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車輪の無い世界へ転生した男  作者: 双月 仁介
第6章 大陸暦1152年
90/160

090 エリザベスとアリス

 訓練所の中では俺自身も身体強化の練習をしている。まだまだ甘いと女神にも言われたしね。

 ついでに、両手への魔力付与で南斗なんちゃら拳も練習しているけど、要するに手刀を真剣と同じくらいの切れ味にするように練習しているだけで、拳法自体((かた)(わざ))は知らないんだよな。

 前世で空手か中国拳法を習っておけば良かったよ。ディア○スティーニのDVDコレクションで買ったジャッキーの初期の作品(蛇拳(じゃけん)酔拳(すいけん))が俺にとっての唯一の教科書です。あまり覚えてないけど…。

「マーク、そのキモい動きは何?私達を笑い死にさせる気?」

 ひ、ひどいな、エリザベス様。これは蛇が鎌首(かまくび)を持ち上げた様を表現したものですよ。右腕の(ひじ)を直角に曲げて、手首も直角に曲げて地面と水平になるようにした構えだね。左手は右肘に添えている感じね。

 てか、めっちゃ爆笑してるんだけど…。ジャッキーに謝れ。

 アリスちゃんも両手で口を(おさ)えて必死に笑いをこらえてるようです。いや、いっそ笑ってくれや。

 俺のメンタルががりがり(けず)られてしまったけど、蛇拳の手の形は魔力付与と相性が良いと思うんだよね。酔っぱらった蛇の拳法、南斗酔蛇(すいだ)拳とでも名付けるか。


「「あ」」

 突然、エリザベス様とアリスちゃんから声が発せられた。

「マーク様、できたかも」

「ええ、(わたくし)も」

 へ?できたって身体強化が?

 10メートルほど離れた位置に設置されている訓練用のダミー人形(鉄製)のところへ一瞬で到達したアリスちゃんが、その勢いのまま手の平(掌底)で人形を突いた。いわゆる掌底突(しょうていづ)きだな。

 ゴーンというすごい音がして、鉄製の人形が斜め30度くらいに傾いたよ。おいおいまじかよ。中が空洞とはいえ太さ10cmくらいの鉄の支柱だよ。それを曲げたよ。あれ?俺はできないような気が…。

 続いてエリザベス様も隣のダミー人形に前蹴り(いわゆる、ヤクザキック)を食らわせた。足の爪先じゃなくて足の裏で蹴る感じね。こちらも鉄の支柱がぐんにゃりと曲がりましたよ。怖ろしい…。

「笑ったことで良い感じに力が抜けたのが良かったんじゃないかしら」

 …というエリザベス様の供述でございます。俺の南斗酔蛇(すいだ)拳がお役に立てたようで嬉しいです。ぐすん。


 俺の心の中の悲哀はともかく、この二人が最初に身体強化に成功したってことになる。アリスちゃんは女神のお墨付きなので分かるけど、エリザベス様は意外だったな。

「ねえ、アリス。寸止めルールでちょっと戦ってみない?」

「はい、エリザベス様。私も自分の実力を試してみたいです」

 えええ?大丈夫かな?怪我とかしなきゃ良いけど。

「マーク、審判をお願いね」

「マーク様、よろしくお願いします」

「ああ、分かったよ。危険そうだったら止めるけどね」

 こうして、エリザベス様とアリスちゃんの試合を行うことになった。

 両者の初期位置を10メートルほど離したけど、この距離は一瞬で詰められるからほとんど意味が無いかな。

「それでは、はじめっ!」

 初手はアリスちゃんで、一瞬で間合いを詰めて掌底を放った。それをエリザベス様が瞬間移動かと思うような速度でかわし、カウンター気味に左腕を振った。それをしゃがんでかわしたアリスちゃんがバックステップで距離を取ろうとしたところにエリザベス様の追撃が入った。右の(こぶし)がアリスちゃんの目の前で寸止めされたところで俺が叫んだ。

「それまでっ!勝者、エリザベス様」

 ちなみに俺も身体強化中だ。でないと二人の動きを目で追えないからね。ちなみに、さっきの攻防は時間にして2秒くらいのものだったよ。

「護身術を習っている(わたくし)一日(いちじつ)(ちょう)があったようね。でも良い試合だったわ」

 なるほど、経験値の差が出たってことか。これからはエリザベス様がダンを殴った場合、ダンの命が危ないな。あとで忠告しておこう。

「く、悔しいです。強くなりたいです」

 アリスちゃんがかなり悔しがっているけど、いやいや君も大したものだよ。もしかしたら現時点で俺よりも強い可能性すらある…。でもこれは言うまい。俺の面子(めんつ)のためにも。


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