038 卒業制作①
4月に入り、俺は技術学校の3年生になった。もちろん友人達もだ。クラスは2年生のときと変わらないし、授業内容も同じなんだけど、3年生には『卒業制作』というイベントがあるらしい。
ただし、これは強制ではなく、やらなくても卒業はできる。有志(クラス横断的に)が集まってグループごとに何か一つのものを作り上げるって感じのイベントで、ちょっと楽しそうだ。
『卒業制作』の作品によっては職人としての評価を受けることもできるので、卒業後の就職活動には役立つみたいだけどね。
俺は『卒業制作』に参加したいと思っているんだけど、一応、友人達にも聞いてみた。俺自身は卒業後の就職活動はしないけど…。
「エリザベス様、『卒業制作』だけど、俺と組みませんか?」
「うーん、そうねぇ。どうしようかしら?」
「無理なら良いです」
「誰が無理だと言いましたか!仕方ないから参加してあげますわ」
「ありがとうございます」
うん、ちょろいな。
「アンネット、君にもぜひ参加して欲しいんだけどな。アリアのグループに入るならそれでも良いけどどうする?」
「木工の技能を持つ者が必要でしょう?マークのグループに入るわ」
「うん、ありがとう。助かるよ」
実際、【木工】は絶対に必要なんだよな。
「ビル、君の【裁縫】の腕を発揮してほしいんだけど…」
「もちろん、お前のグループに入るとも。あたりまえだろう?」
「そう言ってくれると思ってたよ」
よし、これで【鍛冶】【木工】【裁縫】の技能者を確保だ。てか、友人全員参加だな。
「マーク様、私は要らない子ですか?」
アリスちゃんが泣きそうな顔で俺に言った。
「まさか!アリスは最初からメンバーに組み込んでるよ。あ、もちろん他のグループから誘われていて、そっちが良ければ君の好きにして良いんだけど」
「私は常にマーク様とともにあります。当然です!」
どや顔でささやかな胸を張って宣言したアリスちゃんだったよ。でも、なんかこの子の将来が心配になるんだけど、俺の考え過ぎだろうか。
「それで何を作るつもりだい?」
ビルに質問されたけど、まだ具体的には考えていない。全員で決めれば良いんじゃないかな。
「俺の『車輪』とアリスの『ガラス』が生かせるもので、【鍛冶】【木工】【裁縫】の技能が必要なものだね」
俺の言葉にエリザベス様が言った。
「だったら、やはり馬車じゃないかしら?馬二頭立てくらいの小型の馬車なら作れるのではなくて?」
「そうですね。エリザベス様が車台を、私が外装を、ビルが内装を、マークが車輪でアリスが板ガラス。これで完成ですね」
アンネット嬢の発言に皆も頷いた。
「うん、それが無難なところかな。あ、材料費は心配しないでね。全て俺が負担するから」
「それはダメですわ。全員が等分の負担をするべきだと私は考えます。もちろんアリスの分は私が負担して差し上げますけど」
エリザベス様の発言は正論だな。たしかに俺だけが費用負担すると、皆の『卒業制作』じゃなくなってしまう気もする。さすがはエリザベス様だ。他の友人達も同意見のようだね。
「エリザベス様、私はガラスでお金を稼いでいますので大丈夫ですよ。貯金が500万エンくらいありますから」
「え?そ、そう?何気に私のお小遣いよりも多いわね。だったら、それぞれが費用を負担することに問題は無いわね」
エリザベス様がアリスちゃんの貯金額を聞いて驚いているけど、実は俺も驚いている。いつの間にそんなに貯めたの?
「計算が面倒だからとりあえずは俺が出しておいて、あとで人数で割ってから請求するよ」
俺の提案に全員が同意した。ちなみに、技術学校へ向かうジョンソン伯爵家の馬車の中での会話なので、今ここにエリカはいない。もしもエリカがいたら、仲間外れってことで拗ねちゃうと思うけどね。




