084 使徒の使命
俺はいつものように女神と雑談しようと教会に来たんだけど、いきなり別室(応接室みたいなところ)に連れ込まれた。
そこには豪奢な衣装を身に着けた偉そうな人が待っていた。見た目的にはかなりのご高齢だな。
「お初にお目にかかります。この国の教会を取りまとめておりまする大司教のハウルと申します。使徒様にお目通りが叶いましたこと恐悦至極に存じます」
まさかの大司教様だった。しかも『使徒様』だって?どういうことだ?
「こちらこそ、はじめまして。お会いできて光栄です。使徒とは何のことでしょうか?」
とりあえずは、とぼけておこう。
「夢の中で女神様からのお告げを賜りました。しかも私一人のことではなく、複数の司教達にも同様に夢のお告げを下されたことで、間違いないと判断致しました」
あの女神、前世の記憶を消すと意思疎通できなくなるって言ってたのに、夢のお告げはできるのかよ。
「そうですか。それで女神様は何と?」
「はい。あなた様が女神様の使命を果たされるのを教会の力によって支援せよ…と」
教会の影響力はこの国だけでなく、大陸全土に及んでいるからね。他国での活動を支援してもらえるのは、将来的にきっと役立つだろう。
「具体的な使命の内容とその時期についてはお聞きになられましたか?」
「ええ、大陸中央の未開拓領域への進出を図ろうとしている国によって、その地に住む魔物達が未開拓領域外にあふれ、人間の生存圏を脅かすおそれがあると…。下手をすると人類滅亡の危機すら生じる…と。時期につきましては仰っておりませんでした」
ほほう、なるほどね。それが本当のことなのかは女神に直接聞いてみよう。かなり盛ってるような気もするけど…。
このあとの話し合いで、俺が使徒であることを秘密にすること。目立たないように聖人認定なども行わないこと(実際にそういう話もあったそうだ…危なかった)。護衛は不要であること。
…などが定められた。
使徒様に護衛無しなど認められない…と粘られたけど、俺が『身体強化』や『魔力付与』を見せてあげると驚かれつつも護衛無しを納得してくれたよ。いや、一介の平民に護衛が付くなんて目立ち過ぎるっての。
この日、大司教様との話し合いのあと、大聖堂でいつも通り祈りを捧げた。
『マーク、大司教から話を聞きましたか?』
ええ、聞きましたとも。何ですか、夢のお告げができるなんて知らなかったですよ。
『いや、あれ相当疲れるんですよ。それこそ2、3日は寝込むくらいに。でも今後のことを考えると必要だからやりました。あなたのためですよ』
うーん、ありがたいような、迷惑なような。てか、女神も寝込むんですね?
『大変でした。しかも、あれって教会の人間に対してだからできたわけで、普通の一般人へのお告げは無理なんですよ』
はぁ、そうですか…。んで、本題ですが、以前聞いていた例の懸念が現実になりそうなんですか?あと、人類滅亡って盛ってますよね?絶対、嘘でしょ?
『魔物と人間の全面戦争になって、双方ともに大きな被害を受けるおそれがあるのは本当です。しかも、たった1か国のせいで未開拓領域に接する残り10か国が被害を受けるかもしれません』
それはまた迷惑な話ですね。そこの国のお偉いさんに対して夢のお告げってできないんですか?
『その国にはうちの教会は無いし、宗教が異なるんですよ。そこの宗教の信じる神って、この世界には存在していないのですけどね』
うーん、難儀な話だ。いや、そもそも俺は車輪の普及のために転生した(前世の記憶を消されなかった)はずで、こんなの業務外労働じゃないんですかね?
『仕方ないじゃないですか。今この世界に私の意思を詳細に伝えられるのは、あなたしかいないんですからっ!』
ちょっと、キレてます?
『キレてないよぉ』
うん、地球(日本)のアニメだけじゃなく、お笑いのほうもチェックしているらしい。ちょっと古いネタだけど。
それで時期的にはいつ頃なんでしょうか?
『すでに侵攻計画は始動しています。まだ準備段階ですが…。実際に侵攻を開始するのは、おそらく2、3年後になるでしょうね』
武術や魔法の【恩恵】持ちを集めたりしてるんですか?
『その通りです。そのために武術大会などを開催したりして人材確保に余念がないようですね』
あ、…ってことは、その武術大会に俺が出場してスカウトされたりすれば、その国の懐に入れますね。
『そうなんですが、この国の上層部があなたの出国を簡単には認めないでしょうね。その根回しのためにも大司教への通達を行ったわけですが』
なるほど。では1年後くらいに出国できるようになるという予定でいれば良いですかね?
『ええ、そのくらいの時期になるでしょう。苦労をかけますが、人類滅亡の確率は0.0001%くらいはありますからね。頑張ってください』
いや、それほとんど大丈夫な確率じゃん。まぁ、魔物と人間の争いなんてできるだけ無いほうが良いし、それが俺にしかできない仕事なら、やるしかないんだろうな。何となく、貧乏くじを引いた気もするけど。
教会を出る際、いつも通り多額の寄付金を渡したけど、何も知らないシスターさんはいつも通りニコニコして受け取ったよ。使徒様からは受け取れませんって言われなくて良かった。
このあたりから話は冒険活劇へと進んでいくわけですが、書き溜めたストックが無くなったこと、さらには仕事(本業)の都合もあって少しだけお休みさせて頂きます。
一か月後くらいには再開できると思いますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
余談ですが、私は自分の書きたいものを書いているだけなので、人気や反響のいかんにかかわらず再開につきましては確約できます。…が、ブックマークや評価が多いと嬉しく感じるのも確かです。
というわけで、できれば評価して頂けるとありがたいなぁとか思っていたりして…。あ、もちろん強制ではありません。




