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車輪の無い世界へ転生した男  作者: 双月 仁介
第5章 大陸暦1151年
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065 初出仕

 今日は王宮への初出仕の日だ。俺のアパートは平民街区の中でも貴族街区に近い位置にあるけど、それでも徒歩で王宮へ向かう場合かなりの時間がかかる。馬車は持てないにしても、馬での通勤は?いや、馬を休ませるための厩舎や世話をする馬丁が必要だから、負担が大きすぎて馬通勤も無理だね。

 うーん、通勤用に自転車を作りたいところだな。雨の日以外はかなりの時間短縮になるだろう。あ、そう言えばエリザベス様に自転車を作ってもらおうと思っていたのをすっかり忘れていた。今度、ジョンソン家のお屋敷に遊びに行って、エリザベス様に話してみようかな?


「おはようございます。今日からこちらでお世話になりますマーク・カーチスと申します」

 王宮とはこの国の行政機関であり、敷地の一角には王城もある。俺が向かったのは恩恵(ギフト)管理局も入っている建物で勝手知ったる何とやらだ。あとで恩恵(ギフト)管理局にも挨拶に行こう。

 割と早い時間に来たつもりだったのに、すでに数人が机に座って書き物をしていた。

 窓を背にした一番奥にある机から年配の男性が顔を上げて俺を見た。

「おお、マーク・カーチスか。ようやく学校を卒業して成人したんだな。待ちかねたぞ」

 俺はその男性のほうへ歩み寄り、再度挨拶した。

「マークです。どうぞよろしくお願い致します」

「外燃機関研究室の室長であるゴードンだ。よろしくな。研究員への挨拶は朝礼のときにやってもらうとして、とりあえずはそこの一番端の机に座っておけ」

「はい」


 俺は何も置かれていないまっさらな机に着席し、引き出しを開けてみたりしたけど当然何も入っていなかった。時間つぶしのためにマジックバッグから紙と筆記用具を取り出して、自転車の構造を描き始めた。ただの暇つぶしだけどね。

 2輪はやはり乗りこなすのに練習が必要で、ハードルが高いかな?前1輪、後2輪の3輪車にして荷物運びにも使えるようにすれば世の中に普及しそうだ。

 駆動は硬いゴムベルトのプーリーにすることで製造コストを下げる(鉄製のチェーンは構造が複雑で大変だからね)。ギヤでも良いんだけど、それだけの精度が確保できるかが問題だ。変速機は最初は無しにしよう。本当は前2段、後3段の6速とかにしたいけどね。ベルトのゆるみを無くすため、バネでベルトを押さえる機構も必要かな?

 設計図の書き方を技術学校で習っていないので、単なるイラストだけどなんとなく分かれば良いのだ。本格的な設計図はプロに書いてもらおう。

 そうして思いつくままに絵(落書きレベル)を描いていたら、後ろに人の気配を感じた。

 4人くらいが俺の後ろに立って、俺の描いた落書きを見ている。室長のゴードンさんもいた。

「マーク、それは何を描いたんだ?」

「乗り物の一つで、人間自らが動力となって進むため『自転車』と呼んでいます。ここへの通勤に使いたいので、今度【鍛冶】の技能を持つ友人に製作してもらおうかなと思いまして…」

 ゴードン室長に質問されたので、正直に答えた。ここの業務とは関係ないだろうからね。


 後ろにいた一人の男性が言った。30代くらいかな?

「君のアイディアなのかい?もし良かったら俺に作らせてくれないかな?」

「お、お前、ずるいぞ。俺にも作らせてくれ」

「いや、俺も作ってみたい。頼むよ」

 次々に製作者の立候補が始まってしまったのを見て、ゴードン室長が発言した。

「お前ら、仕事と関係ないものを作るなよ。外燃機関の研究をしろ」

「いやいや、室長。これがあれば材料なんかを迅速に運べますよ。つまり、外燃機関の研究にも役立つはずです」

「うーむ、確かに一理あるか…。よし、マークの許可が得られれば仕事として『自転車』を作っても良いぞ」

 期待に満ちた目で見られた俺はとても断る勇気を持てなかったよ。ごめんね、エリザベス様。

 結局、俺の初仕事はここにいる3人とチームを組んで、自転車を作ることになったのだった。


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