046 エリカ先生
「エリカ、君に折り入ってお願いがあるんだけど…」
俺は今エリカの部屋に来ている。女の子の部屋に二人きりってのはまずいんだけど、秘密の話だし、婚約者だから良いよね。
「あんたが私にお願いって珍しいわね。断っても良いなら、聞くだけは聞いてあげるわ」
「うん、この前ソフィアちゃんの話をしたよね。彼女に魔力の訓練をしてほしいんだ」
「あ、もしかして魔力不足で『生成』できないのかしら?」
なんという勘の良さ!さすがはエリカさんだ。
「あくまでも俺の推測だけどね。この国のためにもソフィアちゃんのためにもお願いしたいんだけど」
「うーん、分かったわ。でも国のためでもソフィアって子のためでもなく、あんたのためにやってあげる。マジックバッグが欲しいんでしょう?」
「正直に言えばそうだね。無きゃ無いでも良いんだけど、貰えるなら貰いたいよね。ってそれは君も同じだろ?」
「ふふ、正直でよろしい。ま、私も欲しいんだけどね」
二人で顔を見合わせて不気味に笑う様子は、悪代官と越後屋のようだった。お主も悪よのう。
俺は恩恵管理局の人と相談して、ソフィアちゃんの今の家庭教師を解雇、代わりにエリカを家庭教師にしてもらった。エリカは特例で魔法学校の卒業資格を得たことにしてもらったよ。まだ3年生の途中だけど…。
ただエリカから一つだけ条件を提示された。それはエリカが死霊魔法師であることについて、アーレイバーク家の家族や使用人、それに二人の護衛騎士やソフィアちゃん自身が嫌がらないこと。まぁ当然だな。
でも心配はいらなかった。アーレイバーク家にいる全員が死霊魔法師に偏見を持っていなかったのだ。うち(カーチス家)と同じだね。
こうして飛び級で魔法学校を卒業したエリカは家庭教師として働くことになったわけだ。あと本来ならば来年の4月に成人なんだけど、これまた特例で成人済みにしてもらった。これは実家のアトキンス家が口出ししてくるのを防ぐ措置だね。ふふふ、抜かりは無いよ。
というわけで、俺はエリカと一緒にアーレイバーク家を訪問した。
部屋の中には俺とエリカ、アンネット嬢とソフィアちゃん、アーレイバーク男爵と奥方様、護衛騎士のジョセフィンさんとセシリアさんの総勢8名がいる。
「彼女が俺の婚約者のエリカ・アトキンスです。もっとも婚約者とは言っても便宜的なもので、彼女が特例で成人した今となっては解消する方向で進むと思いますが…」
「ただいま紹介にあずかりましたエリカ・アトキンスでございます。よろしくお願い申し上げます。一つ申し添えておきますと、マーク・カーチスとの婚約を解消する意思はございません」
あれ?おかしいな。婚約は成人までって約束だったはずなんだけど。
アーレイバーク男爵が首をひねりながら言った。
「マーク君、君はうちのアンネットと恋仲じゃなかったのか?」
「わぁーお父様、そ、それは…」
焦るアンネット嬢とそれを冷たい目で見るソフィアちゃん。なんだかカオスな状況になってきた。
情報のすり合わせを行った結果、この場にいる全員が真実に到達できたのは何よりだった。もちろんエリカの事情も明かしたよ。
「なるほどなぁ、アンネットが縁談話をそんなに嫌がっていたとは気付かなかったよ。エリカ嬢も大変だったね」
アーレイバーク男爵がしみじみとつぶやいた。
「マークお兄ちゃんには恋人がいないということなんだよね?」
「なんかもてない男みたいでその表現は心に突き刺さるんだけど、端的に言ってその通りだよ」
ソフィアちゃんは嬉しそうだけど、残りの六人はなぜかジト目になっている。
「マーク様が朴念仁であることが判明しましたが、そんなことはどうでも良いのです。エリカ様、今後はソフィア様のことをどうぞよろしくお願い申し上げます」
ジョセフィンさんが代表して話をまとめてくれたけど、朴念仁?どういうことだ?




