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車輪の無い世界へ転生した男  作者: 双月 仁介
第2章 大陸暦1148年
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013 入学直前の状況①

 今年は学校に入学する年だ。俺とメイドのアリスちゃんは技術学校に、俺の婚約者のエリカはドリス姉さんと同じ魔法学校に入学することになる。

 なお、義務教育なので、入学試験なんかは無いよ。

 俺の【恩恵(ギフト)】である【車輪生成】の習熟度は少しは上がったみたいで、<馬車の車輪>の生成時にオプションが増えた。生成時に地面すれすれに、かつ車輪が立った状態で生み出すことはできるようになっていたんだけど、増えたオプションは<回転数>という数値入力項目だった。

 ここに毎分の回転数を入力してから立てた状態で車輪を生み出すと、入れた数値によってはすごい勢いで前方へ進むのだ。部屋の中で練習する際、10を入れて試してみた(10rpm)ところ、ゆっくりと部屋の中を進みだした。その後、屋外で少し大きい数を入れて試してみた。次の仕様で生成し、屋敷を囲む石の塀に向かって走らせてみたのだが、えらいことになったよ。


・ホイール材質:木製

・接地面:ゴム

・車輪サイズ:10(単位:インチ)

・車輪幅:1(単位:インチ)

・車軸付き:ON

・車軸長:1000(単位:ミリメートル)

・回転数:2000(単位:rpm…つまり『1分間あたりの回転数』)…もちろん初期値であり、徐々に減衰していく


 1インチは2.54センチメートルなので、車輪の円周は約80センチメートル。それが毎分2000回転ということは時速に換算すると約96キロメートル/時だな。

 1メートル長の車軸の両端にある車輪が同じ回転数で回るので真っすぐに進んだ車輪は、すごい勢いで塀にぶつかってから砕け散った。ああ、木製にしておいて良かった。もっとも車軸は鉄製なので、砕け散ったのは車輪だけだ。

 これって結構な物理攻撃になるんじゃないかな?ホイールを鉄製にしたらさらに凶悪な攻撃手段になるかもしれない。

 ちょっとした魔物なら()き殺せるだろう。もちろん人間も。

 まぁ回転数を上げれば上げるほど消費する魔力も増えるみたいだから、そこまで無敵の能力ってわけでもないんだけど、弓以外の遠隔攻撃手段ができたのは良かった。

 ちなみに、弓はアレクシス兄さんから手ほどきを受けているし、剣術も父上から習っている。【恩恵(ギフト)】を持つ二人と持たない俺とでは天と地ほどに技量が違い過ぎるけど、それでもギリギリ合格点を貰えるくらいには剣と弓の技量を高めることができたよ。家族に武術系の【恩恵(ギフト)】持ちがいると、基礎的なことなら教わることができるのだ。ほんとありがたい。


 あ、ただし【車輪生成】で生成できる項目は増えていない。<滑車>と<キャスター>と<馬車の車輪>のみだ。<自転車のタイヤ>すらまだ選択できないんだけど、別に問題は無い。ホイールを鉄製にして車輪幅を細くすれば似たようなものは作れるしね。細いスポークや空気によってチューブを(ふく)らませるってことができないだけだ。

 これでリヤカーを作ってみたよ。高齢の庭師のおじさん(と言っても60代くらいかな?)が土や石、農具を運ぶのに便利だろうと思って。


・ホイール材質:木製

・接地面:鉄

・車輪サイズ:20(単位:インチ)

・車輪幅:1(単位:インチ)

・車軸付き:ON

・車軸長:1500(単位:ミリメートル)


 接地面を鉄にしたのは耐久性の問題だ。車輪幅が細いのは、車輪自体が重くなって引っ張るのに苦労しないように。

 リヤカーの製作は鍛冶屋さんにお願いした。フレームを鉄で作ってもらうためだ。車軸を付けるかどうかは迷ったんだけど、【恩恵(ギフト)】で生成される車軸にはボールベアリングというオーバーテクノロジな部品が付いているってのもあり、車軸付きで生成し、それをフレームに固定してもらった。

「坊ちゃん、これはすごいですぜ。土の入った桶や重い石が楽に運べやす。このお屋敷で働けて本当に幸せ者でごぜぇやす。(わし)の友人もこれと同じものが欲しいって言ってるんでやすが、なんとかなりませんかね?」

「あー、材料代や鍛冶職人に支払う手間賃もあるから無料(ただ)でってのは難しいけど、有料でも良いのなら大丈夫だよ」

「きっとお高いんでしょうね?」

「うーん、そうだな。鍛冶屋さんに払ったのが3万エンだったから、その値段で良いよ」

 エンはこの国の通貨で、1エンが前世の1円と同じくらいの価値だ。なんて分かりやすい。

「ええぇ?そんなに安いんで?てっきり100万エンくらいはするものと覚悟してやしたぜ」

 ちなみに、一般の平民の平均月収は30万エンくらいらしい。なので3万エンってのも特に安いわけじゃないんだけどね。


 で、結局のところ鍛冶屋のおじさんと相談して、1台10万エンで希望者に受注生産することになった。安すぎると希望者が殺到するかもしれないと庭師のおじさんに(おど)かされたためだ。俺は鍛冶屋さんにリヤカー用車輪(2個セット車軸付き)を1組4万エンで卸す。鍛冶屋さんとしては材料費や人件費、それに利益をのせてから10万エンで販売するというわけだ。まぁ、俺としてはちょっとした小遣い稼ぎになるかもしれないな…と思っていた。うん、そう思っていた過去の自分を叱りつけたい。

 口コミで広まったリヤカーの噂は、信じられない数の注文になってしまったのだ。鍛冶屋のおじさんはめちゃ喜んでいたけど、俺は毎日毎日リヤカー用の車輪を生成しては魔力枯渇で気絶しそうになっている。

 あと、大工さんからも井戸の釣瓶(つるべ)用の滑車と配膳ワゴン用のキャスターの注文も定期的に入ってくる。滑車は2個セットで1万エン、キャスターも4個セットで1万エンで卸している。毎月、平均して滑車が10組(10万エン)、キャスターが20組(20万エン)ほど注文があり、製造余力が十分にあると判断した結果だったのだが、リヤカー用車輪(2個セット車軸付き)は毎日(毎月じゃないよ!)10組以上(魔力のある限り)生成しなければならなくなった。

 なので、現在の俺の収入は毎月150万エン以上になっている。年収にすれば1800万エンだ。これって成人後に独立しても十分にやっていけるね。あ、余談だけど、この利益のほとんどは両親に渡している。小遣いはそんなに必要ないし、特に買いたいものも無いからだ。

 あと、エリカの件で両親には無理を言った自覚があるしね。


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