073 蒸気自動車①
一つ一つ難問をクリアしつつ、蒸気自動車の開発は進んでいった。
年が明けて3月、蒸気レシプロエンジンの初号機完成から五か月後、ついに蒸気自動車の試作零号機がお披露目された。
エンジンのほうも細かい改修を経て、かなり洗練されたものになっている。
操縦系はハンドルにアクセルペダル、ブレーキペダルと前世の自動車を踏襲しているので、俺にとっては運転しやすそうだ。もちろん、パワーステアリングじゃないのでハンドルは重いけど。
足回りは、重量に耐えられるように鉄製の車輪(馬車用)に接地面はゴムとした。なにしろ重いからね。車両重量は乾燥状態で5~6トンはあるんじゃないかな?重油と水を積んだ状態ではそれ以上だよ。
すでにボイラーの火は焚かれていて蒸気圧にも問題は無い。運転席に座る俺がゆっくりとアクセルペダルを踏み込むと、蒸気が動輪に供給され、自動車はゆっくりと進み始めた。
見守っている研究室メンバー全員の視線を感じながら、俺はさらにアクセルを踏み込んでいく。
あまりスピードが出ないように調整しているので、思いっきり踏み込んでもせいぜい時速10kmくらいだ。
重たいハンドルを回すことで、方向転換もなんとかできている。アクセルをゆるめてブレーキペダルを踏み込んでみると、制動はかかっているもののすぐには止まれない。やはり重いからね。慣性の法則が働いているよ。
運転は難しいほうかな。少なくとも前世の自動車と比べてみると、自動車というよりは鉄道シミュレータみたいな感覚だ。
あとこれを王都内で走らせるとなると、おそらく道の石畳がバキバキに割れて破損すること間違いなしだ。うん、やはり鉄道を敷設して、蒸気機関車を走らせたほうが良いかもしれないね。
もちろん、蒸気自動車製造の経験が無駄になることは無いよ。将来のガソリンエンジンを積んだ自動車に繋がる技術だからね。
それに王宮の敷地内では危なくて試せないけど、リミッターの解除で時速100kmくらいは出せそうなんだよね。まさに(乗馬でも出せない)前人未到の速度ってことになるんだけど、郊外に実験場を作って試してみたいところだ。まぁ、そんな予算は無いかもしれないけど…。
一通りのテストを終えて研究室メンバーのいる場所へ戻った俺は、自動車を停止させたあと上記の内容を口頭で報告した。もちろん、あとで文書としても報告書を提出するけどね。
「うーん、そうか実用化は難しいってことだな。まぁ、もともと蒸気機関のデモンストレーション用に作ったものだし、技術と経験を蓄積できたことがなによりの成果だな」
ゴードン室長が眉間に皺を寄せながら言った。
そこにエンジン開発チームのマーガレットさんが、ゴードン室長に食いつかんばかりの勢いで発言した。
「室長!マークの言った郊外の実験場での最高速度計測だけはやりましょうよ。鉄道ってやつの蒸気機関車を作る上でも知っておきたいところです」
「うーん、そうだな。ちょっと上に掛け合ってみるか…」
前世の飛行場みたいな長い直線路とフラットな地面が必要で、そこへの輸送手段(自走は道路を破壊するからダメ)も必要なので難しいんじゃないかな?
…と思ったら、輸送については王室の所有する国宝レベルのマジックバッグを使えば、それに格納できるらしい。
実験場は整備が必要らしいんだけど。
「あ、そうだ。この蒸気自動車に排土板やローラーを取り付けて土木機械として使えば、実験場の整備も楽にできますよ」
要するにブルドーザーやロードローラー(蒸気式なのでスチームローラーってことになる)にするってことだね。手作業で整備するよりもずっと楽だろう。無限軌道じゃないのが少し心配だけど。
俺はイラストを描いて、除雪車についているような排土板(固定式)や整地用の重いローラーを提案した。さすがに可動式の排土板は油圧の技術が無いから無理だろう。
「おお、面白いな、それ。うまくいくかは分からんが、試してみる価値はありそうだ」
あと、土木機械ができれば、鉄道の敷設や道路整備も楽になるしね。




