表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
車輪の無い世界へ転生した男  作者: 双月 仁介
第7章 大陸暦1153年
133/160

133 魔物の研究者

 それにしても最初に聞いた話からどんどん変わっていくよね。

 最初は、アフリカで野生動物の保護活動を行う保安官のように、魔物を守るのが俺の使命だと思っていた。それが魔物と人間の間で全面戦争になって双方に被害が生じるって話になった。

 直近では魔物暴走(スタンピード)による人間側の被害の懸念が強調されている。いくら未来は不確定だと言っても(本筋は変わってないとしても)色々と変わり過ぎだよ。

 やはり、あの女神は「全知全能」には程遠いみたい…。実は、分かっていて楽しんでいるという可能性もあるけど…。


 今、俺はトキムネ・マスダと名乗る人物の後ろを歩きながら、マスダ氏の事務所に向かっている。

 リズ(キク)が俺の服の袖を引いて、こっそりと言った。

「サブロウ兄ちゃん、あのおじさん、パライソ王国の王家の親戚みたいだよ。【鑑定】を信じるならだけど」

 ああ、やっぱりか。見た目的にも完璧な日本人だしな。


「ここだ。遠慮せずに入ってくれたまえ」

 招き入れられたのは、レンガ造りの建物の2階にあるこじんまりとした部屋だった。応接セットの椅子を勧められ、俺達四人が着席すると、一人の女性がお茶とお菓子を出してくれた。

「私の秘書をやっている女性だ。実は私の娘なんだがね」

「レイコ・マスダと申します。お見知りおきを」

 20代後半から30代前半ってところかな?ちょっと和風な黒髪美人だ。

 俺はあらためて自己紹介を行った。

「サブロウと申します。4級の冒険者で、パーティー名『めがみん』のリーダーをやっています」

 俺に続き、女性陣も自己紹介を始めた。

「アヤメです。同じく4級冒険者で魔法師です」

「ボタンと申します。格闘家です」

「キクだよ。サブロウ兄ちゃんの弟子です」


「こちらもあらためて自己紹介させてもらうよ。この国の評議員をやっているトキムネ・マスダだ。もともとは魔物の生態を研究する研究者だったんだがね。なお、パライソ王国初代国王であるトキサダ・マスダが私の遠い祖先ということになる。あと、これは本当にどうでも良いけど、私の容姿は先祖返りらしいよ」

「そうですか。それはお会いできて光栄です。ところで、さっそくですが未開拓領域への侵攻作戦を中止に追い込むのは、やはり難しいのでしょうか?」

「難しいな。連合軍司令官を説得して一時的に中止しても、その者が更迭(こうてつ)されてから別の者が司令官になるだけだ。それは国家元首にしても同じことで、大統領を説得して作戦を中止させたとしても、結局は先延ばしになるだけだろう。民主主義というのはえてして衆愚政治になりがちだが、結局は大多数の国民が侵攻作戦を望んでいる以上、それを完全に中止することは難しいんだよ」

「あなたは国民の意識を変えるために、街頭演説をしているのですね?」

「若いのによく見ている。君達のような人間が多数派になれば、侵攻作戦は中止になると思うんだがね」

 やはり作戦の中止は無理か。


「魔物の研究者とおっしゃいましたね。魔物暴走(スタンピード)が発生する原因というか、引き鉄(トリガー)となる行為をご存知ですか?」

 それが明確なら、侵攻部隊の中でその行為を妨害して、魔物暴走(スタンピード)が起こるのを止められるかもしれない。

「はっきりとは分かっていない。ただ…」

「ただ?」

「私自身の仮説はある。魔物に人間をどうこうする意思など無い。彼らは食物連鎖の頂点に位置する何らかの存在から逃げ出そうとすることで、結果的に魔物暴走(スタンピード)になるのだと考えている」

 なるほど。たしかに昆虫じゃないんだから、(はち)(あり)のような社会性(集団を一つの種の意思とする)は無いよな。普通の動物やトカゲなんかが集団行動するってのは違和感がある。もちろん、ある程度の群れは作るとしても、個々を犠牲にして集団に貢献するというのはおかしい。

「食物連鎖の頂点とはどのような存在だとお思いですか?」

「分からないな。肉食で、かつ巨大であることは間違いないだろうが…」

 あ、女神の言っていた『アナコンダ』…。それが答えなのか?


「巨大な蛇というのは考えられませんか?」

「可能性はある。寒い奥地に生息して、寒さゆえに動きが鈍く、だからこそ安定した生態系を構築している。だが、人間が縄張りに入り込むことで、それを追って南下し、暖かい環境に動きが活発化する。それによって、周囲の魔物はパニックになって、南へと追われてくる。うむ、仮説としては十分に考えられることだ」

 あー、なんだかそれが正解な気がしてきたよ。でも、そうだとすると、連合軍の侵攻そのものが引き鉄(トリガー)ってことにならないか?女神も言っていたよね。魔物暴走(スタンピード)は避けられない、と。

 難しい顔で考え込む俺にマスダ氏が言った。

「実は380年前、この一帯はラトネシア皇国の領土だった。()の国の行政主体は4つの大きな島なんだが、大陸にも拠点を持っていてね。その拠点の一つがここスターディアだったんだよ。様々な文献をあたってみてもはっきりと明記されているわけではないんだが、どうやら未開拓領域への大規模調査隊が魔物暴走(スタンピード)の直前に編成されたようなんだ。まぁ、その調査隊と魔物暴走(スタンピード)との因果関係は、はっきりしていないんだがね」

 どうするのがベストな選択になるのだろう?連合軍から離脱して、スターディアの北側にバリケードを構築することに全力を(そそ)ぐべきか?それとも奥地まで行って、元凶である個体を討伐、または北方へ追い返すことに注力すべきか…。それが果たして可能なのかどうかは分からんけど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ