077 デート②
馬車の御者台にはメイド服を着た人が座っている。アーレイバーク家のメイドさんかな?あと、馬車の中には誰もいないみたいなので、どうやらエリカ一人で来たようだ。護衛も無しに物騒だな。もっとも、護衛が必要だとは思えないんだけどね。
「エリカ、こんにちは。ちょっと留守してたんだけど、いつ頃ここに来たの?」
「今さっき来たところよ。それよりも両手に花で羨ましいわね」
「ああ、ちょっと街歩きをしてただけだよ」
「エリカ様、こんにちは。今日はマーク様とデートだったんですよ」
アリスちゃんはナチュラルにあおるよね。うん、知ってた。
「へ、へぇ。それはそれは、お楽しみのところを失礼したわね。マーク、良かったわね」
なんだか棘のある言い方に聞こえるのは気のせいだろうか。
「エリカ様、こんにちは。マークとアリスとあたいの三人でデートしたんですよ。マークとアリスが二人でデートするのを阻止したので褒めてください」
アリア、さすがのメンタルだよ。うん、知ってた。
「まぁ、とりあえず俺の部屋に行こう。あ、メイドさん、すみませんがちょっとここで待っていてください」
「はい、承知しました。エリカお嬢様、ごゆっくりどうぞ」
エリカ先生はアーレイバーク家のメイドさんから『お嬢様』と呼ばれてるんだね。
まぁ、それはともかくとして、俺の部屋に全員が入って、今から弾劾裁判が始まるって様相だ。
「それで詳しい状況を教えてもらえるかしら?」
俺がメインとなってエリカに説明してあげたよ。アリスちゃんやアリアに任せると焚火にガソリンをかけるようなことになるかもしれないからね。
冷や汗をかきながらできるだけ正確に真実を伝えたんだけど、エリカの機嫌は悪いままだ。不機嫌オーラが出まくっている。俺にどうしろって言うんだ?
「あんた、私の婚約者だったときに一度でもデートらしいことをしたかしら?」
「えっと、そうだね。記憶には無いかな?」
いや、貴族が気軽に街歩きなんかしないっての。普通は商店主を屋敷に呼びつけるものだからね。
「こ、今度、私ともデートしなさいよね。それで許してあげるわ」
「うん、良いけど、平民っぽい服で来てよね。というか、デートじゃなくて『お忍びで出歩く貴族のお嬢様をエスコートする護衛』って雰囲気にしないと、平民の俺は悪目立ちすることになるんだけど、そこのところちゃんと分かってますか?」
貴族社会における身分の差は、日本人的感覚からすると想像もできないほど大きいんだよ。
「分かってるわよ。私の専属護衛としてこれからも精進しなさい」
あれ?勝手に専属護衛に任命されてるけど、俺の意思は?




