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車輪の無い世界へ転生した男  作者: 双月 仁介
第9章 大陸暦1157年
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157 帰国準備

 完全に記憶が戻った俺は、まず親方に事情を話すことにした。

 まだテトレドニア公国の首都に滞在中なので、事情を話したらすぐにマイフォーディア王国を経由して、祖国フルルーフ王国へと帰国するつもりだ。あ、騎士団長のカーライルさんにも挨拶しておいたほうが良いかな?

 宿については親方と俺で別々の部屋を借りているので、俺は親方の部屋に向かった。今日は出かけてないはずなので、部屋にいるだろう。

「親方、サムです。今ちょっと良いですかね?」

「おお、入っても良いぞ」

 義手の技術を伝授するという忙しい日々を送っているため、ちょっとお疲れ気味だ。てか、親方って歳はいくつなんだろ?

「教会に行ってきたか?」

「はい、俺の【恩恵(ギフト)】も分かりましたし、実は記憶も戻りました。俺の名前はマーク・カーチスで、フルルーフ王国の人間です」

「おお、そいつは良かったなぁ。…って、嘘つくんじゃねぇよ。マーク・カーチスってのは女神の使徒様の名前じゃねぇか」

 あ、この国にも広まってるんだ…。そりゃまぁ、教会は大陸ネットワークで繋がってるからな(アルトンヴィッヒ共和国以外は…)。てか、教会で俺の名前を出さなくて良かった…。

「あー、ソウデスネ…。名前も記憶が戻ったのも嘘ですけど、【恩恵(ギフト)】が分かったのは本当です。俺の【恩恵(ギフト)】は【車輪生成】でした」

「何だ、それ?いや、待て。聞いたことがあるぞ。馬車ってやつの車輪のことか?この国にも少しずつ増えてきているみたいだな。ほとんどはフルルーフ王国からの輸入品だが」

 そう言えば、この街でもたまに馬車を見かけるよ。帰国のとき、馬車で帰ることができれば良いなぁ。

「一つ出してみましょうか?」

 俺は一般的な馬車の車輪(木製で接地面が鉄)を車軸付きで生成してみせた。

「うおっ、驚いたぜ。たしかに車輪だな。見たことがある」

「邪魔なので消しますね」

 俺は<車輪削除>の機能を使って、生成した車輪を消した。いや、狭い部屋の中ではめっちゃ邪魔だし…。


「うーん、『車輪のマーク』って異名を聞いたことがあるぞ…。お前まさか本当にマーク・カーチスか?」

「いえ、ただの無名のマークですし、ただの平凡な人間ですよ。でも、俺は西方の国へと旅立たないといけません。助けていただいた恩を返し終えていないのにいなくなるのは本当に申し訳ないのですが、どうかこの地より親方のもとを去ることを許可していただけますか?」

 西方への旅って西遊記みたいだな。

 親方は眉間に(しわ)を寄せて、しばらく考えていた。その間、俺も黙ったまま親方の発言を待ち続けた。

(わし)が許可するようなことじゃねぇ。勝手に旅立てばよかろうよ。ただ、お前に何を持たせてやろうかと考えていたんだがな…」

 そう言うと、腰に付けたマジックバッグから一振りの剣を取り出した。

「まず剣は絶対に必要だな。俺の打った剣の中でもこいつは最高傑作の一つと言っても過言じゃねぇ。こいつをお前にやろう」

 (さや)から抜いてみると両刃で直線的な剣だった。俺には剣の良し()しが分からないんだけど、お高いんじゃないですかね?

「あと、防具はいらんだろ?カーライルの奴から聞いたぞ。防具を付けて遅くなるよりも、速度重視で戦うスタイルだとな」

 そう言えば、(ぬし)との決戦でも防具は付けてなかったよ。冒険者の装備としては、防具無しってのは割と異様で目立っていたみたいだけど。

「もちろん、その義手は持っていけよ。お前専用に作ったもんだからな。そうだな、西方の国でも宣伝してきてくれや」

 ああ、良かった。義手を返せと言われたら拒否できなかったし、本当にありがたい。

「あとはマジックバッグを買ってやりたいところだけどな。それはさすがに無理だし、こいつを進呈することもできん。すまんな」

 親方は自分のマジックバッグを叩きながら言った。そう言えば俺の持っていたマジックバッグはどうなったんだろう?滝つぼに沈んでいるのか、川の流れに乗って海にまで到達したのか?友人達へのお土産が入っていたのになぁ。


 俺は居住まいを正して、親方にお礼を言った。

「なにからなにまで本当にありがとうございます。このご恩はいつか必ずお返し致します。命を救っていただいたことも合わせて、感謝の言葉もありません」

「いや、何、魔物暴走(スタンピード)を何とかしてくれた礼だ。こんなことじゃ、お前のやってくれたことの万分の一にもならねぇがな」

「ゴル親方に女神様の祝福がありますように」

 俺のこの言葉に親方は喜色満面となった。やはり、女神への信仰の(あつ)さはこの世界共通のものだな。


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