043 秘密の開示
結局、三日ほどでソフィアちゃんはアーレイバーク家の屋敷に戻ってきたそうだ。
そして女性の騎士が二人ほどソフィアちゃんの護衛として付いてきた。若くて美人で剣の腕も確かな人ってことだけど、王宮の本気度が伺えるね。なお、この二人の護衛騎士はアンネット嬢に紹介されたので、俺とも面識がある。
ソフィアちゃんの件はアンネット嬢と俺の二人だけの秘密(箝口令が敷かれているため)であるため、学校の中ではこそこそ隠れて会話するしかない。他の友人達にも明かせないのは心苦しいんだけど、仕方ないだろう。
ソフィアちゃんの誕生日から十数日経った昼休みの学食での食事中…。
「マーク様、最近アンネット様と怪しい関係になっていませんか?エリカ様にご報告しないといけませんね」
アリスちゃんがジト目で言った。
「俺とアンネットは単なる友人だよ。妹さんのことで相談に乗ってるだけだから」
「だったら二人でこそこそする必要はないですよね。私達にも相談して欲しいです」
そこにアリアが追い打ちをかけてきた。
「そうだよ、アンネット。あたい達親友じゃん。マーク様だけに相談するっておかしくない?」
アンネット嬢も困った様子だ。俺は少しだけ悩んだけど、思い切って言った。
「全員、今日の放課後の馬車の中で俺とアンネットの話を聞いて欲しい。でもこれは国家機密だと思ってくれ。聞きたくない者は遠慮なく申し出て欲しい」
「マーク、大丈夫?」
心配そうなアンネット嬢に俺は言った。
「責任は俺がとる。君は心配しなくて良いよ」
俺自身も友人達に隠し事をしているのが嫌なんだよ。ソフィアちゃんを守るための人員は多いほうが良いしね。それにこの友人達は全員信頼できる(と俺自身は確信している)。
その日の放課後、迎えに来たジョンソン家の馬車に友人達全員が乗車した。いつも通る道から外れて王都の外周方向へと馬車を走らせてもらい、ちょっとした自然公園みたいなところで停車してもらった。夕方なので人気はほとんどない。
御者台にいたマッシュには馬車から少し離れた位置にいてもらい、周囲を確認してから俺は話し始めた。馬車の中にいて窓ガラスも閉めているから、まず大丈夫だろう。
「それでは再度確認するけど、これから俺が話すことを聞きたくない人はマッシュのところに行っておいて欲しい」
全員が話を聞く態勢になったのを確認した俺は秘密を明かした。
「アンネットの妹のソフィアちゃんが10歳になったんだ。教会の【恩恵】の間で授かったのが超希少な【恩恵】でね。この件は王宮から他言無用を言い渡されている」
「そんな内容をここでしゃべって大丈夫なのかしら?マークが処罰されたりしない?」
エリザベス様の疑問はもっともだね。
「俺は、アンネットもだと思うけど、ここにいる全員を信頼しているよ。でも一応、誓いを立てて欲しいかな。ここで聞いた内容を家族であろうが一切他言しないという誓いを」
この要望にそって全員が誓ったのは言うまでもない。
「それではソフィアちゃんの【恩恵】を教えるよ。それは…」
「「「「それは?」」」」
「答えはCMのあと!」
・・・
…すべった。超絶すべり倒した。そもそもCMという単語が通じていないし…。
アンネット嬢も含めた全員からの冷たい視線に焦りながらも俺は答えを言った。
「ソフィアちゃんの【恩恵】は【マジックバッグ生成】だったんだよ」
「「「「!!!」」」」
全員が絶句した。そりゃそうだ。ソフィアちゃんの【恩恵】は、まさに『金の卵を産む鶏』ってことになるからね。
「それは確かに他言無用だな。聞いたことを少し後悔するレベルだぜ」
ビルの正直な感想には俺も激しく同意したい。
ここでアリスちゃんが素朴な疑問を呈した。
「あれ?なぜそれをマーク様がご存知なんですか?」
「いや、たまたま教会に居合わせたんだよ。俺はちょうどそのとき大聖堂で女神様に祈りをささげていたからね」
うん、ほとんど嘘は言っていない。『たまたま居合わせた』ってのは嘘だけど。
「ええ、本当よ。マークの祈りのせいでソフィアの【恩恵】が決まったのかと思ったくらいだもの」
アンネット嬢の言葉にちょっと挙動不審になる俺。はい、その通りです。悪いのは女神なんです。
「ふーん、まぁそういうことにしておいても良いわ。なんか怪しいんだけどね」
アリアさんや、勘の良い子は嫌いだよ。
「と、とにかくそういうわけでソフィアちゃんを気にかけてやってくれ。あと、二人ほど女性騎士が護衛に付いているけど、それも王宮の意向だから」
どこまで秘匿できるかは分からないけど、せめてソフィアちゃんが技術学校を卒業して、成人するまでは隠しておきたいよな。




