085 謁見
投稿を再開します。
毎日2話ずつ、16時に公開していく予定です。
大司教様との話し合いから一か月後、俺は王城へ呼び出された。
案内してくれた侍女さんに付いていった先は豪華な応接室だった。天井には火の灯ったシャンデリア、部屋のあちこちにある燭台で燃える蝋燭などにより窓の無い部屋であるにもかかわらず、かなり明るかった。
応接セットのソファに腰かけて待っていると、ドアが開いたので急いで立ち上がった。さすがに座って待っていられるほど傲慢じゃないよ。
部屋に入ってきたのは国王陛下と王妃様、王太子殿下、宰相様の4人だった。いや、何事ですか?
しかも全員が、ドアが閉まった途端にその場に片膝をついて頭を下げてきたよ。あー、これはあれだ。女神の使徒への挨拶か。
「使徒様、大司教猊下よりお聞きしました。これまでの数々のご無礼の段、平にご容赦くださいますようお願い申し上げます」
国王陛下自ら口上を述べたけど、俺としては困る、とても困るのだ。使徒だから偉いわけじゃないし、国をどうこうできるわけでもない。
「国王陛下並びに王妃様、王太子殿下、宰相様、どうかお立ちになってください。これまでも、そしてこれからも私はこの国の民の一人として、王室を敬愛するものであります。使徒であることは私自身の役割の一つではありますが、それが皆様の上に立つものでは決してありません。どうかこれまで通り平民のマーク・カーチスとしてご対応いただければ幸いでございます」
これを聞いて国王陛下がまず立ち上がり、他の3人もそれに倣ったように立ち上がった。うん、良かった。
「マークよ。今まで通りで良いというなら、儂もそのほうが楽だ。ところで、そなたの知識の源はやはり女神の叡智なのか?」
「いえ、この世界とは異なる世界の知識でございます。詳細に関しましては申し上げることが叶いませんことをお詫び申し上げます」
この世界の魂って基本的には異世界(地球だけじゃないよ)からの転生(交通事故死した人)なんだけど、転生云々って概念が教会の教えには無いのだ。教義では死ねば天国へ行くらしい(嘘だけど…実際は、犯罪者や自殺者以外の魂は輪廻していると、女神が雑談の中で言っていた)。なので、あまりその辺は語れないのだ。どうでも良いけど、犯罪者や自殺者の魂は死霊魔法の材料になるらしいよ、エリカさん。
「ふむ、そうか。ならば深くは聞くまい。それでな、大司教猊下からそなたのお役目を聞いたのだが、この国を出るとは誠か?」
「はい、私としましては気乗りはしませんが、女神様への恩返しのつもりで与えられた仕事を果たそうかと考えております」
嘘は言っていない。本当に気乗りしねぇ。
「戻ってくるのだろうな?」
「もちろんでございます。私にとって大切な人達がこの国にはたくさんおりますので…。ただし、戻ってこないときには、私のことは死んだものとお思いになられて頂きたく…。どうやら命の危険もあるようですので」
「そうか…。そなたの実家や友人達に危険が及ばぬよう、細心の注意を払って護衛することを約束しよう。でないと、もしもそなたが我が国の敵になった場合、亡国の危機が生じるゆえな」
「ははっ、ありがたき幸せにございます」
うん、家族や友人達の人質としての価値も認めているってことだろうね、裏を読めば…。まぁ陛下にそういう裏の意図があるかどうかは分からないけど。
ここで王妃様が発言した。
「陛下、その言い方ではマーク殿の家族や友人を盾に脅迫しているようにも聞こえますわよ。もう少しご配慮くださいませ」
やはり聞こえる人にはそう聞こえるのか。
「い、いや、そんな意図は無いぞ。マークも勘違いしてくれるなよ」
国王陛下が焦りながら言ったけど、どうやら本当に裏の意図は無かったらしい。自国の王様ながらどうにも『良い人』っぽいんだよなぁ。それが良いのか悪いのかは分からんけど。
このあと、王宮勤め(外燃機関研究室と土木・建築研究室)を辞職する時期については、話し合いの結果、来年の3月末とすることが決まった。俺としても年度の途中ってのはキリが悪いと思ったからね。それまであと半年はあるから、鉄道の実験路線くらいは見られるだろうか?いや、できれば見たいなぁ。
あと、出国の準備としては何が必要だろう?一人旅だから馬があれば良いんだけど、できれば寝泊りできる箱馬車(要するにキャンピングカーだね)があれば野宿も楽だよな。最悪、徒歩でも良いか。大規模な商会が使っている他国との交易用馬車に相乗りさせてもらうって手もあるな。まだ時間はあるからゆっくり考えよう。
なお、最大の問題は何かというと、この出国の件を友人達へどう伝えるかってことだな。これが一番大変そうだよ…。




