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車輪の無い世界へ転生した男  作者: 双月 仁介
第3章 大陸暦1149年
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030 バネ生成②

「親方、また来たよ。何度もごめんね」

 一日に二回も訪れることになるとは思わなかったけど、俺とエイミーさんはさっきの木工場に来ている。

「おや、マーク様、また配膳ワゴンを買った方ですか?」

 何度も無償でキャスター交換は困るな、って顔で奥のほうから親方が出てきた。

「いや、この人は希少な【バネ生成】という【恩恵(ギフト)】を持っているエイミーさん。ちょっと新製品の打ち合わせをしたくてね」

「は、は、はじめまして。エイミーと申します。私もよく分かっていないのですが、マーク様に連れられて参りました」

 エイミーさんの挨拶に親方も挨拶を返し、さっそく本題に入った。

「バネとは何でしょう?うちの製品に活用できるものなのでしょうか?」

「うん、まずはこれを見てよ」

 俺はさっきエイミーさんに作ってもらった三種類のバネを親方に見せて、その使い道を説明した。


「この『圧縮コイルバネ』はベッドのクッションとして全面に敷き詰めれば、身体の形にあった快適な寝心地を提供できるかもしれませんね。あと大型の物が作れるのならば、馬車のサスペンションにも使えるかもしれません。『ねじりコイルバネ』はうちで作っている様々な箱の(ふた)に付けると面白いかもしれませんね」

「さすが親方、現物を見ただけで色々な用途を思いつくって、さすがはプロフェッショナルだね」

「エイミーさん、あなたは今どこかの工房と契約されていますか?」

「いえ、私は長年勤めてきたアトラ商会の販売員の仕事を馘首(くび)になったばかりの無職です。次の就職先はまだ決まっておりません」

 親方は目を見開いて驚いている。そりゃそうだ。これだけの逸材が世に埋もれていたなんて驚くよね。

「もし良かったらうちに就職しませんか?仕事内容はこちらの指示通りのバネを魔力の許す限り生成すること。どうですか?」

 ちょっと待ったぁ!エイミーさんは将来的に俺の商会で雇いたいと思っているからね。ここに取られるわけにはいかないよ。

「ダメだよ、親方。あくまでもフリーランスとして、生成した分だけ報酬を得るという形にしないと…。俺と同じにね」

「ふふ、やはりダメですか。私も『言ってみただけ』ですがね。さすがにこれだけの逸材を決まった給料で働かせるわけにはいきませんよね」

 エイミーさんは就職に心が動いていたみたいだけど、フリーで契約するほうが絶対良いよ。


 その後、数日をかけて一日で生成可能な量を検証してみた。馬車用のコイルスプリングだったら5個、ベッドのクッションで使うコイルスプリングだったら50個、箱の蓋に付ける『ねじりコイルバネ』はそれこそ無数に作れるみたい。要するにサイズに反比例しているってことだね。

 不当な契約を親方がするとは思えないけど、念のため俺も立ち会って価格設定と受発注契約を行った。ちなみに、休日ではないので放課後、つまり夕方だ。

「父ちゃん、ただいまぁ。あれ?マーク様じゃん。やっほー」

「おま、お前、マーク様に何という口のきき方を…。向こうへ行ってろ」

 親方の娘さんのアリアだ。技術学校の1年生、つまり俺と同学年になる。いつもニコニコして可愛い子だけど、フレンドリー過ぎてちょっと心配になる。

「アリア、久しぶり。学校ではなかなか会えないね」

 アリアは9組で、うちのクラスとは教室がかなり離れているからね。ちなみに【木工】の【恩恵(ギフト)】を持っていて、かつ一人娘らしいので、この木工場の跡継ぎってことになるのだ。

 なお、俺とは気安く話せる仲だ。知り合い以上、友達未満ってところかな?


 アリアが住居スペースのほうに去って行ったあと、ようやく親方とエイミーさんの間の契約交渉だ。

 ひとまず馬車のサスペンションは置いておいて、高級ベッド用のコイルスプリングを毎月1000個と『ねじりコイルバネ』を毎月400個納品するという契約を結んだ。

 ベッドのマットレスには約500個のコイルスプリングを敷き詰める設計なので、月に2台のベッドを製作できることになる。

 『ねじりコイルバネ』は1個の箱に2つを使うとして200個分だね。こちらは売れ行きによっては次月以降数量が増減するかもしれない。

 納入価格は『ベッド用コイルスプリング』が1個あたり5000エン、『ねじりコイルバネ』が1個あたり500エンだ。

 今までのベッドって、貴族が買うような高級なものだと1台300万エンくらいらしいけど、新たに売り出そうとしているこの新型ベッドはコイルスプリングだけでも250万エンの原価が上乗せされる。したがって、1台あたり650万エンという従来品の2倍以上の価格で販売するそうだ。強気だな。それでも絶対に売れると親方は豪語していたけどね。

 エイミーさんには毎月520万エンが入ることになるね。うん、妥当なところだろう。


「マーク様、なんとお礼を申し上げてよいやら分かりません。これで100万エンほどあった借金も返済できますし、下宿代も払えます」

 半額の260万エンを親方から手付金として受け取ったエイミーさんが涙ぐんで言った。

「あなたの【恩恵(ギフト)】にはそれだけの価値があったってことですよ。俺は親方に紹介しただけだから」

 まぁ今回の分の紹介料は貰わないけど、その代わり将来的には馬車用のコイルスプリング(サスペンションとソファ用)を作ってもらいたいんだよね。期待しているよ。


 ヒロイン候補「アリア」の登場です。

 元気印の陽キャです。


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