068 表彰
自転車の設計図が公開されてから二か月後、俺は誕生日を迎え15歳になった。
そして8月、外燃機関研究室のゴードン室長と自転車開発チームの全員が表彰されることになったのだ。新たな交通機関(つまり、自転車のことね)の開発に成功したという功績だ。
馬車と同様、自転車も俺の発明ってわけじゃないので、これで表彰されるのはどうにも居心地が悪いよ。
しかも国王陛下から直々にお声がけ頂いたので、俺以外の4人は感激と緊張でカチカチに固まっていた。え?俺?俺は居心地の悪さを感じているだけで、特に緊張はしなかったな(以前、舞踏会で会話しているし…)。
「マーク・カーチスよ。久しぶりだな。王宮に入ってさっそく功績を上げるとは大したものよのう」
「過分のお褒めにあずかりまして、恐悦至極にございます」
俺は陛下のお言葉に恭しく頭を下げた。
「まったく、まだ15歳だというのに、その落ち着いた様子は異常だぞ。他の者を見てみよ。緊張で固まっておるわ」
「緊張したほうがよろしゅうございますか?であれば、そう致しましょう」
不敬罪ぎりぎりの俺の返答に周りがざわついているけど、陛下ご自身は面白そうに笑っているよ。
「まったく面白い奴よ。良い、普通にいたせ」
「ははっ、今後とも精進することを誓い奉ります」
「ゴードンよ、このマーク・カーチスは他国への流出を絶対に避けねばならぬ逸材である。使いにくい奴だがよろしく面倒を見るようにな」
いやいや、使いにくくは無いだろう。何をもってそういう評価になってるの?
「はっ、承知いたしました。この者を使いこなし、さらなる成果を御覧に入れる所存でございます」
なんだかハードルを上げられてる気がするけど、そうそう成果なんて上げられないよ。もっと長い目で見て欲しい…。
この表彰式が終わったあと、ゴードン室長やロバートさん、マイケルさん、エドワードさんから囲まれた。
「お前、何であんなに国王陛下と親しげなんだよ」
「実は陛下の隠し子なんじゃねぇだろうな」
…って、またも隠し子疑惑かよ。前にもジョンソン伯爵様からそんなことを言われたような気がするぞ。
「今年の年始にお会いする機会がありまして、そこで少し会話しただけですよ。隠し子ではありませんから」
「ああ、そう言えば、お前って元々貴族だったんだよな。あまりに平民っぽいんで忘れてたぜ」
平民っぽい…うん、そうだろうな。俺自身もそう思っているし…。
「まぁとにかく、今回の表彰の主役はマークだからな。俺達はそのおこぼれに与っただけだ。感謝してるぜ」
「まったくその通りだな。てか、自転車が1台20万エンで買えるってのもすごいよな。安すぎるぜ」
自転車の設計図を公開したせいで、参入する工房が割と多く、競争原理が働いて(暴利ではなく)適正価格での販売になっているのだ。そして俺も当然購入済みだ。あ、目立ちたくないので、2輪車を特注で製作してもらうのは断念したよ(別にそこまでこだわりも無いしね)。
なお、俺が生成する<自転車のタイヤ>は、前輪・後輪の一式をどの製造業者にも5万エンで納めている。馬車の車輪とは異なり、自転車のタイヤを模倣して作ることはさすがに難しいようで、俺の独占状態なのはちょっと困るけどね。独占禁止法に抵触しそうだよ(我が国にその法律は無いけど)。
なので、もっとタイヤの値段を上げることもできるんだけど、自転車を普及させたいとの思いから安く納品しているのだ(馬車の車輪価格とは大違い…てか、あれこそ暴利だけどね)。




