034 アンネットとアリア
夏休みもそろそろ終わりに近づいてきたある日、俺はアリアの都合を聞いたうえでアンネット嬢とともに木工場を訪れた。
「アリア、久しぶり。家の手伝いをちゃんとやってるか?」
「もちろんだよ。学校で色々習ってるからね。ほら、これなんかあたいが作ったんだよ」
無骨な形状の椅子を見せられたけど、確かに技術的には大丈夫っぽい。美術的にはどうかと思うけど。
「アリア、こっちの子は俺の友達でアンネットだ。君と同じ木工1組だから知ってるとは思うけど」
「は、はじめまして。…じゃないですね。えっとアンネット・アーレイバークです。あらためてよろしくです」
消え入りそうな声でしゃべるアンネット嬢にアリアが言った。
「お貴族様じゃん。平民のあたいじゃ恐れ多くて話せないよ」
「って、おい!俺も男爵家なんだが、忘れてるだろ」
「いやいや、マーク様は将来平民になるから良いんだよ。アンネット様はどこかの貴族家に嫁ぐはずだから将来も貴族のままじゃん」
まぁ、言われてみればその通りなんだけどな。
「あのー、貴族とか平民とか関係なく、話していただければ嬉しいのですが…」
小声ではあるけど、確たる意思をもってアンネット嬢がアリアに言った。
「不敬罪で手討ちとかにならない?」
「はい、どうか敬語無しでお願いします」
「だったら、あたいとしてもそのほうが楽なんだけどな。うん、アンネット、これからよろしくね」
にっこりと微笑んで手を差し出してきたアリアにおずおずと手を伸ばすアンネット嬢。
良かった。アリアは誰とでも仲良くなれるから、そんなに心配してなかったんだけどね。
そして、この出会いが、のちにこの工房を支える車輪の両輪となるべき大親友同士の出会いだったわけだ。人生って不思議だね。




