047 夏休み
エリカの家庭教師が決まった頃、すでに技術学校は夏休みに突入していたんだけど、今年も友人達との旅行が企画された。
ただ今年はソフィアちゃんも参加する。そして当然ジョセフィンさんとセシリアさんも漏れなく付いてくる。
ということは護衛のダンとマッシュなんだけど、馬車の定員的に二人は乗れないことになる。乗れるのは一人だけだね。エリザベス様に聞いたんだけど、この二人、本気の勝負をして僅差でダンが勝利したそうだ。
…ってことで御者兼護衛はダンに決定。御者が一人だけというのは負担が大きいので、俺も御者をすることになるだろうね。
あ、エリザベス様のお父上であるジョンソン伯爵様は護衛が一人だけということには納得しているよ。なにしろ本物の騎士が二人護衛に付くんだからね。
旅行メンバーは以下の通り。
・御者台:ダンとセシリアさん
・車内:エリザベス様、ビル、アンネット嬢、ソフィアちゃん、エリカ、ジョセフィンさん、アリスちゃん、俺の8名
なお、ダンと俺、セシリアさんとジョセフィンさんは御者台と車内を交代するかもしれない。あと、アリアは家(木工場)の手伝いが忙しくて、残念ながら参加できなかった。
行先はアーレイバーク男爵領になった。いつものジョンソン伯爵領は2年連続で訪れているので、もはや見るべきところがないのだ(まぁソフィアちゃんは行ったことが無いんだけど)。で、ビルと俺の家(リチャードソン子爵家とカーチス男爵家)は領地を持っていないため、消去法でアーレイバーク男爵領しかないってわけ。
「馬車の定員ギリギリで馬達の負担も大きいので、ゆっくりと行きましょう。往路が2泊3日、現地で2泊、復路も2泊3日なので、6泊7日の旅程です。御者はダンと俺が交代で務めますのでよろしくです」
俺の合図でダンが馬車を発車させた。
ソフィアちゃんは初めて乗る馬車に興味津々でめちゃ楽しそうだ。酔わないと良いんだけど。
ちなみに、護衛騎士のジョセフィンさんとセシリアさんも馬車は初めてみたいで、目を輝かせている。あ、すでに車内の全員と初対面の挨拶は済んでいるよ。
現在王都を走る馬車は初号機(うちが作って王室に献上したもの)と二号機(エリザベス様のジョンソン家のもの…今、乗っているこれ)以外にも数十台があるらしい。ただし、その全てが貴族家のものであり、一般の人が馬車に乗る機会はほとんどないのだ。つまり、乗ったことがあるのを自慢できるレベルと言って良いかな。
「馬車の発明者はなぜか秘密らしいのですが、いったいどのような方なんでしょうね?きっとご高齢の賢者みたいな人なんでしょうね」
ジョセフィンさんの言葉に顔を見合わせて苦笑する友人達。いや、秘密だから言わないでよね。
御者台と車内の間にある窓は開けているため、声が聞こえたのだろう。ダンがまた不用意な一言をぶっこんできた。
「あー、そりゃマーク坊ちゃんですぜ。いやあ、ほんと驚きですなぁ」
ダンの辞書には『口止め』という単語が存在しないようだ。まじで勘弁してくれ。
ジョセフィンさんとソフィアちゃんが驚きに目を見張っている。見えないけど御者台のセシリアさんもだろう。
「だから何度も言うけど発明者は俺じゃないってば。複数の人や業者の合作なの」
ここでエリザベス様が反論してきた。
「製造は多数の人の協力で行われたにしても、考え出したのはマークよね。ならば発明者はマークで間違いないわ」
ビルやアンネット嬢、エリカやアリスちゃんも頷いている。
「すごいすごい、マークお兄ちゃん。さすがは未来の旦那様です」
ソフィアちゃんのこの発言で車内に冷たい空気が流れた。いや、おかしいな、今まさに夏真っ盛りなんだけど…。
冷ややかな目でエリカが言った。
「マーク、どういうことかしら?あんたは私の婚約者だったはずよね?」
「いや、ちょっと待って、エリカさん。ソフィアちゃんが勝手に言ってるだけだから」
「マークお兄ちゃんはエリカ先生との婚約を解消するって言ってたよね」
はい、言いました。でも即座にエリカ自身に否定されましたが…。事情を知らないエリザベス様とビルが怪訝な顔になっている。
仕方なくここにいる人間限定で、エリカとの婚約が偽装であったことを明かした。
ビルの『リア充は死ね』という目が若干和らいだ気がする。
「何度でもいうけど、マークとの婚約は解消しません。皆さん、そのおつもりで」
「エリカ様、ずるいです。成人したら平民になるマーク様とは私のほうがふさわしいはず…」
エリカの言葉に即座に反論するアリスちゃん。いや、嬉しいけど…、嬉しいんだけど…。
「くっそー、相変わらずモテやがるなぁ、マーク坊ちゃんは」
ダンのKY発言とビルの『リア充は死ね』目線がツライ。




