078 デート③
エリカの専属護衛に(勝手に)任命されたからというわけじゃないけど、以前女神から教わった『身体強化』と『魔力付与』の技術については、毎日欠かさず訓練している。
どちらもあと一歩という感覚なんだけど、その一歩が遠い…。訓練を始めてから、まだ半年くらいだけどね。
ある日突然できるようになるのだろうか?
それはともかく、今日はエリカとのデートの日だ。
徒歩で貴族街区と平民街区の境目まで来たエリカを俺は出迎えた。馬車で俺のアパートに来なかったのは、アーレイバーク家の皆さんに知られないようにするためらしい。
近付いたエリカが俺の左腕に自分の右腕をからませたので、ちょっと驚いたよ。でもこのほうが守りやすいのは確かだな。俺が守らなくても良いくらいの強い魔法師だってのはともかく…。
「どこか行きたいところはあるかい?」
「平民街区のことはさっぱり知らないから、あんたにお任せするわ。しっかりエスコートしてちょうだい」
「ははぁ、お嬢様。仰せのままに」
大手の商会や中小の小売店を眺めながら歩きつつ、目についたアクセサリショップでちょっと可愛い髪留めを買ってあげたりした。まぁ、ちょっとしたプレゼントだね。安物だけど。
ちなみに、王都に犯罪者がいないなんてことは無く、罪を犯す者もいれば警察署も存在する。
あまり犯罪者に出会うことは無いんだけど、今日はたまたま運悪く出会ってしまったようだ。
やくざの末端構成員みたいな奴ら(つまり、チンピラ風)が5人ほど道幅一杯に広がって前から歩いてきたのだ。馬車が来たらどうするんだろ?轢かれるのが嫌で避けるんだろうか?それはそれでダサいな。
俺としても騒ぎを起こしたくないので、道の端っこに移動してから、俺がエリカを隠すような態勢をとったよ。ただ、それが奴らの癇に障ったらしい。
「おい、そこのお前、俺達になめた態度をとりやがって。騎士気取りかよ」
「ちょ、こいつ、すっげぇ美人だぞ。お嬢ちゃん、こんな優男なんてほっといて俺達と良いことしようぜ」
「ヒュー、まじで別嬪だぜ。お持ち帰りしてぇ」
典型的な悪人、まさにステレオタイプだなぁ。ちょっと感動した。
「俺はこの方の護衛なので、あなたがたの態度によっては排除させていただきます」
別にあおっているわけじゃないよ。心からの忠告です。君達、命が惜しければエリカさんに関わるのは止めておきなさい。まじで命にかかわるよ。
「言ってくれるじゃねぇか。5対1で勝てるとでも思ってんのか?」
一人の男の左手が俺の胸倉をつかんだので、俺の左手で巻き込んで後ろ手にねじり上げた。ちょっとした護身術です。
「てめぇ、やりやがったな。おめえら、やっちまえ」
リーダー格っぽい奴の号令で一斉に俺に飛びかかってきたので、拘束しておいた男の左腕を脱臼させてから、そいつの背中を足で蹴り飛ばした。
三人が同時にかかってきたので、俺はエリカを抱えて一旦後方へ飛んで距離をとり、マジックバッグから木刀を取り出して正眼に構えた。
「エリカ、手出ししないでくれよ」
死霊魔法をこんな街中で使わせるわけにはいかないからね。
俺は魔力を身体中に循環させ、『身体強化』を試してみた。身体が超軽い。一瞬でチンピラ達との距離(間合い)を詰め、鳩尾を木刀の柄の部分で突いていく。僅か1秒ほどで四人全員を昏倒させることができたので、どうやら『身体強化』は成功したようだ。明日の筋肉痛が怖いけど…。
エリカが目を丸くして驚いている。
「マーク、あなた瞬間移動ができるの?動きが見えなかったわよ」
「うーん、縮地っていう、武術の技の一つだよ。瞬間移動したわけじゃないよ」
はい、嘘八百です。縮地なんて本当はできません。
誰が呼んだのか、警察がすぐに駆けつけてくれたので事情を説明した。目撃者も多かったし、エリカが子爵家ご令嬢ってのもあって、俺の暴力が問題になることは無かったよ。正当防衛とは言っても、あまりにも一方的な戦いだったからね。まさに弱い者いじめ…。
「エリカ、俺は君の専属護衛として合格かい?」
「ええ、まぁまぁね。ほ、褒めてあげるわ」
ツンなエリカがデレた?




