025 馬車の納品
「ふむ、馬四頭とは別に馬車のみで1080万エンとな?なかなかの値段ではあるが、予想よりもはるかに安いのだな」
今日はジョンソン伯爵様からの馬車製造を受注するにあたって、伯爵邸へ価格交渉に来ているのだ。
「はっ、それではご契約いただけるということでよろしゅうございますか?」
「うむ、そうだな…。馬車の両側面に我がジョンソン家の紋章を彫り込んでくれぬか?その手間賃を含めて1200万エンを支払おう」
「ありがとうございます。さっそく職人に申し伝えます。なお、契約書につきましてはまた後日持参いたします。あと、御者の訓練につきましては、ダンさんとマッシュさんにすでに行っておりますのでご安心を」
「よろしい。それにしてもそなたと話していると子供相手ではなく、老獪な商人と話している気分になるな。カーチス家も良い子息を持ったものよ」
「恐縮でございます。それではまた後日お伺いいたします」
ふー、緊張した!
てか、予想以上の価格になって良かった。大工のおじさんには100万エンを上積みして、500万エンを支払えば良いかな?
ちなみに、馬は四頭で100万エンくらいなので、牽引訓練も込みでサービスとして付けてあげようかな。納品後にすぐに運用できるように…。我が家の利益がその分だけ減るけど、別に問題は無い。損して得取れだよ。
それにしても、あちこちを飛び回って調整して回るというこの仕事を何で俺がやってるんだろう?
何度も言うようだが、俺ってまだ12歳の子供なんですけど!
そして11月初旬、予想よりも早くジョンソン家用の馬車が完成した。サイズは初号機と同じで、四頭立ての10人乗り(車内は8人乗り)。側面にはジョンソン家の紋章が彫り込まれていて、なかなか格好良い。
出来上がった馬車の納品については、俺が御者を務めてジョンソン家を訪れた。もう顔なじみの門番さんはすぐに開門してくれたので、俺はそのまま屋敷の玄関前まで馬車を移動し、そこに停車させた。
伯爵様自ら出迎えてくれたのだが、横にはエリザベス様も立っていた。
俺は御者台から降りて二人に挨拶した。
「ジョンソン伯爵様、エリザベス様、大変お待たせいたしました。本日はご注文の馬車を納品に参りました。なお、馬四頭はこちらからのサービスでございますので、別途代金を請求することはございません」
「ほう、さすがの商才だな。客のニーズに応えるその姿勢、見事である」
良かった、勝手なことをするなって怒られなくて…。
このあと、馬車に試乗してもらい、問題ないことを確認してもらった。なお、御者はダンとマッシュが交互に務めた。
「マーク坊ちゃん、お久しぶりですな。また馬車の操車ができるようになるとは嬉しいですぜ」
ああ、ダンはジョンソン伯爵領から王都に帰る際も楽しそうに御者してたからな。マッシュもそうだったけど。
前世でもいたなぁ、車の運転が好きな人が…。
代金である1200万エンを伯爵様から頂いて、それを各職人へ分配するのも俺の役目だ。てか、今強盗にあったらどうしよう?
分配の金額は以下の通り。
・鍛冶屋のおじさん:200万エン
・大工のおじさん:500万エン
・仕立て屋のおばさん:100万エン
・革製品の業者:50万エン
・馬販売の業者:100万エン
・アリスちゃん:50万エン
・俺:100万エン
・総利益(粗利):100万エン
総利益が少ないのは馬四頭をサービスしたからなんだけど、俺の100万エンと合わせて、家に200万エンを入れれば良いだろう。
問題なく(強盗に会うこともなく)分配して回って、最後にアリスちゃんに50万エンを渡そうとした。
「マーク様、これは?」
「馬車の窓ガラスの代金だよ。遠慮せずに受け取ってよ。あ、本当は2台分を払わないといけないんだけど、1台分で勘弁してね」
そう、初号機の分は無償提供してもらったのだ。
「このような大金、受け取れません。これまでの分は無償で結構ですし、これからもマーク様のためなら無償でお作りいたします」
「いやいや、それはダメだ。労働の対価はしっかり受け取ること。でないと他の人が困ることになるからね」
頑なに拒否するアリスちゃんを何とかなだめすかして50万エンを受け取ってもらった。てか、これが今回の仕事で一番苦労した。ちなみに、メイドの給金は月に20万エンくらいだけど、アリスちゃんは未成年なので10万エンだ(見習いメイドのときは、月5万エンだったらしい)。それを考えると、50万エンは確かに大金だね。




