!」
突然、チンピラの悲鳴が通りに鳴り響いた。エリザベス様がその場をさっと離れ、俺のもとへやってきた。そして、哀れなチンピラは股間を両手で押さえて土下座の体勢(両膝と頭が地面に付いている状態)で悶絶している。
あ、察しました。お気の毒です。エリザベス様の左手が良い仕事をしたみたいですね。
「あの、まさか身体強化で握りつぶしたりしてないよね?」
「するわけないでしょ!」
あー、良かったよ。つぶしちゃった場合、治癒魔法で治療できるかどうか分からないからね。何を?…というのは、あえて言うまい。察してくれたまえ。




