070 ある休日
俺の賃貸アパートでの生活は平穏無事…とは言い難く、アリスちゃんが俺の世話をしてくれるのは良いとしても、頻繁にエリカ、アンネット嬢、ソフィアちゃんが馬車で遊びに来る。たまにエリザベス様やビルやアリアも来たりするけどね。
学校にいたときと変わらず、友達付き合いしてくれるのは本当にありがたい。特に貴族のご令嬢方…。
皆が遊びに来るのはどうしても休日になるため、たまに全員が集合したりすると、俺の部屋の人口密度が高くなって大変だけどね。
あ、教会に行って女神と雑談する日なんか、俺が教会から帰ってきたら皆がいるってことも割とある。いや、勝手に俺の部屋をたまり場みたいにしないでほしいんだけど…。アリスちゃんが俺の部屋の合鍵を持っているから、仕方ないっちゃ仕方ないんだけどね。
そして今日は王宮で表彰されたあとの最初の休日だ。
部屋の中にはエリザベス様、エリカ、アリスちゃん、エリザベス様の護衛であるダン、それに俺の5人がいる。
「マーク、あなた王宮で陛下から表彰されたそうね。お父様から伺ったわよ」
エリザベス様の言葉にエリカとダンが驚いている。俺自身はアリスちゃんだけにしか伝えていないんだけど、さすがに耳が早いな。
「ああ、自転車を開発した功績で、俺の所属していたチーム全員と室長が表彰されたんだよね。俺はアイディアを出しただけなんだけど」
「自転車って、ここの庭に置いてある奇妙な3輪の乗り物よね。最近、王都で流行り始めているらしくて、街中を走っているのをよく見かけるわ」
「あー、実はこれ、君にお願いして作ってもらうつもりだったんだけど、職場の机で絵を描いていたら見つかっちゃってね。結局、うちの研究室で作ることになってしまったんだ」
この俺の発言にエリザベス様が嬉しそうに微笑んだ。
「そう、それは残念ね。でもあなたが表彰されて私も嬉しいわ」
エリカの目がすっと細められたけど、特に何も発言しなかった。…って、何か言ってよ。無言は怖いよ。
俺は焦って話を自転車に戻した。
「ま、まぁ貴族のご令嬢が乗るようなものじゃないよ。俺は王宮への通勤に便利だから使っているけど」
ここで空気を読まないことには定評のあるダンが、空気を読まずに発言した。
「マーク坊ちゃん、自転車ってやつは女の人がスカートで乗ることを想像すると、かなりエロいですなぁ。一度は見てみたいもんですぜ。マーク坊ちゃんもそう思うでしょう?」
…答えずれぇ。この場にいるのが男だけだったらすぐに同意するんだけど、なぜかエリカの冷たい視線が俺に突き刺さっているよ。って、なぜ俺を見る?発言したのはダンだよ。
「ごほっ、あー、そんなことはないよ。俺は紳士だからね、うん」
「またまたぁ、そりゃ嘘ですぜ。男なら…プゲラッ」
ダンの左頬にエリザベス様の右ストレートが炸裂した。うん、世界を狙える拳だわ。
「マーク、うちのものが失礼したわね。そんなことより順調に功績を積み上げているようで何よりだわ。叙爵される日もそう遠くはないかもしれないわね」
いやいや、それは無い。いくら元貴族でも平民が叙爵されるのは、かなり難しいことだよ。まぁそんなことより筋肉の付いて無さそうなエリザベス様の右腕は、鉄を槌で叩くだけあってかなり強力なようです。エリカ同様、エリザベス様も怒らせてはいけないな、と心に誓った瞬間だった。
そしてこの瞬間、すっとエリカの右手が俺の頭に伸びてきたので、かいくぐって避けたよ。
何かというと俺の頭の中を覗こうとするのは止めてほしい…。てか、今回ばかりは俺の命が(エリカさんによって)危険にさらされる可能性があるからね。ダンに内心で同意したことを知られるわけにはいかないのだよ(まじで死ぬかもしれない…)。




