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車輪の無い世界へ転生した男  作者: 双月 仁介
第2章 大陸暦1148年
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019 馬車

 8月中は夏休みということで、学校はお休みだ。俺は7月に誕生日を迎え、現在は12歳になっている。

 毎日リヤカー用の車輪生成に追われているのは同じだが、発注元と話し合って10日間の供給停止を納得してもらった。さすがに少しは休みたいよ。

 んで、良い機会なので友人達と旅行を計画してみた。子供達だけでというのは許可されなかったので、成人している保護者が付いてくることになったけどね。

 参加者は、俺とエリカとアリスちゃんは当然として、エリザベス様とビルとアンネット嬢も参加して六人だね。これに保護者が二名付いて総勢八名ってことになる。

 保護者は護衛も兼ねているので、エリザベス様のところから屈強なボディガードを出してもらった。


 そして、なんとこの旅には移動手段として、この世界で初となる馬車を使用する予定だ。1年前から鍛冶屋さんや大工さんと相談しながらコツコツと作り上げてきた俺の自信作だ。

 引っ張る馬は四頭で、10人は乗れる大型の馬車だよ。製作費なんだけど(本体部分は)俺の提供する車輪と相殺しているので実質無料だけど、細かい所では色々とお金がかかっている(全て俺の貯金で(まかな)っているけど)。もしも販売するとしたら、一台当たり1000万エンはもらいたいところだな(馬の費用は含めずに)。

 馬車の完成後、俺は御者としての訓練を積むとともに馬のほうの訓練も同時に行ったので、操車については全く問題ない。

 うちの屋敷に納品された馬車を見た家族全員、快適な居住性と良好な走行性能に驚いていた。車輪(ホイールは木製、接地面はゴム、車軸付き)は当然俺の生成物だし、それを板バネ(コイルスプリングを作るだけの技術が鍛冶屋さんに無かった)で支えることである程度のクッション性能を付与している。

 あと、座席は固い板ではなく、クッション性のある柔らかい素材で作っているので、長時間座っていてもお尻が痛くならないようにした。

 さらに窓には開閉可能な板ガラスをはめているので、夏は開けて、冬は閉じることで車内温度を調節できるようにしている。そう、この板ガラスはアリスちゃんの生成物だ。

 御者台は大人が三人横並びで座れるくらいの幅があり、俺が中央に両隣に護衛の人が座ることになるだろう。御者台と車内は窓を通してコミュニケーションできるようにしている。

 なお、車内は四人掛けのソファが向かい合わせに(進行方法に対して垂直に)並んでおり、その間にテーブルを設置している。


 旅の目的地はエリザベス様の発案でジョンソン伯爵領(つまり、エリザベス様の家の領地)になった。王都から馬を走らせて二日くらいという近さなので、ちょうど良い距離だね。朝早くに王都を出発して、途中の村の宿屋で一泊、その翌日の夕方には到着する予定だ。

 なお、友人達には馬などの移動手段は用意しなくて良い、当日それぞれの屋敷へ迎えに行くと伝えている。サプライズってわけだ。


 出発日、御者台に座った俺と車内のソファに座るエリカとアリスちゃんを乗せて、馬車は軽快に屋敷の門を出た。

 王都内の道は石畳で、馬車を走らせるのにちょうど良い。道幅も十分にあるので、スピードも出せる。もちろん、街中でスピードを出すなんてことはしないけどね。なお、歩行者には注意しなければいけないが、馬も頻繁に通るので歩行者は基本的に道の両端を歩いている。ほとんどの人には興味深そうに見られているけど、たまに恐怖の色を浮かべている人もいるね。多分、交通事故死した経験が魂に刻み込まれているのだろう(知らんけど)。

 ほどなくしてジョンソン伯爵家のお屋敷に到着した。門番さんに開門とエリザベス様への取次ぎをお願いしたんだけど、『ちょっと待て』と言われてしばらく放置された。門番さんが戻ってきたときにはエリザベス様ともう一人、中年の男性が一緒にやってきた。誰だろ?

「おはようございます、エリザベス様。お迎えに上がりました」

 俺は馬車を降りて、エリザベス様に朝の挨拶をした。もちろん、エリカとアリスちゃんも馬車から降りている。

「おはよう、マーク。いったいそれは何なのかしら?」

「はい、馬で引く乗り物、えっと移動手段で『馬車』と申します」

「その妙なものの中に入れと言うのかしら?」

「はい、その通りです。この馬車で旅をするつもりでございます」

 ちなみに、敬語なのは門番さんや素性の知れない中年男性が聞いているせいだ。


 そのとき、まだ挨拶していなかった中年男性が口を(はさ)んできた。

「マークとやら、(わし)はこの子の父親のグラハム・ジョンソンだ。(わし)をその馬車とやらに乗せて、庭を走らせてみてくれるか?」

「はっ、ジョンソン伯爵様でしたか。お初にお目にかかります。マーク・カーチスと申します。もちろん、お乗りください」

 門番さんに門を開けてもらい、広いジョンソン邸の庭の中を伯爵を乗せて走らせてみた。両手を組んではらはらしながらエリザベス様が見ているけど、心配することないってーの。

 伯爵様の指示に従って5分くらい走ったかな。停車の指示を受けてエリザベス様のいるところへ戻って馬車を停めた。

 馬車から降りてきた伯爵様は、冷静さを装っているけど興奮状態であることが丸わかりだ。

「マーク・カーチスよ。この馬車を譲ってくれぬか?いや、それは無理というものか。そうだな、製造元を教えてくれぬか。うちの家でも所有したいのだ。特に秋から冬にかけては絶大な威力を発揮するだろう」

「はい、承知しました。ただ本日はこれよりエリザベス様とともに伯爵様の御領地へ向かいますので、王都への帰還後でもよろしいでしょうか?」

「うむ、それで頼む。それでは護衛となるものを呼んでこよう。しばし、待て」

「お屋敷へ戻るのなら、もう一度馬車にお乗りください。お屋敷の玄関前までお送りいたします」

 ついでにエリザベス様とエリカ、アリスちゃんも一緒に乗せて、あっという間に屋敷の玄関前まで到着した。

 車内では初対面となるエリカがエリザベス様と伯爵様に挨拶しているのが、御者台の後ろの窓から聞こえてきた。アリスちゃんは挨拶しないよ。平民だからね。


 二人の護衛に御者台に座ってもらい(俺の両隣)、次はリチャードソン子爵家だ。似たようなやり取りをビルの父親とも行い、最後はアーレイバーク男爵家だ。さらに同様のやり取りを繰り返した。いちいち説明するのが次第に面倒になってきたよ。

 こうしてようやく、車内にはエリザベス様、ビル、エリカ、アンネット嬢、アリスちゃんの五人が揃った。

 俺の婚約者であるエリカの可愛さに対してビルからの『リア充死ね』波動を感じたものの、車内は(なご)やかな空気になっている。エリカのツンデレは俺限定のようで、俺以外の人には外面(そとづら)が良いのだ。この猫っかぶりめ。


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