057 エリザベス視点
彼と初めて出会ったのは技術学校の入学式の日だった。
教室で座っている私のもとへ気安く話しかけてきたときには、なんて無礼で軽い男って思ったわ。
私は伯爵家の人間として貴族同士の付き合いはそれなりに熟知しているけど、平民とはどのように付き合えば良いのか分からなかった。だから、自分が魔法系の【恩恵】ではなく、生産系の【恩恵】だったことにはショックだったの。技術学校は平民ばかりだから。
今思えば、そんな高慢で鼻持ちならない貴族だった私を彼はいつも気にかけてくれた。実は、とてもとーっても嬉しかったのよね。貴族のパーティで出会う上っ面だけの友人ではなく、心の底から友と呼べる人が私の人生に登場するなんて。
夏休みの旅行では『馬車』などという奇妙な乗り物でうちの屋敷にやってきて、気難しいと評判のお父様に認められていたのも驚きだったわ。さらにその『馬車』を発明したのが彼だったのを知ったときも。
その『馬車』による旅の途中で魔物に襲われたときにも見事な剣の腕前を披露してくれた。3年生の夏休みでアーレイバーク領へ旅行したときなんて、盗賊団を壊滅させた手腕は(魔法師の支援があったにせよ)実に見事だったわ。本当に彼は何者なの?
私の意識が友人としてのものから恋心に変わったのは新年の王宮舞踏会での出来事だったわ(それまでも彼の才能には憧れを抱いていたんだけど、彼には婚約者がいたからね)。
あろうことか、舞踏会場で婚約者から婚約破棄を言い渡され、しかも不貞を指摘されるなんて…。内心、怒りが渦巻いていたのを隠して冷静に対処していたんだけど、侯爵家嫡男の言ということもあってこちらが劣勢なのは否めなかった。
最後には国王陛下まで登場する大事になってしまい、きっと陛下は伯爵家よりも侯爵家のほうを信じるのだろうなと諦めの気持ちになっていたのよね。
でも、そこに不貞を疑われた渦中の彼が登場した。え?なぜ?いるはずのない彼がここにいて、私の無実を堂々と証言してくれて、しかも陛下が侯爵家嫡男よりも彼のほうを支持したという事実が信じられなかった。まるで物語の中の出来事のよう。
陛下のご命令で私に謝罪した侯爵家の嫡男に対して、私のほうから婚約破棄を言い渡したのは痛快だったわ。
そして屋敷に戻ったあと、連行した彼を問い詰めたら、私を心配してわざわざ舞踏会に出席してくれたことが分かったの。言葉では言い表せないくらい嬉しかった。もちろん彼の意識が仲の良い友人に対するものだったとしても…。
最後に、お父様の「エリザベスをもらってやってくれ」という発言には本当に驚いたわ。あのお父様がこれほど認める人物というのは王宮内にもほとんどいないはずよ。
ああ、冗談で済まされてしまったけど、本当にそうなったら良いのにな。ふふ、恋敵はとても多いけどね。




