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車輪の無い世界へ転生した男  作者: 双月 仁介
第8章 大陸暦1154年
146/160

146 吹雪

 俺達『斥候隊』は、翌々日には本隊(『吹雪隊』と『直掩隊』)と合流できた。

 部隊長のノブタカさんや副部隊長のイチロウさん、『吹雪隊』隊長のエマさん、それにエリカやアリスに出会えたことでマジでホッとした。

 オオムラ大佐が勝手に編成した『特務分隊』の全滅やリズの鑑定結果など、現状で分かっている情報を全員で共有したよ。

「やはり、私達の生み出す吹雪だけが対抗手段なのね…。これは責任重大ね」

 エマさんの言葉に『吹雪隊』全員(エマさん以外の4名)が緊張した顔つきになった。

 実は、もう一つやらなければならないことがあるんだけど、誰も気付いていないみたいだし、まぁ良いか。


 その四日後、(ぬし)のもとへ戻ってきた俺達は、全員で検討したフォーメーションを敷いた。前衛に『直掩隊』、後衛に『吹雪隊』、俺達『斥候隊』は左右側面からの遊撃だ。

 なお、エリカは『直掩隊』なんだけど、一時的に『吹雪隊』に入っている。魔法師5名をすぐ近くで護衛するためだ。

 なにしろ、物理的な攻撃も魔法による攻撃も全て無効になる相手だ。攻撃をくらった場合、無事に済むとは思えない。いかに早く吹雪で活動を低下させるかにかかっているのだ。エマさん、頼みます。

 魔法の射程距離まで近付くとなると、当然(ぬし)からも視認されることになる。(ぬし)は巨大な鎌首を持ち上げて、俺達をはるか頭上から睥睨(へいげい)しているよ。まさに神のごとく…。

 『吹雪隊』の魔法師達が詠唱を始めた。水魔法師による霧の生成、火魔法師が温度低下による雪の結晶生成を行い、風魔法師がその雪を(ぬし)のほうへ吹き付ける。

 9人で訓練していたときよりは規模が小さくなっているものの、それでも立派な吹雪が生成された。

 季節は厳冬期、大陸奥地は海岸沿いよりも寒く、そこにさらに魔法による気温低下だ。一気に氷点下まで気温は低下し、吹き付けられる雪で(ぬし)の体温が奪われていく。

 (ぬし)は寒さを嫌がるように、じりじりと後退していく。


 これは成功したんじゃないか?

 ただ、問題が一つある。この位置で冬眠されると、夏になって気温が上昇した場合、再び活動が活発になるおそれがあるのだ。もともとの生息地である北方へと誰かが誘導していかなければならない。そう、誰かが…。

 寒さで動きが鈍くなっている(ぬし)は、かなり脅威度が下がっている。

 俺は回り込んで北側から近付き、できるだけ頭部に近い胴体に対し、思いっきり木刀を振りぬいた。当然、身体強化と魔力付与を使っている。それでも(うろこ)一枚を()ぐくらいしかできなかったよ。でもそれで十分だ。

 痛みによる怒りで、(ぬし)は俺のことを捕食の標的に定めたようだ。普通の状態なら、すぐに食べられてしまうだろう。しかし、今の(ぬし)は寒さで動きが鈍く、俺のほうは身体強化しているから問題はない。

 もちろん、時間制限があるため、身体強化をずっと続けることはできない。ある程度、(ぬし)から離れたら身体強化を解除して、付かず離れずで北方へと誘導していくのだ。

 また、北へ移動していけば寒さも増すため、『吹雪隊』の援護は必要なくなるだろう。一応、ここから100kmくらい北上させるつもりなんだけど、不眠不休での誘導作業になるため、俺の体力が持つかどうか、それだけが心配だな。時速5kmとして20時間か…。


 ずるずるとゆっくり北上する(ぬし)を見て、南のほうからは歓声が上がっている。それと共に誰かが号泣する声も聞こえるね。うん、エリカさんだな。

 昨日、エリカだけにはこの作戦を打ち明けていたからね。


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