058 卒業制作④
卒業を間近に控え、卒業制作も最後の追い込みだ。
エリザベス様担当の車台やアンネット嬢とアリアが手掛ける馬車本体、ビルが担当する内装も順調に仕上がっている。てか、俺とアリスちゃんは『生成』後は何もやることが無いので、ほかの皆を手伝っているだけなんだけどね(あまり戦力になっていないのは自覚している)。
2頭立ての小型馬車ってだけで、特別な新機軸も盛り込んでいないため、製作自体に問題は発生していない。うん、変に冒険しなくて良かったかも…。
馬を2頭購入し、リヤカーを使って牽引の訓練も行った。最後の調整はアンネット嬢やアリアが担当し、それが終わったのが卒業式の二週間前だったよ。って、ギリギリじゃん。
御者ができるのが俺だけなので、俺が御者台に座り馬達に前進を指示した。ちなみに、車内には誰も乗っていないよ(テスト走行だからね)。
軽やかに走り出した馬車を見て友人達から歓声が上がった。プロに一切頼らず、自分達の力だけで一台の馬車を作り上げたんだから、そりゃあ感無量だろうね。
校内を一回りしたあと、次は負荷テストだ。最大人数が乗ったうえでどうなるかだね。
御者台の俺の隣にアリスちゃん、車内にエリザベス様、ビル、アンネット嬢、アリアが乗ることで、想定最大人数である五名乗車を超えて六名が乗っていることになる(重量ベースなら大人五人分くらいになるだろう)。気になるのはサスペンションの耐久性で、この負荷に耐えられるのかどうかを検証するわけだ。
俺はゆっくりと馬車を走らせ、上下動に気を配る。板バネが折れてサスペンションがヘタったりしないか、車輪や車軸は大丈夫か?
校内の敷地はフラットで段差も無いので今一つテストにならない。そのため、このまま王都の中央を走る石畳の道に乗り入れてみた。さすがに振動が伝わってくるけど、うまくサスペンションが振動を吸収しているね。
王都郊外へ出たところで馬車を一旦停めて、エリザベス様が足回りを確認する。どうやら問題ないようだ。
そこから近くにある花畑に向かってみた。郊外の道は土がむき出しで舗装されていないし、多少凸凹しているけど、極めて快調に走っている。
花畑に着くと馬達を休ませるため、近くの木の下に停車した。俺は馬車の後部に積んでいた桶に生活魔法の『ウォーター』で水を入れ、それを馬達に与えた。
「エリザベス様、これだけの負荷に耐えられるサスペンションの製作、本当にありがとう。何の問題もないようだね」
馬車を降りてきたエリザベス様にそう言うと、顔を赤らめて嬉しそうにしていた。何、その可愛い反応…。
「しっかし、これだけのものを僕達だけで作ったんだなぁ。まじで感動だぜ」
「ええ、本当に素晴らしい馬車ね。ソフィアにも見せてあげたいわ」
ビルの言葉にアンネット嬢が続いた。姉として妹に自慢したいんだな、きっと。
「ねえ、マーク様、これって学校に寄贈することになるの?」
アリアが質問してきたけど、俺にもよく分からない。
「うーん、どうなんだろう?材料費なんかもあるし、無料で寄贈するのもおかしい気がする」
「だったら売りたいんだけどな。欲しいお客さんはたくさんいると思うよ」
多分アリアはこれを売ることで、小型馬車の需要を喚起したいのだろう。今後の工房(木工場)への同型馬車の注文が増えることになるだろうし。
「ならばうちが買うわ。原価計算して利益をのせた上で販売価格を決めてちょうだい。その利益は全員で分配すれば良いわよね」
エリザベス様のジョンソン家が買うって?いや、だったらうち(カーチス家)も欲しいぞ。
「俺の家でも欲しいんだけどな。最初に作った初号機は王室に献上してしまったから、今うちには馬車が無いんだよ」
まぁ俺はもうすぐ家を出るから、置き土産ってことになるけどね。
「それなら僕の家でも欲しいぞ。もちろん、値段次第だけど…」
「だったら私の家にも馬車が無いのよ。こういう小型の馬車ならぜひ欲しいわ」
ビルやアンネット嬢も参戦してきちゃったよ。どうすんの?これ…。




