144 主との遭遇
ここで『斥候隊』メンバーを確認しておこう。
隊長は『白狼』の弓士であるゴロウさん。俺とリズ。あとは風魔法師のパーティーメンバーで斥候役のフジコさん(名前から分かる通り女性だ)、水魔法師のパーティーメンバーである弓士のジロウさん、『銀翼』の剣士で2級冒険者のカズオさん、そしてオオムラ大佐だ。
冒険者ランクで言えばカズオさんのほうが3級のゴロウさんよりも上なんだけど、カズオさん自身が「柄じゃない」って辞退したのだ。
「キクちゃん、じゃなかったリズちゃんか。このペースで大丈夫かい?疲れてないか?」
ゴロウさんがリズを気にかけてくれるのはありがたいんだけど、あまり頻繁に問いかけられると他の隊員の反発を招きそうだ。
パーティーで専門の斥候職を担っている斥候役のフジコさんが案の定、苦言を呈した。
「斥候任務は過酷なのが分かっているのに、子供をメンバーに入れるなんて…」
俺はフジコさんに説明した。
「フジコさん、この子リズは自衛戦闘ができますし、体力もあります。なにより【鑑定】という特技を持っているんですよ。主の偵察には【鑑定】がきっと役に立つと思いますので、勘弁してやってください」
フジコさんは20代半ばくらいの若い女性で美人なんだけど、ちょっと困ったような顔で言った。
「いえ、不満があるわけじゃないのよ。ただ、この子が心配でね」
おっと、フジコさんもツンデレでしたか。
「フジコ姉ちゃん、おいら大丈夫だよ。足手まといにはならないからさ」
「ああ、もう可愛いんだから。ギューってしても良いかしら?」
…って、いきなりデレたよ。
俺とリズはジロウさんやカズオさんとも仲良くなり、『斥候隊』自体も順調に北上していった。
出発して三日目には暴走の第三波と遭遇したけど、そのまま見逃した。少人数では何もできないからね。
そして四日目、ついにまだ燃えていない密林へと到達した。問題はこの先だ。
主が巨体であるならば、木々が少なく開けたところにいるはずだよな。いや、生息地からある程度南下している場合、そうとも限らないか。
もう一つ疑問なのが、この先に主がいるのなら魔物暴走はもはや打ち止めになるよね?魔物達は主から逃げているわけだから北や西へも逃げるはずで、全ての魔物が南下するのは変だ。女神は億単位の暴走って言ってたけど、ここまではせいぜい10万程度の魔物しか見ていない。もちろん、その数でも十分に脅威なんだけど。
そして、ついに主に遭遇した。その第一印象は神様…。別に神々しいわけじゃないけど、とにかく巨大だったのだ。頭部だけで10トントラックくらいの大きさはあるよ。胴の長さは計測不能だけど、ざっくり100m以上はありそうだ。
自重で背骨が折れたりしないのかな?いや、全ての魔物の例に漏れず、常に身体強化状態なんだろう。移動速度や運動性能、食事量など確認したいことはたくさんあるけど、あまり近付くことはできない。
蛇にはピット器官(赤外線探知器官)があるからね。いや、この世界の蛇にも存在するかは分からないけど。
「マーク兄ちゃん、遠すぎて【鑑定】が使えないよ。もう少し近付かないとダメみたい…」
リズの言葉に、俺は『斥候隊』メンバーに言った。
「俺とリズはもう少し近付いてみます。皆さんはここから観察を続けてください。あと、俺達が発見されても無理に助けようとしないでください。皆さんの役割は『吹雪隊』に正確な情報を届けることですので…」
「いや、危険すぎる。無理に【鑑定】を使わなくても、主の様子は偵察できるだろう」
ゴロウさんの言葉にも一理あるんだよな。うーん、どうしよう?
さらに、フジコさんがゴロウさんを援護する発言をした。
「そうよ。隊長の命令なんだから、ちゃんと守りなさい。マークはどうでも良いけど、リズが危険な目に合うのはダメよ」
あ、左様ですか…。ツンデレのエリカと言動が似てるなぁ。やはり、フジコさんもツンデレ属性。




