145 主との戦闘
突然、オオムラ大佐が大声を上げた。
「特務分隊は集合!目標は前方の大蛇。ガソリン瓶で焼き払え!攻撃開始!」
この声に後方からバラバラと兵士達が現れた。俺達『斥候隊』メンバーの誰一人として兵士の気配に気付かなかったのは、すごいと思うよ。隠密能力に特化した部隊かな?
10名の兵士達は主に向かって近付きつつ、半数がガソリン瓶を投擲し、残り半数が火矢を放った。
ゴロウさんをはじめ、『斥候隊』全員が呆然となった。俺もだけど…。
一気に燃え上がる木々と、炎に囲まれる主…。
ただ、火力はすごいけど、あまり効いているようには見えない。主が動くたびに周りの木々が跳ね飛ばされて兵士達を襲う。主の身体にガソリンがかかっている個所もあるみたいだけど、地面にこすりつけて火を消しているようだ。てか、そもそも火が有効な攻撃手段になっていない。
10名の兵士全員が主の胃袋に収められるまで、そんなに時間はかからなかった。オオムラ大佐が信じられないといった面持ちで主を凝視している。
冷たい声でゴロウさんが発言した。
「オオムラ大佐、これはいったいどういうことなんだ?俺達に秘密にしていた『特務分隊』とやらの存在もさることながら、勝手に攻撃を開始して勝手に全滅するとは…」
「すまん。全ては俺の独断だ。ガソリンさえあれば、蛇など簡単に燃やせると思ったんだが…」
ここにきて女神の忠告(主席参謀の独断専行に注意せよ)が甦ってきたよ。てか、この事態は注意していなかった俺の責任か。
主の巨体に比べて人間などあまりにも少量の食べ物だろうけど、さすがに10人を一度に食べたせいなのか、動きは止まっている。消化のための食休みだろう。
主は先ほどより俺達の隠れている場所のほうへ近付いているんだけど、俺達を見つけてはいないのだろうか?もしくは、見つかってるけど無視されてる?
「マーク兄ちゃん、【鑑定】できたよ。ちょっと長いから紙に書き出すね」
どうやら、リズが【鑑定】に成功したようだ。怪我の功名と言うべきか?兵士達には気の毒だけど、無駄死ににならなかったのはせめてもの救いだろう。俺の死も無駄にならないと良いな。
リズの書き出した主の情報は以下の通りだ。
・名称:ギガスネーク
・種族:蛇
・属性:魔物
・年齢:120歳
・特記事項:100歳を超えるギガスネークは全ての攻撃に対する耐性を獲得する。物理耐性、火魔法耐性、水魔法耐性、風魔法耐性、土魔法耐性、毒耐性があるため、寿命以外で死ぬことは無い。なお、平均寿命は200歳である。魔物の本能で常に身体強化を発動しているため、保有魔力量が少なくなると活動は低下する。この種の活動を抑えるには、気温低下による冬眠誘発しかない。なお、繁殖期は20年に一度であり、群れを作ることは無い。繁殖のサイクルが長いため、番に出会える確率は低く、そのため絶滅危惧種でもある。
紙を回して全員が内容を確認したんだけど、これを読んだオオムラ大佐が絶望の表情になっている。先にこれが分かっていれば兵士達を死なせることもなかったからね。いや、兵士達の死によって、この情報が分かった。そう考えないと、死んだ兵士達が気の毒だな。
「とにかく、先ほどの戦闘で主の移動速度や身体能力が多少は判明した。リズの【鑑定】結果も極めて有力な情報だ。俺達はこれからすぐに南下し、『吹雪隊』や『直掩隊』と合流することにしよう。皆、いいな?」
ゴロウさんの指揮で南下を始めた俺達だった。オオムラ大佐だけは思いつめた表情になっているのが気にかかるけどね。




