061 卒業式②
「ちょっとちょっとアリス、それにマークも。何、勝手に結婚話を進めているのよ。エリカのことを忘れているんじゃないわよね」
エリザベス様が焦りながら発言した。
「エリカが俺と結婚するためには、エリカ自身が平民になる必要があるからね。エリカのことは好きだけど、そんなことは俺が認められないよ」
この場にエリカがいなくて良かった。俺の命のためにも。
「来月、俺が成人して平民になった瞬間、貴族であるエリカとの婚約は自動的に解消されるってのがこの国の法律だね」
「それはそうだけど…」
突然アリアがしゃべりだした。
「えー、だったらさぁ、マーク様と結婚できるのは、あたいかアリスだけってことだよね。どう?あたいと結婚すれば将来的にはうちの工房がマーク様のものになるよ」
「いやいや、アリアの入り婿は【木工】の技能を持った奴にしろよ。俺じゃとても務まらないよ」
アリスちゃんも援護してくれた。
「マーク様の言う通りです。そしてマーク様と結婚するのはこの私です」
未だに薄い胸を張ってどや顔を決めているアリスちゃんって、貧乳好きにはたまらない魅力を持っていると思う。でも、俺にとっては妹みたいな存在なのだ。なにしろ、まだ14歳だからね。前世で言えば中学二年生だよ。
いきなり御者台からダンが話しかけてきた。
「マーク坊ちゃん、相変わらずモテモテですな。実はお相手が誰になるのか、マッシュの奴と賭けてるんですぜ。俺はエリカ様に賭けてますがね。いやぁ、やはりあの戦闘時の連携は見事でしたからなあ」
ああ、アーレイバーク領へ行ったときの盗賊団との戦闘か。うん、あれは息が合っていたね。
「マッシュは誰に賭けてるんだい?」
「あいつはソフィア様だろうと言ってましたぜ。俺の5万エンのためにもエリカ様とくっついてくださいよ」
「ダンもマッシュもうちの護衛のくせに、なぜ私の名前を出さないのですか?私に賭けたほうがよろしくてよ。なにしろ、お父様公認ですからね」
…って、えええ?エリザベス様?なに爆弾発言をぶっこんできやがってるんですか。
全員、目を丸くして驚いてるじゃん。
「伯爵様の公認…」
放心してつぶやいているアンネット嬢に俺は言った。
「いや、伯爵様のご冗談だから。伯爵様はなぜか俺が将来叙爵されることを信じているだけだから。そしてそんなことは起こらないから」
「かぁーなるほど、その情報があるんだったら俺はエリザベス様に賭けますぜ。くくく、マッシュの奴の吠え面が目に浮かぶぜ」
ダンがなぜか賭け対象をエリカからエリザベス様に変更するようだ。って、だからあり得ないってーの。
そんな話をしていたら馬車が技術学校に到着した。
卒業制作物の発表会も兼ねているので、王都中の各種工房から職人達が見に来ている。なお、1、2年生については今日の授業は無く、外部の人と一緒に卒業制作物の見学が可能だ(去年と一昨年に俺も体験した)。
ということで、学校の中は人でごった返している。広い敷地内のあちらこちらに展示されている卒業制作物には説明書きの看板も設置されており、見て回るだけでも一日かかりそうだ。
俺達の作った馬車も(貴族への忖度だろうか)中央の目立つ場所に展示されている(馬達は興奮すると危ないので、ここにはいないけど)。
小型馬車とはいえ、卒業制作物としてはかなりの大物なので目立つのだろう、すでに人だかりができている。
「学生が作ったものにしてはよくできてやがるな」
「あ?プロの手助けがあったんじゃないのか?」
「いや、製作者をよく見てみろ。6人の名前の中に『車輪のマーク』…いや、マーク・カーチス様がいらっしゃるぜ。あの方が手掛けたのなら、この出来栄えも納得だぜ」
職人達が会話しているのを後ろのほうからこっそり聞いていると、またもや『車輪のマーク』という変なあだ名が聞こえた。まじで恥ずかしいからやめて欲しい。
あと俺は車輪を生成しただけで、実際に制作したのはエリザベス様やビル、アンネット嬢やアリアだ。説明看板にそれぞれの担当を書いてあるから、よく読んで欲しいよ。




