021 魔物の襲撃
翌日、早朝に宿屋を出発した俺達の馬車は街道を快調に走行していたんだけど、ある森の横を走っていたときにそれは現れた。
街道の前方にフォレストウルフらしき魔物が、森の中から飛び出してきたのだ。狼型の魔物で一体一体はそれほど強くないんだけど、群れで狩りをする習性があり、数が多くなった場合の脅威度は跳ね上がるらしい。
護衛のダンとマッシュが即座に馬車から飛び降り、迎撃に向かった。
…っと、そのとき馬車の中から悲鳴が上がった。前方だけじゃなく後方にも群れが現れたのだ。
前方に10匹、後方には5匹ってところか。俺は愛用の木刀を手に持ち、後方へと走った。その際、皆には馬車から出ないで窓も閉めておくように言っておいた。
一人あたり5匹かぁ。ちょっとキツイな。まぁやるしかない。
俺は馬車の後方から迫ってくるフォレストウルフに木刀の切っ先を向けて牽制した。
一匹のフォレストウルフが俺に飛びかかってきたが、身体をひねってかわし、首筋に木刀を叩きつけた。まず一匹目。
残りの4匹のうち2匹が俺に、そして2匹が馬車のほうに向かった。こいつはやばいな。2匹を通してしまったけど、馬車ではなく馬のほうに向かったようだ。まぁそりゃそうか。魔物と言えど食べるための狩りなんだから獲物は馬ってことになるよな。
ダンとマッシュのほうも数が多すぎて対処できていないようだ。4頭の馬は恐慌状態になっている。暴走したらやばいな。
俺は自分の前にいる2匹に拘束されていて馬車のほうへ戻れない。うーん、詰んでる?
ところが、ここで突然フォレストウルフ達が苦しみ始めた。首を絞められているかのように口から泡を噴きながら絶命していく様は異様な光景だ。
結局、ものの1分も経たずに全てのフォレストウルフが倒された。完全勝利だ。と言っても、俺が1匹、ダンが3匹、マッシュが2匹を倒しただけで、残りの9匹は謎の死に方をしたわけだが。
馬車から降りてきた全員が安堵の溜め息をついた。
「ダンとマッシュは護衛として当然だけど、マークもよくやったわ。でも絶体絶命だった状況を逆転できたのはなぜかしら?」
エリザベス様の疑問はもっともだ。そしておそらく、答えはエリカだろうな。ただし、エリカ本人が言うのは良いけど、俺の口からは言えない。
「はぁー、皆が嫌な気分になるかと思って隠してたんだけど、私の【恩恵】は【死霊魔法】なの。今のはレイスを操ってフォレストウルフを倒したってわけ。気持ち悪いでしょう?」
「すごいですわ、ありがとうエリカさん。あなたは私達全員の命の恩人よ。気持ち悪い?そんなことを言う者はここにはいないはずよ」
エリザベス様の言葉に続いて、ビルやアンネット嬢、もちろん俺やアリスちゃんもそれに同意した。
「いやぁー助かったぜ、エリカ嬢ちゃん。護衛失敗になるとこだったぜ」
ダンの発言に続いてマッシュも言った。
「ほんとほんと、1対1を15回連続だったら負ける気はしないんだけどな。同時攻撃はさすがにさばききれなかったぜ。まじで助かった」
エリカは初めて自分の【恩恵】が他人の役に立ったことが嬉しいのだろう。少し涙ぐんでいるように見える。
俺も褒めておこうかな。
「エリカ、本当にありがとう。というかさぁ、もはや魔法師のレベルじゃないのか?」
魔法師とはその分野の魔法をほとんどマスターしている師としての称号で、一般の魔法使いは魔法士と呼ばれているのだ。
同時に9匹の魔物を倒すような魔法使いは、どう考えても魔法師だろう。




