056 ジョンソン邸にて
舞踏会の閉会後、俺はエリザベス様とジョンソン伯爵様に拉致されて、ジョンソン家のお屋敷へ連れていかれた。もちろんジョンソン家の馬車でだ。
「マークよ、まずは礼を言わせてくれ。エリザベスの名誉を回復してくれたこと、本当に感謝する」
「ええ、マークがいなかったらと思うとぞっとするわ。きっと陛下も仲裁してくれなかったでしょうからね」
ジョンソン伯爵様に続いて、エリザベス様も感謝の言葉を発してくれた。無理して舞踏会に潜り込んで良かったよ(来なきゃ良かった…と後悔したのは秘密にしておこう)。
「いえ、俺のような者がお役に立てて光栄です」
「して、そなたは何故あの場にいたのだ?男爵家への招待は行われていないはずだが」
「はい、エリザベス様のことが心配だったため、恩恵管理局を通じて国王陛下からの招待状を頂きました。残念ながらニルス様の暴挙を阻止できなかったのは痛恨の極みでしたが…」
そう、そもそも断罪イベントの発生を阻止するべく乗り込んだというのに、ほんの少し目を離した(食欲に負けた)隙にイベントが発生するとは…。
「そうか、エリザベスを心配してくれたことについても礼を言わねばならんな」
「もったいないお言葉です」
「それにしてもそなたと陛下の親密さは何なのだ?まさか陛下の隠し子ではなかろうな」
「いえ、単に俺が国にとって有益な人間であると、陛下がご判断して下さっているだけでございます」
女神の使徒であることはバレていないはずだ。…だよね?
「そなたは車輪の発明者として確かに有益な存在だな。それ以外にも何かありそうだが…」
あー、石油精製や灯油ストーブ、重油による蒸気機関、ソフィアちゃんの件など思い当たる節が多すぎる。特にソフィアちゃんの【マジックバッグ生成】を成功に導いた点が大きいのだろう。
「俺は俺にできることをなしているにすぎないのです。それは今までも、そしてこれからも変わりません。その結果が国益に適うのであれば、これに勝る幸せはないと存じます」
ジョンソン伯爵様の俺を見る目が少し変わった気がした。少しだけ俺に対するリスペクトが感じられる。気のせいかもしれないけど。
「そなたは今年の4月には成人して、カーチス男爵家を出て平民の身分になるのだったな。しかし、将来は叙爵されて新たな貴族家を立ち上げる可能性も大いにあるだろう。そのときはエリザベスをもらってやってくれぬか?」
「お、お父様、何を言っているのですか。彼にはエリカ・アトキンスという婚約者がいるのですよ」
「その通りです。エリカを平民の身分に落とすわけにもいきませんので婚約を解消することになるとは思いますが、それはエリザベス様とて同様です。俺は身の丈に合った生活を送るつもりですし、叙爵されることもありませんので、今のお話は伯爵様のご冗談として受け取っておきます」
うん、貴族令嬢は俺の結婚相手としてはあり得ないんだよね。貴族と平民の身分差は大きいから相手の女性が気の毒だよ。
「うーむ、儂の人を見る目は確かだと自負しておるのだがなぁ。そなたは将来きっと叙爵されることになるだろうよ。まぁ仮定の話は置いておいて、今後も友人としてエリザベスと仲良くしてやってくれ」
「もちろんでございます。成人してからは気軽に友人などと言えなくなりますが、それまではこちらこそよろしくお願い申し上げます」
こうして長い一夜が終わった。さすがに今日は疲れたよ。




