149 エリカ視点④
「マーク殿が単独で主を北方へ誘導していっただって?」
『勇者部隊』の全員に状況を説明したあとの、副部隊長イチロウさんの問い掛けだ。
これを聞いて、すぐに駆け出していこうとしたアリスを私は魔法で拘束した。
「ダメよ、アリス。あいつは誰かが来たら自死するって言ってたから…。それに、あいつは帰ってくるって言ったのよ。信じましょう」
「エリカ様、どうして!どうして止めてくれなかったんですか?マークのこと、好きじゃなかったんですか?」
アリスのこの言葉に思わずカッとなった。
「そんなわけないじゃない!止めることができたなら止めてるわよ。それに一緒に行くことも拒否されて…。もう、どうすれば良かったのよ!」
両手で顔を覆って、泣き出した私にアリスがおろおろと謝罪した。
「ご、ごめんなさい、エリカ様。マークが私じゃなくて、エリカ様に事情を伝えたことに嫉妬しました」
私と同じように、アリスとリズの目からも涙が流れ落ちている。
火魔法師のエマさんが言った。
「マーク君のことだからきっと大丈夫よ。ケロッとした顔で戻ってくると思うわよ」
「とにかく、マーク殿はここで待たずに、速やかにスターディアに帰還しろと言ったんだな?…であれば、その意思を無駄にするべきではない。我々はスターディアに戻り、すでに発生した暴走への対処を行うべきだろう」
部隊長ノブタカさんの言葉は正論なんだけど、なんだか悲しくなる。
これに『白狼』のゴロウさんが文句を言ってくれた。
「それは薄情ってものじゃねぇの?少人数でも良いから、マークが戻ってくるのを待つべきだろ」
私は毅然として言った。
「いえ、ここに人間がいること自体が、主の活動を刺激することになるかもしれません。全員で速やかに帰還すべきです。アリスとリズも分かって…」
泣きながら無理やり微笑んで伝えた言葉に、全員が絶句した様子だった。でも、これで良いのよね?マーク。
一週間かけて密林を抜け、さらにその五日後にはスターディアに帰還した私達だった。
街が魔物達に破壊し尽くされたあとじゃないかと思っていたら、そんなことはなく、マスダさんとマークの漏斗壁がうまく機能したみたい。
結局、第一波から第四波までで総数12万匹余りの魔物が襲来したらしいわ。そのほとんどが海に落ちて溺れ死んだそう。もちろん、魔物達をうまく漏斗壁へと誘導することに尽力したアリマ中将率いる連合軍の活躍も素晴らしかったそうよ。
その後、アルトンヴィッヒ共和国大統領及びスターディア市長の連名で、評議員のトキムネ・マスダ氏と連合軍司令官のアリマ中将に感謝状が贈られた。魔物暴走誘発の責任はオオムラ大佐が一身にかぶり、軍法会議を待つ間、軍刑務所に収監されたそうだ。
オオムラ大佐の事情は知らないけど、逮捕されて連行されるときに見せた表情は、晴れ晴れとしたものだったらしいわ。
そして、さらに二か月、私達はここでマークを待ち続けている。でも帰ってこない。帰ってくるって言ったのに…。嘘つき…。




