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車輪の無い世界へ転生した男  作者: 双月 仁介
第8章 大陸暦1154年
139/160

139 森林啓開

 作戦開始日の朝、俺達連合軍一同はスターディア市民の大歓声を受けて北へと出発した。この歓声が悲鳴に変わるのも、あと(わず)かだな。それを知っている俺達は、手を振っている子供達を複雑な気持ちで眺めるのみだった。

 ちなみに、俺の背中には背負子(しょいこ)が背負われている。ただ、荷物は何もなく、人が座れるようにクッションが敷かれている。そう、これはエリカ(アヤメ)用だ。ハイジのおじいさん(おんじ)がクララを背負っているのを思い出してください。あれです。

 まだ当分は大丈夫だろうけど、歩きがつらくなったら座ってもらうよ。特に、先々密林(ジャングル)の中を進むときなんかは、常に座っていてもらって俺の背後を警戒してもらうつもりだ。いわゆる、俺の背中は預けたぞって感じかな。

「アヤメ、大丈夫かい?歩けなくなる前に言ってくれよ」

「ええ、大丈夫よ。私も少しは体力ついたんだから…」

 左様ですか、お嬢様。まぁ、それでも一日20kmは歩けないだろうな。


「サブロウ兄ちゃん、隊列がすごく長くてビックリだね」

 4、5人が横並びで歩いていて、前後の間隔が1mくらいなので、単純計算2kmくらいの長さの隊列になっているのだ。圧巻だ。

 ちなみに、俺達がいるのは最後尾から300mくらいのところだ。4級とはいえ、冒険者になってから数か月の新人だからね。なお、俺達『めがみん』は一見するとハーレムパーティーっぽいので、野郎ばかりのパーティーからは(から)まれやすいように思われるだろう。そう、実はスターディアの宿舎にいたときにすでに絡まれていたのだ。でも問題はない。なにしろ、リュウゾウジ傭兵団のおかげで(人殺しを経験したせいで)、俺も殺気の放ち方を会得(えとく)したからね。

 3級以上のベテランが絡んでくることはまず無いし、絡んでくるのはいい年をしてもまだ4級に(とど)まっている奴らくらいだ。なので、少し殺気を出して脅せばすぐに解決ですよ。


 進軍は(とどこお)りなく行われ、10日後には未開拓領域の森林入口に到達することができた。

 ここからは森(まさに密林(ジャングル)!)を切り(ひら)きながら進むことになるのだが、500km先までどれだけの日数がかかることやら…。

 そして、この場所に野営後の翌朝、司令官による訓示が行われた。俺達は幸運にも訓示が聞こえる位置に立っていたけど、後ろのほうはさっぱり聞こえないだろうな。拡声器が無いからね。

「兵士及び冒険者諸君、(わし)がこの連合軍司令官ナオノリ・アリマである。今日ここからこの大陸の歴史が変わることになるであろう。諸君の献身をおおいに期待するものである。なお、作戦の詳細は主席参謀から伝える」

 お、お(えら)いさんの訓示ってだいたい長いものだけど、この人の訓示はえらく短いな。ありがたい。

 司令官に続いて、横に立っていた中年男性が台の中央に立ち、声を張り上げた。この人が女神の言っていたやばい参謀か。

「主席参謀のオオムラだ。今、司令官閣下のお言葉にもあった通り、魔物の脅威をこの大陸から取り除くその第一歩となるのが今日この日である。大マイゼン川を北上し、約120里を踏破するのだ。そこで最低でも一日に2里、できれば3里は進みたい。森林を伐採しながらでは到底無理だと思うだろう。だが、心配するな。我々にははるか西方の国よりもたらされたガソリンなる油があるのだ。種子などから得る植物性の油や動物から得られる動物性の油とは全く異なり、可燃性の異常に高い油である。これをガラス瓶に詰めたものを森に投げ入れ、そこに火矢を放つのだ。さすれば、(またた)く間に森は燃え上がり、進撃路が啓開されることだろう」

 は?ガソリンだって?その名前からして、フルルーフ王国から持ち出されたものに間違いない。今の段階では特に使い道の無いガソリンは、王宮で厳重に管理されていたはず。どういうことだろう?王宮がその意思でアルトンヴィッヒ共和国に輸出したのか、それとも不正に持ち出されたものなのか?これは帰国したら(帰国できたら)調査が必要だな。


 でも、俺達も火に巻かれることにならないか?

 主席参謀の説明はまだ続いている。

「この冬の時期に作戦を決行した理由は二つある。一つは空気が乾燥していて火の回りが早いこと。もう一つは今の時期の風向きが、南から北へと吹いていることだ。なお、際限なく延焼し続けるということは無いので安心してほしい。120里先には大マイゼン川が西から東へ流れているため、そこが燃え広がる火の最終ラインとなるからな。とにかく序盤は森林を焼き払い、随時焼け跡を踏み潰しながら進軍していくことになる。これで諸君らは魔物から襲われることもなく、安全に進むことができるはずだ。魔物達は焼け死ぬか、北へ逃げるかしかないからな」

 主席参謀のこの言葉のあと、すでに用意していたのだろう。一部隊が森の入口からガラス瓶を投擲(とうてき)し始めた。その行為をしばらく続けたあと、次は先端に火が(とも)された矢を(つが)えた兵達が一斉に火矢を放った。

 気化していたガソリンに引火した瞬間はまさに爆発的なものだった。轟音とともに燃え上がる森に兵士や冒険者から大歓声が上がった。

 うわぁ、まじかよ。地球温暖化…。

 二酸化炭素を盛大に排出しながら燃え上がる森林を見て、ちょっと呆然としてしまったよ。これは(ぬし)様も怒るよな。


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