016 入学式②
技術学校に到着した。門をくぐるとかなり大きな校舎があり、併設された各種の施設(鍛冶場や木工場など)も多くある。王都民の人口が約10万人、そのうち満年齢で12歳から14歳の占める人数が約5千人らしい。その中の四割が商業学校、三割が技術学校、二割が武術学校、一割が魔法学校という割合になっている。
なので、技術学校には1500人くらいが通うし、一学年あたりは500人ってところだ。今年の新入生もだいたいそのくらいの人数みたいだね。
俺以外にも貴族がいるかな?まぁどうでも良いんだけど、全ての学校の中では貴族も平民も無く、平等に扱われるというのが建前だ。だからさっきのジャイア君とのやり取りはグレーゾーンだな。厳密に言えば、学校の外だから全く問題ないわけだが。
戸籍に従ってあらかじめ各家に通達されていた自分の学籍番号によって、掲示板に貼りだされている学籍番号と教室の割り当て表を探していく。
クラスは一学年あたり10組あって、俺とアリスちゃんは3組だった。同じクラスで良かったよ。
1年生の時点では読み書き・計算が授業のメインなので、それぞれの【恩恵】の違いは考慮されない。2年生以降は【恩恵】によるクラス分けを行い、【恩恵】ごとの専門的な内容を学ぶことになる。俺の【車輪生成】はボッチ確定なんだけど、どこのクラスに所属することになるのかな?まぁ、来年以降の話だけどね。
割り当てられた教室に入って待機していると、担任の先生がやってきて講堂のほうに移動すると告げた。入学式だな。
ぞろぞろと教室を出て講堂へと歩く大集団。移動だけでも一苦労だよ。
学校の規模にふさわしく講堂も大きかった。ただし、在校生は休校日で、講堂にいるのは新入生だけだ。魔法学校なんかだと規模が小さいから在校生も入学式に出るみたいだけどね(ドリス姉さんが言っていた)。
校長先生が演壇に立って挨拶を始めた。大声を張り上げているけど、なかなか講堂全体には声が届かない。拡声器が無いから仕方ないね。風魔法などで声を届けるとかできないのかな?
しっかし、この時間って前世でも退屈だったけど、転生してもう一度体験することになるとは思わなかったよ。
長い長い話のあと入学式も終わり、ようやく元の教室に戻った。ここからは担任の先生によるクラスごとのホームルームだ。
机は二人用で、一つの机に椅子が二脚ある。座席は自由とのことだったので、俺はアリスちゃんと並んで座った。あー、ボッチじゃなくて本当に良かった。
「よーし、お前ら、全員席についてるな。俺がこのクラスの担任のジョージ・ハリスだ。ハリス先生と呼んでくれ」
ん?苗字があるってことは貴族出身かな?
「あー、家名を名乗っているが、貴族じゃないから安心しろ。伯爵家の五男だが、すでに家を出て平民だからな」
そう、貴族出身者は平民になっても苗字を名乗れるのだ。てか、俺と同じような立場ってことだな。
「このクラスには貴族令息や令嬢も数人いるようだが、この学校では貴族が平民を迫害すれば何らかの処分が下されるからそのつもりで。まぁ処分と言っても退学はまず無いが、停学くらいはありうるからな」
なるほどなるほど。まぁ俺が貴族の立場を笠に着て、クラスメイトを虐めるようなことはまずないけどな。いじめ、だめ、ぜったい。
このあとお決まりの自己紹介だったんだけど、(人数が多いため)名前と親の職業を言うくらいで良かったので助かった。1分間スピーチしろとか言われると困ってしまうからね。
「俺はマーク・カーチスです。男爵家の三男ですが、成人後は家を出るので平民として扱ってください。どうぞよろしく」
俺の自己紹介のあとアリスちゃんが続いた。
「私はアリスと申します。カーチス男爵家でメイドとして働いております。皆さんどうぞよろしくお願いします」
なお、男女比は半々くらいなんだが、アリスちゃんの容姿がこのクラスの上位に入るのは間違いないところだ。アリスちゃんの自己紹介を聞いた男子生徒達がさっそくメロメロになっていたよ。
あと、貴族出身はこのクラスに固めているそうだ。俺のほかにも伯爵家の三女、子爵家の次男、男爵家の次女がいたのには驚いた。アリスちゃんが虐められないように気を付けておこう。
初日は入学式とホームルームのみで授業は無い。このまま解散となるんだけど、明日からは午前に3時間、昼休み1時間、午後3時間の授業となる。給食は無いので昼食は学食か売店、もしくはお弁当持参ということになる。俺とアリスちゃんは学食を使う予定だ。
さて一応、貴族家の子供達に挨拶だけでもしておくか。今後の平穏な学校生活を送るための処世術だな。
俺は伯爵家の三女であるエリザベス・ジョンソン様のもとへ近付いた。もちろんアリスちゃんも一緒だ。
「エリザベス様、マーク・カーチスと申します。どうぞお見知りおきを」
「ああ、男爵家の。気安く話しかけてきた非礼は許してあげましょう。寛大な私に感謝するように」
うむ、典型的な貴族のご令嬢だな。まぁツンデレはエリカで慣れてるから別にムカついたりはしないよ。ちなみに、高飛車お嬢様っぽい美人でもある。
次に子爵家の次男ビル・リチャードソン様にも挨拶する。
「ビル様、マーク・カーチスと申します。今後ともよろしくお願いします」
「ああ、様なんて付けなくて良いよ。ビルと呼んでくれ。敬語もいらない。あと、僕も君のことをマークと呼んで良いかな?」
「分かった。俺のことはもちろん呼び捨てで構わない。あらためてよろしくな、ビル」
「おお、よろしく、マーク。そちらのお嬢さん、アリスさんだったかな。君もよろしくね」
「は、は、はい、ビル様。よろしくお願い申し上げます」
アリスちゃんにとっては、さすがに初対面で敬語無しは難しいだろうね。とにかく、ビルが良い奴そうで良かった。これって友達になったといって良いのだろうか。
最後に男爵家の次女であるアンネット・アーレイバーク様だ。
「アンネット様、マーク・カーチスです。どうぞよろしく」
「よ、よろしくです。呼び捨てで構いませんので」
顔を伏せて小声でしゃべるところから判断して、かなり内気なお嬢さんのようだ。自己紹介のときにも感じていたけど。
この子って貴族じゃなければ、いじめられっ子になりそうなタイプだな。できるだけ気に留めておいて、俺ができる範囲で助けてあげよう。
「アンネット、よろしくな。あと、この子はアリス。仲良くしてやって欲しい」
「うん、分かった。アリス、よろしくね」
顔を上げてアリスを見てにっこりと微笑んだアンネットは、なかなか可愛い子だったよ。
よし、初日はこんなもので良いだろう。時間はたっぷりとあるので、これからゆっくりと友達を増やしていこう。
心配なのはアリスちゃんに平民の友達ができるかってことだな。いつも俺と一緒にいるから、アリスちゃんには皆が声をかけづらいかもしれない。
さて、それじゃ帰るとするか。
俺はアリスちゃんと一緒に屋敷へと歩いて帰るのだが、貴族街区への道が同じエリザベス様、ビル、アンネット嬢も一緒に帰るか聞いてみた。なんと全員、馬に乗った従者が迎えに来るらしい。うーん、歩いて通う俺のほうが珍しいのか?
まぁ俺の場合、アリスちゃんも一緒だから歩くのは苦にならないよ。寄り道もできるしね。
ヒロイン候補「エリザベス」と「アンネット」の登場です。
前者は高飛車お嬢様、後者は内気な女の子です。