032 旅行
夏休みがやってきた。
技術学校に限らず、王都の全ての学校は8月中は夏季休暇になる。
俺は相変わらず馬車やリヤカーの車輪を生成し、アリスちゃんはメイドとしての職務以外に板ガラスの生成も行っている。
技術学校の貴族組はクラスが変わっても皆仲良しで、今年も馬車でエリザベス様の家の領地(ジョンソン伯爵領)へ旅行に行こうという話になった。
なお、メンバーは去年と同じで、護衛も同じだ。今年は俺が御者をしなくても良くなったけどね。
ジョンソン伯爵領へ向かう馬車の中でエリザベス様が俺に言った。
「マーク、あなた噂では『コイルスプリング付き高級ベッド』にも関わっているそうね。うちも発注しているのだけれど、順番待ちで八か月後って言われたそうよ。なんとかならないものかしら?」
久しぶりの無茶ぶりだ。うーん、そう言われても、俺は製造には関わっていないからね。
「俺は基本的に無関係だよ。まぁうちの発注しているやつがもうすぐ出来上がるけどね」
「そう…。残念ね。そして羨ましいわ。天にも昇るような寝心地らしいのよね。噂によると…」
さすがはエリザベス様だ。俺の注文したやつをうちに譲れって言わないんだから。
「おい、マーク。あれってめちゃくちゃ高価なものらしいじゃないか。まさかお前自身の稼いだ金で買ったのか?」
ビルの質問に正直に答えた。
「ああ、車輪を売った金でな。両親へのプレゼントさ」
「やっぱすごいな、お前。ところでいくらだったのか、聞いても良いか?」
「もちろん。横幅の広いダブルベッドだから、特注品としての価格で1000万エンだったよ」
「!!!」
絶句してフリーズしたビルをそのままに、俺は少し元気のないアンネット嬢へ質問した。
「アンネット、木工1組で友達はできたかい?まさか虐められてないよな」
悲しそうな顔でアンネット嬢が答えた。
「ええ、虐められているわけではないの。友達はいないけど…」
ああ、ハブられてる感じか…。何とかしてあげたくても他クラスのことだからなぁ。あ、アリアは木工1組なのかな?木工2組って可能性もあるけど。
「君のクラスにアリアって子はいないかな?もしいるならその子は俺の友達だよ」
「あ、いるわ。クラスの中心って感じで、いつも周りに友達がいるわね。私とは正反対でいつも明るい子よ」
「じゃあ、今度一緒にその子の家に遊びに行こうよ。紹介してあげるよ。ちなみに、貴族相手でも遠慮なくしゃべりかけてくるから、話しやすいと思うよ」
アンネット嬢が満面の笑みになってお礼を言い、そのあとすぐに懐疑的な表情になった。
「ありがとう、マーク。でも、私なんかが友達になれるかな?」
うん、陰キャの極みのようなアンネット嬢と陽キャの極みにいるアリアだから、どうだろうね?何とも言えないな。
「分からないな。まぁ当たって砕けろだよ」
ここでエリザベス様が発言した。
「アンネット、大丈夫よ。なぜなら、私にもクラス内に友達はいないから。友達ならここにいる皆がいれば十分よ」
ああ、エリザベス様ならそうだろうな。絶対ボッチだと確信していたよ。
「そうですよ。私も生成組の中でマーク様以外の友達はいないです。はっ、マーク様を友達って言っちゃった」
失言に焦るアリスちゃんにエリカが言った。
「大丈夫、アリスとマークは友達よ。ちなみに、私も魔法学校での友達は一人もいないわ!」
胸を張ってどや顔で宣言するエリカだけど、それで良いのか?エリカさんや。
でも、おかげで場の空気が軽くなって、アンネット嬢の表情も明るくなったよ。




