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車輪の無い世界へ転生した男  作者: 双月 仁介
第2章 大陸暦1148年
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015 入学式①

 魔法系の【恩恵(ギフト)】を持つのはほとんどが貴族なので、魔法学校は貴族街区(がいく)に存在する。ドリス姉さんとエリカが連れ立って屋敷を出るのは、俺とアリスちゃんが屋敷を出るかなり後になる。技術学校は平民街区にあってうちの屋敷からだと徒歩1時間、それに対して魔法学校は馬で5分程度だからだ。

「それでは行ってまいります」

「私も行ってきます」

 俺とアリスちゃんは屋敷を出る際、家族に挨拶した。なお、移動手段として馬が使えないのは、技術学校には厩舎(きゅうしゃ)が無いからだ。

「マーク、アリスをしっかり守ってやるんだぞ」

 父上から言われたのは、学校でのことと通学経路の両方だろう。少し治安の悪い地域も通ることになるので、アリスちゃんが一人で通学する羽目にならなくて良かったよ。

 なお、これもあって剣術を習ったんだけどね。そして俺の腰には木刀(木剣じゃないよ)が下げられている(真剣じゃないので()いていても問題ないのだ)。ちなみに、剣と刀の違いは両刃か片刃かってことだ(片刃の剣も存在するけど)。俺としては木剣は恥ずかしいんだけど、木刀はちょっと格好良いと思っている。前世からの感覚だけど。


「マーク、気を付けてね」

 ドリス姉さんからも心配されたけど、エリカはいつも通りだった。

「あんたは弱いんだから、危なくなったらすぐに逃げるのよ。でもアリスを置いて逃げたりしたら承知しないんだからね」

 エリカはアリスちゃんと同い年ということもあり、身分の差を超えて仲良しなのだ。

「エリカ様、ありがとうございます。私はこの身に代えてもマーク様をお守り致す所存でございます」

 いやいや、守るのは俺のほうだから。

 なお、護衛を雇うという話も出たんだけど、俺が断った。悪目立(わるめだ)ちしそうだからね。まぁ、王都の中なんだし、そうそうめったなことは起こらないだろう。…ってフラグを立てたわけじゃないよ。


 屋敷を出た俺達は(なご)やかに会話しながらゆっくりと歩いている。アリスちゃんは二人きりだと割とフレンドリーにしゃべってくれるのだ。

「マーク様、学校ではどんなことを学ぶのでしょうね」

「とりあえずは読み書きと計算だろうね」

 そう、小学校なんかの基礎的な教育機関が無いので貴族子息・息女はともかく、平民の読み書き能力(リテラシー)はこの各種学校が(にな)うのだ。もちろん、貴族子息・息女の場合は両親や家庭教師から読み書き・計算を習うのが通例で、当然俺もマスターしている。特に計算については、前世の高校程度の数学だったらなんとか覚えているよ。

「だったら大丈夫ですね。マーク様とエリカ様には本当に感謝しかありません」

 そう、アリスちゃんには俺とエリカがしっかり基礎教育を済ませているのだ。文字の読み書きと四則演算くらいだけどね。


 そうこうしているうちにすでに平民街区に入っていて、技術学校か商業学校の入学式に出席するのだろう、同い年くらいの男女が歩いているのを見かけるようになった。

「おい、そこのお前ら、どこの学校だ?」

 いきなり声をかけられたけど、挨拶も無しの無礼者に答える義理は無い。アリスちゃんはおどおどしていたけど、俺はアリスちゃんの手を引っ張って歩みを止めなかった。

「おい、聞こえないのか?この方のご質問に答えろよ」

 手下っぽい男の子二人が俺達の前に回り込んで道を(ふさ)いだ。多分同い年かな?後ろを振り向くとやはり同い年くらいの男の子が立っている。第一印象としては後ろに立っている子がジャイアン、通せんぼをした二人がスネ夫とのび太って感じだな。ドラ○もんやしずかちゃんはいないようだけど。

「君達は誰だい?」

 話が進まないので仕方なく相手してやった。

「俺はこの王都でも三本の指に入る大商会、アトラ商会の嫡男(ちゃくなん)ジャイア様だ。そっちの女の子、可愛いじゃねぇか。俺が友達になってやるよ」

 おお、名前までジャイアンっぽい。覚えやすくて良いね。

「どうする?君の意思を尊重するよ」

 一応、アリスちゃんに聞いてみた。もしかしたら好みのタイプかもしれないし、玉の輿(こし)を狙えるかもしれない。

「け、け、結構です。初対面でいきなり(おど)すようなまねをしてくる人とは友達になりたくありません」

 まさか断られるとは思ってなかったのだろう、一瞬で顔を真っ赤にしたジャイア君が怒り出した。子供だなぁ。

「おい、俺はアトラ商会の息子だぞ。将来、商売するにしても職人として働くにしても、俺の機嫌を(そこ)ねた場合、どうなっても知らないぞ」

「私は商売人にも職人にもなるつもりはありません。一生この方にお(つか)えするつもりですので」

 え?そうなの?でも『一生』とか重いし、そもそも成人後は貴族じゃなくなるから『仕える』のは無理なんだけど…。


 スネ夫とのび太がこの発言を聞いて後ずさった。うん、ジャイア君とは違って状況判断能力がそこそこあるようだね。

「お仕えする?…ってまさか、貴族かよ。いや、貴族様ですか?」

 ジャイア君も気づいたようだね。

「ああ、カーチス男爵家の三男でマークという。技術学校に入学することになったからよろしくな。それと、この子はうちのメイドのアリスだ。やはり技術学校の新入生になる。ちょっかい出すんじゃないぞ」

「は、はい!し、失礼しました。おい、行くぞ」

 ジャイア君は汗をだらだら流しながら最敬礼したあと、手下二人をせかして離れていった。逃げ足の早い奴らだ。てか、あっちの方角は商業学校かな?

「アリスちゃん、怖かったかい?君は可愛いからまた男子生徒に(から)まれるかもしれないし、できるだけ俺と一緒に行動したほうが良いかもね」

「は、はい、マーク様。ありがとうございました。これからも常に一緒ですね」

 うん?なんかニュアンス的に微妙な齟齬(そご)が生じているような気がするけど、まぁ良いか。


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