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車輪の無い世界へ転生した男  作者: 双月 仁介
第1章 大陸暦1146年
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005 つるべとワゴン

 10歳の誕生日から一か月、様々な検証作業を行った結果、俺の【恩恵(ギフト)】である【車輪生成】の習熟度は上がっていると思う。相変わらず<滑車><キャスター><馬車の車輪>の三つしか作れないけど。

 毎日、夜に気絶するギリギリまで車輪を作り、そのあと削除してから寝るという生活を続けている。習熟度を上げることが目的だったんだけど、どうやら魔力量も増えているようだ。魔力を枯渇させると翌日に最大魔力量が増えるという異世界あるあるだな。


 今日は屋敷の裏にある井戸に来ている。

 以前依頼しておいたやぐらが出来上がったのだ。今までは(おけ)を投げ入れて手で引っ張り上げるという水くみ作業だったのを滑車を使って改善するのが目的だ。

 単なる(てい)滑車でも十分便利なんだが、小さい子供でも使えるように(どう)滑車も組み合わせてみた。水の入った桶の重さが半分になるからね。いわゆる『滑車の原理』だな。

 簡単な設計図を描いて大工さんに指示しておいたんだけど、なかなか立派なものに仕上がっているように見える。もちろん二つの滑車は俺の生成したものだ。

 すでに大工さん達は何度もテストしているみたいだけど、今日はそのお披露目なのだ。なお、動滑車からロープがはずれないようにする工夫や、桶が着水する際に横倒しになるようにする工夫などは大工さん任せだ。


 屋敷の使用人たちが見守る中、使用人の中でも最年少の女の子である9歳のメイド見習いアリスちゃんがロープを引っ張った。軽く引っ張っているようだけど、水の入った重い桶がするすると上がってくる。桶が井戸から引っ張り上げられ、櫓の下に到達すると周りから歓声が上がった。

「信じられないくらい軽いです。すごいです」

 アリスちゃんが興奮しながら感想を言うと、今度は最も年配のメイド長が試してみた。50代くらいだろうか、年齢は怖くて聞けないけど。

 空になった桶を井戸に落とし、再度水を汲むとロープを軽々と引っ張り桶の水をたらいに移した。

「今まで桶が井戸の横に当たってすぐに痛んでいたのですが、これでその心配も無くなりますね。あと、腰が痛くなることも無いでしょう」

 うん、好評だね。良かった良かった。

「マーク様、本当にありがとうございました。使用人一同を代表してお礼申し上げます」

 メイド長からのお礼は儀礼的なものではなく、心底喜んでいるようで俺も嬉しくなってくる。人の役に立つことはやはり良いものだよね。

「うん、喜んでもらえて俺も嬉しいよ」

 そう、車輪の無い世界には滑車も無かったのだよ。なんてこった。


 そして大工さんに頼んでいたものはもう一つある。

 食事の際、料理は一つずつ厨房から食堂へと運ばれるんだけど、往復する回数が多くて大変なのだ。そこで配膳用のワゴンを俺のポケットマネー(てか、お小遣い)で三台作ってもらった。底面には四つのキャスター(接地面はゴム)が付いていて、軽く押せば簡単に移動できるし、一台のワゴンで一度に六皿くらいは運べるようになったよ。

 朝昼晩の食事のたびに複数のメイドさんが何度も何度も往復するのを気の毒に思っていたんだよね。このワゴンで少しは楽ができるんじゃないかな。

 初お披露目の際に父上がメイドさんの一人に質問した。

「その動く台は何だ?ずいぶん便利そうだな」

「はい、こちらは配膳ワゴンと申しまして、マーク様のご指示のもと製作されたものと聞いております」

「ほう、マーク、それは本当か?」

「はい、台の下にキャスターという車輪を付けているので、軽く動かすことができます」

「そうか、お前の【恩恵(ギフト)】である【車輪生成】だな。なんという画期的な発明だ。それが車輪というものか」

 父上がめちゃくちゃ嬉しそうだ。母上や兄や姉も同様だ。それを見ている俺も嬉しくなってくるよ。

「井戸のつるべ?だったかな。あれも画期的な発明だったが、これも素晴らしい。製品化することを考えてみたほうが良いかもしれないな」

 うん、あの女神の望みである車輪の普及には、製品化ってのは良いかもね。


 ヒロイン候補「アリス」の登場です。

 メイド長はヒロインではありません(笑)


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