132 街頭演説
俺達のパーティー『めがみん』は今、船の上にいる。知り合いの『白狼』も同じ船だ。
港町サセボからスターディアへと移動している途中なのだ。どうでも良いけど、サセボには「佐世保バーガー」があるかな?と期待していたら、無かったよ。残念…。
常に陸地が視界に入っている沿岸海域を座礁に気を付けながら航行しているので、海の上でもそんなに不安はない。
で、一週間後には予定通り、スターディアに入港できたよ。
連合軍のメンバーには正規軍、冒険者問わず宿舎が用意されていて、作戦開始までそこで待機することとなる。もちろん、監禁や軟禁されているわけじゃないので、自由に街を出歩いて良いらしい。
せっかくなので、俺達四人で街歩きをすることにした。要するに、観光だね(てか、暢気だな)。
あ、首都ロデアにしてもここスターディアにしても街の名前が日本風じゃないんだけど、どうやらロデアは革命後に名前が変わったそうだ。んで、スターディアのほうはもともと東の隣国であるラトネシア皇国領だったらしい。
「ロデアも独特な文化でしたけど、ここスターディアも建物が独特ですね」
アリスの言うとおり、スターディアは日本風の文化が随所に見られるアルトンヴィッヒ共和国っぽくはない。レンガを積み上げたような建物が多くて、どこもかしこも頑丈そうだ。これは魔物の脅威を常に受けているせいなのかもしれないね。言うなれば、『三匹の子豚』のレンガの家だ。
「そうだね。…ちょっとロシアっぽい」
「ろしあ?そんな国ってありましたっけ?」
「あ、気にしないで。独り言だから」
思わずロシアって言っちゃったよ。もっとも、ロシアの都市に行ったことなんて無いんだけど。
四人で歩いていると、メインストリートの交差点の一角に30cmくらいの高さの踏み台を置いて、その上に人が立ってしゃべっているのが見えた。
「皆さん、私はここで声を大にして訴えたい。魔物の脅威と未開拓領域へ足を踏み入れることの愚かさを」
街頭演説かな?前世ではちょくちょく見かけたね。
「良いですか?我々人間の生存圏は確かに狭い。魔物達の楽園、未開拓領域を開拓したいという思いも分からなくはありません。ですが、縄張りを荒らされた魔物達がその報復を考えないと誰が言えるでしょう?」
お、良いこと言ってるよ。
「過去の悲惨な出来事に思いをはせてみてください。380年前に何があったのかを」
あれ?大昔の魔物暴走は自然発生じゃなかったの?まさかの人災だった?
「また、あの愚行を繰り返すのでしょうか?魔物暴走が起きても勇者が現れて鎮めてくれる。そう思っている方も多いでしょう。ですが、はたして今回も勇者が登場してくれるのか?私はそんな希望的観測は捨て去るべきであり、未開拓領域への侵攻は絶対にやめなければならないと、ここに強く主張するものであります」
だね。今回、勇者は登場しないよ。女神が言ってたから間違いない。
道行く人の中に、足を止めて真剣に聞く姿勢をとる人はほとんどいない。多くの人が素通りしている。立ち止まって演説を聞いているのは俺達くらいだな。
それにしても、あのおじさん、黒髪、黒目で彫りの浅いいわゆる日本人的な顔立ちだ。この世界はほとんの人が俺達も含めて西洋風な顔立ちなんだけど、ちょっと違和感があるね。まさか、日本からの転移者じゃないだろうな。
「君達、私の話を熱心に聞いてくれて感謝するよ。私はこのスターディア出身の評議員でトキムネ・マスダというものだ。君達は今の話、どう思う?」
踏み台から降りてきたマスダ氏が、いきなり俺達に話しかけてきた。久々に無視しないで話を聞いてくれる相手に出会って嬉しくなったとか、そういうのかな?
「同意します。未開拓領域へは手を出すべきではありません。魔物暴走を誘発するおそれがありますので」
俺の返答を聞いたマスダ氏は、『同士に出会った』って感じで満面の笑みになったよ。
「いやぁ、君は若いのに物事の道理がよく分かっているようだ。素晴らしい。ところで君達はこの街の出身かね?」
「いえ、俺はサブロウと言います。4級の冒険者です。この女性達はパーティーメンバーのアヤメ、ボタン、キクで、もともとは首都ロデアにいました」
「まさか、連合軍に参加しているのか?」
マスダ氏が眉を顰めているけど、その通りです。
「そうです。ただし、内部から侵攻計画を妨害するためですが…」
危険だけど、この人になら正直に言っても構わないだろう。一応、小さい声でしゃべってるけどね。
「ちょ、それは…。うーん、君達、今から私の個人事務所に来てくれないか。詳しい話を聞きたい」
「良いですよ。俺もあなたの名字には興味があります」
マスダってことは四郎さんの係累かもしれないよね。




