024 馬車製造のコーディネイト
復路は何の問題もなく、王都に帰還した。
でも、そこからが大変だった。馬車に関する問い合わせがうちの屋敷に殺到していたのだ。製造元はうちじゃないんだけど、鍛冶屋さんや大工さんを取りまとめている窓口は俺なので、仕方ないか。
エリザベス様のお父上であるジョンソン伯爵様からの馬車製造業者斡旋依頼はすでに受けているけど、王都や街道をこれ見よがしに走っていたせいで、他の貴族家や大規模商会からも問い合わせが来ているのだ。いや、よくうち(カーチス男爵家)って分かったね。てか、まだ本格的に販売してないんだけどな。
とりあえず、ジョンソン伯爵様からの依頼分をなんとか三か月くらいで完成させよう。最も難しい車輪と車軸はすぐに生成できるし、ガラス窓もアリスちゃんに頼めば何とかなる。それ以外で難しい個所は板バネくらいだし、設計図はすでにあるんだから何とかなるんじゃないかな?もっとも、まだ発注は確定事項ってわけじゃないけどね。
鍛冶屋と大工のおじさん達とも話し合って、販売価格を決めて、伯爵様との価格交渉もしなければならない。って、それを全て俺がやるの?俺ってば、まだ12歳の子供だよ。いや、それより夏休みの残りが全て仕事になりそうな予感…。い・や・だ・ぁー。
「マーク様、一か月で車台の製造ですか…。うーむ、まぁこの仕事のみだったらできなくもありませんが…」
「頼むよ、親方。ちょっと怖いお貴族様からの依頼でね。少し急ぐんだよ」
車台をモノコック構造ではなく、フレーム構造で設計しているので、まずは鍛冶屋のおじさんへ依頼する。ちなみに、『シャシ』はフランス語で『フレーム』のことだ。
「まぁほかならぬマーク様のご依頼ですからね。なんとかやってみましょう」
「ありがとう。で、価格はどうする?言い値で良いよ」
「そうですね。材料費と手間賃、うちの利益をのせて200万エンでいかがでしょう?」
おそらく少し盛ってるかな?でも俺の予想よりはかなり安いんだよな。でも一応、値切り交渉しておこう。
「うーん、相手は伯爵様だから大丈夫だとは思うけど、もう少し安くできないかな?」
「そうですね。ではギリギリのところで180万エンで」
「了解。できるだけ当初の額で納得してもらえるようにはするけど、最悪でも180万エンは保証するよ」
もしも伯爵様との間で購入契約が締結できなければ、うちで購入しても良いしね。
さて、次は大工のおじさんだ。大工と言っても正確には木工職人でいつもは家具なんかを作っているらしい。キャスター付き配膳ワゴンもここの製品だ。
木工場を訪れた俺は同様の交渉を親方と行った。
「あらかじめ外装を作っておいて、車台の納品後、それに組み込んでいく工法ですか。なるほど、時間短縮にはなりますね。それなら車台がうちに来てから一か月で出来上がるでしょう」
「うん、よろしく頼むね。それで費用なんだけど…」
「そうですね、初号機の経験から申し上げますと400万エンは頂きたいかなと思っております」
「ギリギリだとどうかな?最悪これだけは…っていう価格を提示しておいてほしいんだけど」
「分かりました。うーん、最悪350万エンは無いと赤字ですね」
「了解。できるだけ400万エンは確保するけど、最悪でも350万エンは保証するよ。あと窓ガラスの取り付けや、ソファの据え付け、馬具の取り付けなど最終調整もお願いして良いんだよね」
「もちろんです。それも含めた費用を提示しております」
そう、ここが工場の生産ラインということになるのだ。
次は仕立て屋のおばさんだ。ソファなどの内装を頼んだところだね。
「おばさん、また馬車用のソファを作って欲しいんだけど。仕様は以前のと同じだよ」
「マーク様、ご注文ありがとうございます。それで納期は?」
「うん、二か月後までに出来上がれば大丈夫だよ。納品は前と同じ木工場にお願いね。あと、価格だけど以前と同じで良いかな?」
「はい、二脚セットで100万エンでお願いします」
「分かった。それじゃ、よろしくね」
最後は革製品の業者だな。馬に取り付ける馬具や手綱などは革製だからね。
こことの交渉も以前の発注と同じなので、同じ価格である一式50万エンで発注した。
よし、これであとはアリスちゃんに板ガラスを生成してもらうだけだね。アリスちゃんには一式で50万エンで良いだろうか?
俺の車輪にも原価設定する必要があるんだけど、どうしよう?四輪(車軸付き)一式で100万エンということにしておこうかな。
全て合計すると製造原価として830万エンから900万エンということになる。利益を二割ほど乗せるとして販売価格は1000万エンから1080万エンってところかな。
おお、最初に考えた通りじゃん。我ながら読みがすごいな。




