072 蒸気レシプロエンジンの完成
そろそろ秋から冬にかけて気温も肌寒くなり、自転車での通勤が少しつらくなってきた季節。
マーガレットさんが中心となって開発していた蒸気レシプロエンジンが、試行錯誤の末に完成した。と言っても、試作零号機だけどね。
重油専焼缶と蒸気ボイラーによって発生した蒸気をバルブを開いてエンジンへと導く。
当然、慣性モーメントを利用するためのフライホイールも実装しているよ。ピストンの上下運動がフライホイールの回転運動に変換されて、それが回転し始めたのを見て、ちょっと感動してしまった。マーガレットさん率いるエンジン開発チームは相当苦労してたからね。うん、本当に良かった。
「マーガレットさん、おめでとうございます。新しい動力機関の誕生ですね。革命的な技術、画期的な発明ですよ」
そう、産業革命は蒸気機関の発明から始まったからね。まさに革命的。
「うん、ありがとう。でも、マークの助言があったからこそだよ。君がいなかったら、あと5年は必要だったかもしれない」
「俺は何もしてませんよ。思い付きを口にしただけですから」
「この研究室に所属するメンバー全員の功績だぞ。マーク、もちろんお前もな」
一緒に試運転を見学していたゴードン室長が言った。てか、研究室メンバー全員がこの試運転を見守っているんだけどね。
復水器(使用した蒸気を水に戻す機構)開発チームもすでに開発を終えていたので、この蒸気レシプロエンジン開発が最後のワンピースだったのだ。
あとは、デモンストレーションのために何か実用的な装置を作りたいところだ。
俺が考えていると、ゴードン室長が話しかけてきた。
「マーク、この蒸気機関をどういう用途で利用できるだろうか?」
「そうですね。鉄のレール、えっと断面が工の形になった鉄の棒なんですが、それを地面に2本並べて敷きます。その2本のレールの上を走らせる『蒸気機関車』というものができますね。あとは馬車の動力を馬から蒸気機関に変更した『蒸気自動車』というものも考えられます。船の動力を帆から蒸気機関に変更しても良いですね」
「ほう、すぐにできそうなのは『蒸気自動車』か?」
「そうですね。ステアリング、つまり進む方向を変える機構については、少し研究が必要になるかもしれません。それとブレーキ、えっと自動車を止めるための制動装置も必要です」
「よし、分かった。マーガレットのチームは引き続きエンジンの改良を行うこと。その他のメンバーは蒸気自動車の研究に入る。良いな」
「はい!」
メンバー全員が一斉に返答した。全員やる気に満ちているようで、熱気が半端ない。
あー、発電機(自転車のダイナモ、自動車のオルタネータ等)を作って、ヘッドライトを電気で光らせたいところだけど、さすがにこの研究室では人数的に無理かな。
あと、発電と言えば、重油による火力発電所を作って各家庭に電気を通したいよね。夜に使う照明器具が蝋燭オンリーなこの世界では、蛍光灯は無理としても白熱電球があればかなりの時間を有効活用できるようになるからね。
まぁ、太陽と連動した早寝早起きな生活は健康的ではあるんだけど…。




